盗賊少女に仕込まれた俺らの使命は×××だぞ!

halsan

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骨付き肉と肉付き骨

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 ハイエナのおっさんフントが正座を始めてから数十分後のこと。

 ジューシーな肉汁の香りとともに、アージュ、ナイ、イーゼルが、台所代りにしている部屋から戻ってきた。

「できたぞ」
「今日はスペアリブだね!」

 アージュの指示に従ってローテーブルに大きな平皿をナイがどさりと置いた。
 皿には一本一本切り離されてこんがりと蒸し焼きにされた、猪のあばら肉が山盛りになっている。

「ナイねーちゃん、野菜も食うんだぞ」
 そう付け加えながら、アージュもその横に焼き野菜がこんもりと盛られた皿と、薄切りにしたパンを山積みにしたボウルを置いていった。
 その横ではいつの間にか手伝いを仕込まれたイーゼルが、それぞれの前にカップを並べ、慣れない手つきで水差しから水を注いでいる。

「あの?」
「なんだおっさん」

 フントは困ってしまった。
 なぜなら自分の前にも取り皿と水が置かれたからだ。
 
「俺も食ってもいいのか?」
「食え」
「だが……」

 フントの困惑した表情にアージュは意地悪な笑みを浮かべた。
「ハイエナハウンドの連中にも、違うもんを用意してあるから心配すんな」

 ということで夕食が開始された。
 
「美味しいわ美味しいわ!」
 と、いつものようにナイは骨肉にしゃぶりつく。

「今度はマーマレード味もいいかもね」
「そうだな。欲を言えば一晩漬けこんでおきてえな」
 などと、クラウスとアージュはいつものように冷静にスペアリブを味わっている。

 最初は骨つき肉を持ったままどうしたものかという表情を見せていたイーゼルではあったが、見よう見まねでナイがやるようにお肉にかぶりついてみる。
 するとお肉はカリッと抵抗した後に、ふにゅっと骨から離れていく。
 同時に鼻を香ばしい香りが抜け、口には甘みと塩気と旨みが広がっていく。

 ゆっくりと最初の一本を味わったイーゼルは、隣でナイがアージュに怒鳴られながら、無理やり野菜とパンと口に詰め込まれているのをちらりと見ると、一瞬身体を震わせてから、アージュに叱られないようにと、野菜とパンにも手を伸ばした。

 さて、面白いのがフントのおっさん。
 おっさんは慣れた手つきというか口付きというか、とにかく器用に牙を使って骨から肉を綺麗に引っぺがし、もりもりと食べ進めている。
 普通は肉を食べ終わったところで骨を取り皿に置き、アージュに叱られないように野菜とパンに手を伸ばすのだが、ここからこのおっさんは違った。

 おっさんは手に残った骨を使って器用に野菜とパンを串刺しにすると、これらももりもりと食べていく。
 そうして骨に残った肉の破片や肉汁が、野菜やパンとともにおっさんの腹に入ったところで、おっさんはおもむろに骨をバリバリとやりだしたのだ。
 
 骨まできれいに食べてから、フントは二本目のスペアリブを手に取り、バリバリと骨までかみ砕いている。
 その様子を熱心に見つめているのはクラウスだ。
 
「すごいねフントのおっさん。おっさんは普段から骨まで食いつくすの?」
 クラウスの目をキラキラさせた質問に、フントも姫が食事を楽しんでいる様子に気を許したのか、クラウスに笑いかけた。
「骨の固い部分は後から吐き出すのさ。俺達にとって旨いのは骨の中にある髄なんだよ」
「へえ」

 するとアージュは会話に割り込んできた。
 
「フントのおっさん、ハイエナハウンドも骨ごと獲物を食った後、骨の固い部分だけは吐き出すんだよな」
「ああ。粉々ペレットになっているけどな」
「吐き出したのはどうなるんだ?」
「放っておけば、そのうち土にかえるさ」

 思った通りだ。

 一通り食事を終え、満足そうにお腹を抱えているナイ達にデザートの果物を切ってやると、アージュはフントのおっさんに声を掛けた。
「それじゃおっさん、ハイエナハウンドにも差し入れを持っていくか」

 そう誘われて席を立ったフントは、アージュが指差した荷車の山を見て「なるほどな」と感心した。
 なぜならそこには、肉がこびりついた生の獣骨が山積にされていたからなのだ。

 フントが荷車を引き、アージュがその横を歩いていく。
 イーゼルはアージュと離れたくないのか、彼の後についている。
 但し昼と異なるのは、口の周りが肉汁でべたべたなとこだ。
 
「そしたらおっさん、段取り通り頼むよ」
「こちらこそ気を使ってもらいすまん。だが、本当にこれでいいのか?」
「問題ないさ。それじゃまた明日」
 そう言い残すと、アージュはイーゼルとともにアパートメントに帰ってしまった。
 
 荷車と残されたフントは、そっと仲間達に吠え掛けた。
 すると、廃墟からぞろぞろと大小の犬影が現れた。
 
「今日はこれを腹の足しにしろ」
 フントの小さな呼びかけに対し、直接意識が返ってくる。

「イイノカ」
「シンヨウデキルノカ」
「スゴイナコノオオキナホネハ」
「ウマソウダ」

「でな、お前らに命令がある」
 フントはハイエナハンドどもに意識を送り返す。
 
「オヤスイゴヨウダ」
「ココニハケバイイノダナ」

 フントはハイエナハウンド達の反応に満足すると、荷車の骨を草原にざっと降ろした。
 ハイエナハウンドたちは順番にそれをくわえると、フントの周りで各々リラックスしながら、まずは骨にこびりついた肉片からかじり始める。
 その様子を眺めながら、フントも小骨を一本つまむと、デザート代わりにガリガリとやりだした。
 
 今日は不思議な一日だった。
 
 人間達に見つからないように用心しながら、蟲の姫を数日間かけて探し回った。
 いつもなら警報となる、荒野に不似合いな若草の香りを追って。
 
 そうしてやっと見つけた姫は、自分達と同様に謎の魔物に襲われていた。
 それは絶望的な光景だった。
 しかしやがてそれは希望に代わった。
 なぜなら姫は魔物をやすやすと剣で切り倒したからだ。
 
 後は姫の縄張りに住まう許しを請うのみ。
 ところが孤高であると聞いていた姫は従者を引き連れていた。
 しかも我らに対し、人間の町についてくるように命じられたのだ。
 
 町に着くと、姫の従者から素晴らしい肉料理をごちそうになった。
 さらには眷族のために新鮮な肉片付きの骨を山のように用意してくれた。
 不思議なのは姫よりも従者の方が威張り散らしていたことであったが。

 従者は明朝にまた顔を出せという。
 明日は何があるのだろう。
 
 フントは小骨を噛み砕くと、ペレットを吐き出し、草むらに横になった。
 すると食事を終えたハウンド達もフントを取り囲むように集まってくる。
 群れでの眠りのときがやってくる。
 
 眠りに落ちる前にフントは思い出す。
 蟲の姫を。
 可憐でありながらも強き姫を。
 
 フントは気恥ずかしそうに一度寝がえりを打つと、群れとともにそのまま眠りに落ちた。
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