嫌われ隊長が綴る呪われ姫の冒険譚

halsan

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魔王の章

ありえない粛清

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 パーティーが始まった。
 のちに「魔王の宴」と恐れられることになるパーティーが。
 
 ジローはまず、何の躊躇ちゅうちょもなくフローレンスの貞操を奪った。

 新婚初夜に、生娘のフローレンスを隅から隅まで味わった。
 二日目はフローレンスの穴という穴全てを彼の体液でけがした。
 三日目はフローレンスにありとあらゆる奉仕を仕込んだ。
 
 彼女が呻き、嗚咽を漏らし、悲鳴を上げ、涙を流すたびに、ジローはフローレンスの耳元で囁いた。

「誰が俺をここに呼んだのだろう?」

 この呪文はフローレンスを呪縛するには十分すぎる効果を持っている。
 彼女は懺悔をするかのごとく、その身をジローに捧げ、彼が求めるままに奉仕を学び、身体を開き続けていった。

 三日間の間、欲望に溺れたジローではあるが、その心からは「フローレンスに愛されたい」という欲だけが欠落していたことに、ジロー自身が気づくことはなかった。

 権力と財力を手に入れたジローは、彼が思いつく王国運営をさっそく実施していくことにする。
 彼の頭に浮かぶのは、サラリーマン時代に読んだファンタジー小説に登場する、賢明な王が行うそれとは真逆のものばかりである。
 しかしジローは、容赦なくフローレンスを蹂躙した時と同様に、自身のアイデアに何の疑問も持つことはなかった。

 彼はまず、多くの文官を粛清した。
 しかも誰も文句を言えぬような残忍な方法で。

 プライドを振りかざすばかりの馬鹿は不要。
 命じられた職務以外に余計なことを考える秀才も不要。

 彼は用意した個室で、文官との一対一の面談を繰り返し、自らの周りに「優秀な怠け者」と「無能な怠け者」だけを残した。
 個室には入口が一か所、出口は二か所用意され、ジローの眼鏡にかなった者は右の出口から広間へと向かい、それ以外のものは無言のまま左の出口から排出された。
 なぜなら、眼鏡にかなわなかった者たちは、個室内でジロー自らの呪文で首を跳ねたから。

 一通りの面談が終わると、ジローは広間に集まった者たちに、極めてシンプルな命令を下した。
 
「ワールフラッドを繁栄させよ」

 ただそれだけ。
 大臣の任命もしない。
 国の財産目録を確認しようともしない。

 しかしさすがはジローの眼鏡にかなった者たちである。
 優秀な怠け者は、怠けたいがゆえに最小限の労力で成果を出そうと頭を使う。
 なので最も効率的な国家運営手段を起案した。
 無能な怠け者は、上長に指示されたこと以外の余計なことは一切しようとしない。
 なので彼らは起案された国家運営手段だけを愚直にこなしていった。

 つまり優秀な怠け者どもが起案する手段に無能な怠け者どもが愚直に追随することによって、これまでの政治体制を踏襲し、かつ効率的な組織を再編させたのだ。
 最後に怠け者の代表が、王座に座り彼らの議論をおもしろそうに眺めていたジローに運営案を提出した。

「ご命令につき、このように執り行います」
「合格だ。当面の財源は処刑した文官どもの財産を接収して使え」

 ジローは代表が「これでよろしいでしょうか?」と尋ねてきたら、その場で首を跳ねるつもりだった。
 しかし代表は「行います」と言い切った。
 これはジローの期待通りの回答である。

 これで国事は効率的に運営されるだろう。
 
 次にジローは軍事に手を付けた。
 彼は将軍に命令し、現有兵力一万人の全てに「バディ」を組ませた。
 それはいわゆる二人一組のコンビである。

 バディの組み方は自由とする。
 その後の命令はジローから出されてはいないが、恐らく二人一組で何らかの命令に従事することになるのだろうと、誰もが推測した。
 ならば当然仲の良い者同士でバディを組むことも多くなるであろう。

 そうした安易な推測が、彼らの不幸につながってしまうことになる。

 次々とバディが組まれ、文官によって用意された名簿に記載されていく。
 こうして全員の名前が名簿上で確定したところで、ジローは彼らを城下の平原に完全武装で集合させた。

 そうしてから彼らにこう命じたのだ。
 
「今からここでバディ同士殺しあえ」

 当然のことながら兵たちは戸惑った。
 誰よりも、ジローの前に控えている将軍と副将軍が唖然としている。
 なぜならば彼ら二人もバディを組んでいたから。

「王よ、それは何かの冗談か?」
 将軍はジローの前にあわててひざまずくと、その真意をうかがおうとする。
 しかしジローは彼を一瞥すると、こう言葉を続けたのだ。
 
「勝利の報酬は、殺した相手の棒給。敗北の罰は家族の命。さあ、殺し合え」

 王は本気だ。

 兵のすべてにジローの意思が電撃のように伝わっていく。
 それも当然のことだろう。
 なぜならば文官たちがどのように再編化されたのかを、彼らはすでに伝え聞いていたのだから。

 覚悟を決めた副将軍が、ジローの前で呆然としている将軍の背から切りかかる。
 しかし背中に殺気を感じ、それをすんでのところで避けた将軍は、振り返りざまに副将軍を返り討ちに切り捨てた。

 血に濡れた刃を持ち棒立ちとなっている将軍に、背後からジローがパチパチを手をたたきながら満面の笑顔でこう言い放った。

「おめでとう将軍、今日この場から副将軍の財産も領地も全て貴様のものだ」

 その言葉を合図に、一万人の殺し合いが始まった。
 
 その結果、実力が不明であった一万人の軍隊が、精鋭で構成された五千人の軍隊となった。
 そこにはわかりやすい兵士が残っている。

 戦闘技術など、今はどうでもいい。
 そんなものは訓練でいくらでも身に付くであろう。
 必要なのは是が非でも生きのびようとする意思、もしくは絶対に死なないという覚悟なのだ。
 
 ジローは当初の宣言通り、勝者の棒給を倍増させ、敗者の家族は皆殺しにさせた。
 しかもご丁寧に、生き残った兵達自らの手で、殺したバディの家族を処刑させたのだ。
 処刑を躊躇する兵にはジローが気づく前に将軍自らが、こう説得して回った。

「新王の元では優先順位を常に明確にしろ」
 
 つまりは、バディの家族を殺さなければ自身の家族が殺されるということ。
 
 こうして残った兵は、己の欲望に従い生きようとする兵と、家族のために何としてでも生き残ろうとする兵に二分化された。
 
 それでいい。
 その両極端な士気が、部隊に攻防一体をもたらすのだ。
 何より、これまで戦の経験がなかった兵たちが初めて手を血に染めたのだ。

 人を殺す感触を知った彼らは、これまで以上に王の軍として役立つだろう。

 ジローはほくそ笑んだ。
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