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旅立ちの章
娘の衣装
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「姫様、あれは駄目な例です」
ここは宿場街の一室。
周囲に他人の目がないので、ディアンは教師のころの口調でアリアウェットの教育を始めた。
「駄目な例」とは、彼が分隊長に施した過剰なほどの魔法のことを指す。
ディアンは続ける。
「普段は、あのように魔力を消耗してはいけません」
すると珍しくアリアウェットが何が問題なのかと不思議そうな表情で口ごたえをした。
「でも、先生楽しそうだったよ! 先生の口元もとっても気持ち悪く歪んでいたし」
やれやれとばかりにディアンは補足をする。
「あれは、周りの兵士に恐怖を叩き込み、『腐敗の報い』だと喧伝させるために、あえてあのような残虐な方法をとったのです」
「恐怖」という単語に、一瞬アリアウェットの口元が妖艶に歪んだのにディアンは気づかない。。
「とにかく、これから姫様は徐々に適正な魔法を行使する練習をしていきましょう。わかりましたか?」
「はい、先生!」
「良い返事です」
アリアウェットは元気に返事をするも、心の中はこんなありさまだ。
でも、先生楽しそうだったよね。
少しやり過ぎかなとは思いましたけれど。
末端から爆発させるのは、今度試してみましょう。
王都からここまでは、宿場を泊り歩いてきたが、ここは南端の宿場街。
この街から先は野宿が基本となる。
二人は何日かこの宿に滞在し、旅の準備をじっくり行うことにする。
ディアンは、アリアウェットの教育のことを考えると、あまり先を急ぐべきではないかもしれないとも考えていた。
二人は街着に着替えると、様々な商店の場所を確認しながら、大通りを散策していく。
ディアンは店先を覗きながら、用意する品を頭の中にリストアップを始めた。
この先に点在する開拓村で調達できる品は、せいぜい野菜あたりだけ。
肉類は狩ればいい。
香辛料をたっぷり用意すれば狩った肉の臭みも気にならないだろう。
湿地では水はいくらでも手に入る。
なので主食は乾燥豆を中心にする。
荷物の一角を占める「焼き菓子」の事を考えると、頭痛がする。
考え事をしながら歩くディアンの横で、アリアウェットは懸命にディアンの後をついていく。
店先に並ぶ様々な品々を眺めているだけでも楽しい。
「ディアン、賑やかですね」
すると、アリアウェットがディアンに話しかけたのが聞こえたのだろうか、店先に立つ店主らしきおじさんが、彼女に横から教えてくれた。
「可愛らしいお嬢さん、明日から『バザール』が開かれて、もっと賑やかになるよ。よかったら明日もおいでよ」
店主の言葉が引き金となったのか、店先のおじさんやおばさんが、気軽に彼女に声を掛けてくれる。
他にもちらちらと視線がこちらに向くのをディアンは感じ取った。
多分男どもがアリアウェットを見つめているのだろう。
女性がディアンを見つめていることはあり得ない。
なぜなら彼は女性にとって石ころかゴキブリのどちらかなのだから。
そこでディアンは悪巧みを思いついた。
そんな彼の様子に気づかないアリアウェットは、明日も街に来たいとディアンにお願いしようと、彼の横に回って彼の顔を甘えるように覗きこんだ。
「ひっ!」
彼女は思わず声を漏らしてしまう。
なぜなら、ディアンの顔に邪悪な笑みが張り付いていたから。
アリアウェットの驚きに気付いた彼は、元の表情に戻り、彼女に微笑んだ。
「そうだな、明日だけといわず、何度か通ってみようか」
宿に戻ると、ディアンは一度馬車に戻り、何かの包みを取り出してきた。
そしてそれをアリアウェットに押し付ける。
「それを着てみろ」
アリアウェットは怪訝そうな顔をして袋の中身を覗き込み、驚きながらも頬を綻ばせた。
それは、王都の衣料品店で、女性店員さんに似合うと褒められた薄紅色のドレスと、ドレスに合わせたサンダルの一式。
これは店で店員がディアンに「彼女にどうしても纏ってほしい」と、半ば強引に売りつけられた品だった。
彼女は洗面所で早速着替えてみる。
「ほう……」
その姿はアリアウェットに全く興味のないディアンすら、ため息をつき、一瞬見とれるほど。
だが彼は冷静さを失わない。
「胸元がちょっとさびしいな。姫様、フローレンス様の形見の宝石箱を持ってきてみな」
宝石箱の存在は、彼女からディアンに説明してあった。
そのときは、彼は何の興味も示さず、「お前の財産だから、お前が大事に持っていろ」とそっけなく扱われた形見だ。
彼女はディアンの勝手さにちょっと腹を立てながらも、特に二番目の意識がわくわくしながら、宝石箱を自分の荷物の奥底から取り出し、テーブルに置いた。
宝石箱の蓋をぞんざいに開くディアン。
すると箱の中からむせかえるような魔力が湧きあがる。
この中には相当高級な宝石や魔石もあるのだろう。
多分高価な魔道具なども。
だが、今回の目的はこうした目立つ品ではない。
ディアンは箱の中から、あえて魔力を感じない品物を選ぶ。
そこで見つけたのが白銀のチョーカー。
じっくりと鑑定すれば、それはプラチナ製で、その細工も超一流とされる逸品だとわかる。
当然ながら街娘が気軽に身につけるような代物ではない。
しかし、ぱっと見た感じは銀製の装具にしか見えない。
これなら高級すぎて、街のスリやら盗賊やらも、真の価値がわからないであろう。
そのチョーカーは、アリアウェットにとっても、とても懐かしいような感じがする。
「姫様、これをつけてみるか?」
ディアンの提案に、彼女は破顔した。
「いいのですか?」
「ああ、これはお前のものだしな」
そう言いながら、ディアンはアリアウェットの後ろに回り、やさしくその首にチョーカーを巻いてやる。
その間、彼女は照れ臭そうに頬を染めている。
「うん、いいアクセントだ。ほら、鏡を見てみろ」
差し出された鏡に映し出される自分自身の姿に、アリアウェットはしばし見入った。
その後ディアンはアリアウェットと連れだって、宿の主人のところに食事の予約との名目で出向いた。
しかし本当の目的は主人の反応を見ること。
はたして、主人はアリアウェットの姿に、呆然としながら一言ため息を漏らした。
「ほう、これは可憐な」
よし、準備は万端。
部屋に戻ると、ディアンはさらにアリアウェットを喜ばせた。
「明日、宿の娘の案内で、新しい服を買いに行こう」
ここは宿場街の一室。
周囲に他人の目がないので、ディアンは教師のころの口調でアリアウェットの教育を始めた。
「駄目な例」とは、彼が分隊長に施した過剰なほどの魔法のことを指す。
ディアンは続ける。
「普段は、あのように魔力を消耗してはいけません」
すると珍しくアリアウェットが何が問題なのかと不思議そうな表情で口ごたえをした。
「でも、先生楽しそうだったよ! 先生の口元もとっても気持ち悪く歪んでいたし」
やれやれとばかりにディアンは補足をする。
「あれは、周りの兵士に恐怖を叩き込み、『腐敗の報い』だと喧伝させるために、あえてあのような残虐な方法をとったのです」
「恐怖」という単語に、一瞬アリアウェットの口元が妖艶に歪んだのにディアンは気づかない。。
「とにかく、これから姫様は徐々に適正な魔法を行使する練習をしていきましょう。わかりましたか?」
「はい、先生!」
「良い返事です」
アリアウェットは元気に返事をするも、心の中はこんなありさまだ。
でも、先生楽しそうだったよね。
少しやり過ぎかなとは思いましたけれど。
末端から爆発させるのは、今度試してみましょう。
王都からここまでは、宿場を泊り歩いてきたが、ここは南端の宿場街。
この街から先は野宿が基本となる。
二人は何日かこの宿に滞在し、旅の準備をじっくり行うことにする。
ディアンは、アリアウェットの教育のことを考えると、あまり先を急ぐべきではないかもしれないとも考えていた。
二人は街着に着替えると、様々な商店の場所を確認しながら、大通りを散策していく。
ディアンは店先を覗きながら、用意する品を頭の中にリストアップを始めた。
この先に点在する開拓村で調達できる品は、せいぜい野菜あたりだけ。
肉類は狩ればいい。
香辛料をたっぷり用意すれば狩った肉の臭みも気にならないだろう。
湿地では水はいくらでも手に入る。
なので主食は乾燥豆を中心にする。
荷物の一角を占める「焼き菓子」の事を考えると、頭痛がする。
考え事をしながら歩くディアンの横で、アリアウェットは懸命にディアンの後をついていく。
店先に並ぶ様々な品々を眺めているだけでも楽しい。
「ディアン、賑やかですね」
すると、アリアウェットがディアンに話しかけたのが聞こえたのだろうか、店先に立つ店主らしきおじさんが、彼女に横から教えてくれた。
「可愛らしいお嬢さん、明日から『バザール』が開かれて、もっと賑やかになるよ。よかったら明日もおいでよ」
店主の言葉が引き金となったのか、店先のおじさんやおばさんが、気軽に彼女に声を掛けてくれる。
他にもちらちらと視線がこちらに向くのをディアンは感じ取った。
多分男どもがアリアウェットを見つめているのだろう。
女性がディアンを見つめていることはあり得ない。
なぜなら彼は女性にとって石ころかゴキブリのどちらかなのだから。
そこでディアンは悪巧みを思いついた。
そんな彼の様子に気づかないアリアウェットは、明日も街に来たいとディアンにお願いしようと、彼の横に回って彼の顔を甘えるように覗きこんだ。
「ひっ!」
彼女は思わず声を漏らしてしまう。
なぜなら、ディアンの顔に邪悪な笑みが張り付いていたから。
アリアウェットの驚きに気付いた彼は、元の表情に戻り、彼女に微笑んだ。
「そうだな、明日だけといわず、何度か通ってみようか」
宿に戻ると、ディアンは一度馬車に戻り、何かの包みを取り出してきた。
そしてそれをアリアウェットに押し付ける。
「それを着てみろ」
アリアウェットは怪訝そうな顔をして袋の中身を覗き込み、驚きながらも頬を綻ばせた。
それは、王都の衣料品店で、女性店員さんに似合うと褒められた薄紅色のドレスと、ドレスに合わせたサンダルの一式。
これは店で店員がディアンに「彼女にどうしても纏ってほしい」と、半ば強引に売りつけられた品だった。
彼女は洗面所で早速着替えてみる。
「ほう……」
その姿はアリアウェットに全く興味のないディアンすら、ため息をつき、一瞬見とれるほど。
だが彼は冷静さを失わない。
「胸元がちょっとさびしいな。姫様、フローレンス様の形見の宝石箱を持ってきてみな」
宝石箱の存在は、彼女からディアンに説明してあった。
そのときは、彼は何の興味も示さず、「お前の財産だから、お前が大事に持っていろ」とそっけなく扱われた形見だ。
彼女はディアンの勝手さにちょっと腹を立てながらも、特に二番目の意識がわくわくしながら、宝石箱を自分の荷物の奥底から取り出し、テーブルに置いた。
宝石箱の蓋をぞんざいに開くディアン。
すると箱の中からむせかえるような魔力が湧きあがる。
この中には相当高級な宝石や魔石もあるのだろう。
多分高価な魔道具なども。
だが、今回の目的はこうした目立つ品ではない。
ディアンは箱の中から、あえて魔力を感じない品物を選ぶ。
そこで見つけたのが白銀のチョーカー。
じっくりと鑑定すれば、それはプラチナ製で、その細工も超一流とされる逸品だとわかる。
当然ながら街娘が気軽に身につけるような代物ではない。
しかし、ぱっと見た感じは銀製の装具にしか見えない。
これなら高級すぎて、街のスリやら盗賊やらも、真の価値がわからないであろう。
そのチョーカーは、アリアウェットにとっても、とても懐かしいような感じがする。
「姫様、これをつけてみるか?」
ディアンの提案に、彼女は破顔した。
「いいのですか?」
「ああ、これはお前のものだしな」
そう言いながら、ディアンはアリアウェットの後ろに回り、やさしくその首にチョーカーを巻いてやる。
その間、彼女は照れ臭そうに頬を染めている。
「うん、いいアクセントだ。ほら、鏡を見てみろ」
差し出された鏡に映し出される自分自身の姿に、アリアウェットはしばし見入った。
その後ディアンはアリアウェットと連れだって、宿の主人のところに食事の予約との名目で出向いた。
しかし本当の目的は主人の反応を見ること。
はたして、主人はアリアウェットの姿に、呆然としながら一言ため息を漏らした。
「ほう、これは可憐な」
よし、準備は万端。
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