63 / 147
嵐の国の章
旧友
しおりを挟む
将軍ダンカン。
ワールストーム王国軍のトップにして、王位継承権第三位の男。
ディアンが彼に会ったのは三年前にさかのぼる。
ダンカンは、ワールストーム王による魔王訪問の護衛として、ワールフラッド王国を訪れた。
そう、ダンカンが「首を焼き切る魔法」に接したのはこのときである。
閃光が全ての者の視界を奪い、しばらくの後、視力を取り戻した時に彼が最初に目の当たりにしたもの。
それは首と胴を綺麗に焼き切られた魔王の部下であった。
魔王はワールストーム王一行の前で、些細なミスを犯した部下の首を余興とばかりに焼き切って見せたのだ。
ワールフラッドの魔王直属の親衛隊長であったディアンと、ワールストーム軍最高位のダンカン。
儀礼上は同格であった彼らは何故か気が合い、訪問二日目には共に城を抜け出し、ディアンの案内で街の娼館を遊び歩いた。
「ワールフラッドには良い店があるな!」
「もっと良い店があるぜ! さあ行こう!」
彼ら二人はワールストーム王の滞在期間中に、互いに最高の飲み友達となっていた。
ダンカンは酔ってディアンに尋ねたものだ。
「貴様のところの魔王は、貴様が遊び歩くのを許すのか?」
「許すわけないだろう。明日も俺は魔王に焼かれるぜ」
ダンカンは笑った。
ディアンも笑った。
ダンカンは魔王とディアンの関係がうらやましそうだった。
なぜなら、ワールストーム王は魔王との会談後、その滞在期間のほとんどを国賓室に引きこもって震えながら過ごしたのから。
王座から「ディアンよ、この将軍を籠絡してこい!」と豪快に笑いながら自らの親衛隊長に言い放った魔王とは正反対だったのだ。
ディアンは一旦昔話を打ち切った。
「で、ダンカン、俺の連れは誰だと思う?」
「姫様だろ」
ダンカンは即答する。
「何故そう思う?」
「まずは彼女の名前。姫様の成長については、お前の若返りを見れば、逆に成長もありだと思うさ。それに彼女が披露した宮廷儀礼な、ありゃ筋金入りの王家の作法だ」
あまりにも的確なダンカンの指摘に、ディアンは顔をしかめてしまう。
するとその表情を見てダンカンが笑う。
「どうやら正解だったようだな」
彼はディアンに勝ち誇って見せた。
「まあ、魔王のアホみたいな魔力を継いでいる者がいるとしたら、アリアウェット姫くらいしかいないだろうなと推測はしたけどな。今の貴様の表情で確信したよ。ブラフに引っ掛かったのは貴様だからな。ディアン」
ふん。
「まあ、どのみち貴様にはばれるだろうと思っていたけどな。ところで、異常な殺され方の七首竜ってなんだ?」
負け惜しみの後、ディアンは彼らが関係していないであろう事件に話題を変えた。
しかし実はその事件にも彼らは関係していた。
正確には彼女だけだが。
「その七首竜はな、七つの首が、それはそれは見事に焼き切られていたそうだ。あれもお前らだろう?」
ダンカンの言葉にディアンは思わず頭を抱えてしまう。
あの馬鹿姫はディアンの言いつけを破って爆焔首輪七連発を七首竜にお見舞いしたのだろう。
七首竜の死体を残すと、後から発見者共に色々と詮索されるだろうと彼は考え、アリアウェットには七首竜に出会ったら、さっさと磔刑で跡形もなく片付けるように指示していたのだが、多分あの好奇心旺盛な馬鹿姫はそれだけでは退屈してしまったのだろう。
ディアンの脳裏には、得意げに七首竜の首を斬り飛ばすアリアウェットと、閃光が晴れた後の無残な竜の姿に腰を抜かしたであろうぷーさんの姿が浮かんだ。
「ところでディアン、貴様らの旅の目的は何だ?」
彼の問いに、ディアンは事実の八割方を説明した。
半年前の真相を含めて。
魔王が魔女の呪いで消えたこと。
姫様が六歳の姿から今の姿に成長してしまったこと。
彼女の髪が銀に染まってしまったこと。
ディアンが受けた呪いのこと。
ディアンはアリアウェットの呪いについてだけは隠した。
なぜならばこれは他者を不幸にしてしまう呪いなので、ダンカンにいらぬ心配をかける恐れがある。
「なんだ、姫様の保護を建前に、貴様の呪いを解きに行くのが目的か」
「うるせえ」
「貴様がアリアウェット姫に仕える目的は?」
「魔王との約束さ」
「姫様は、国を継ぐ気があるのか?」
「さあな」
「相変わらず掴みどころのない奴だな、お前は!」
ダンカンは豪快に笑う。
「ところでさっき、お前のところの姫が云々とか言っていたよな」
話題を変えたディアンにダンカンは顔をしかめた。
彼は一瞬逡巡した後、改めてディアンに向き直った。
「ああ、恥ずかしい話だが、実は国が乱れている」
ワールストーム王国軍のトップにして、王位継承権第三位の男。
ディアンが彼に会ったのは三年前にさかのぼる。
ダンカンは、ワールストーム王による魔王訪問の護衛として、ワールフラッド王国を訪れた。
そう、ダンカンが「首を焼き切る魔法」に接したのはこのときである。
閃光が全ての者の視界を奪い、しばらくの後、視力を取り戻した時に彼が最初に目の当たりにしたもの。
それは首と胴を綺麗に焼き切られた魔王の部下であった。
魔王はワールストーム王一行の前で、些細なミスを犯した部下の首を余興とばかりに焼き切って見せたのだ。
ワールフラッドの魔王直属の親衛隊長であったディアンと、ワールストーム軍最高位のダンカン。
儀礼上は同格であった彼らは何故か気が合い、訪問二日目には共に城を抜け出し、ディアンの案内で街の娼館を遊び歩いた。
「ワールフラッドには良い店があるな!」
「もっと良い店があるぜ! さあ行こう!」
彼ら二人はワールストーム王の滞在期間中に、互いに最高の飲み友達となっていた。
ダンカンは酔ってディアンに尋ねたものだ。
「貴様のところの魔王は、貴様が遊び歩くのを許すのか?」
「許すわけないだろう。明日も俺は魔王に焼かれるぜ」
ダンカンは笑った。
ディアンも笑った。
ダンカンは魔王とディアンの関係がうらやましそうだった。
なぜなら、ワールストーム王は魔王との会談後、その滞在期間のほとんどを国賓室に引きこもって震えながら過ごしたのから。
王座から「ディアンよ、この将軍を籠絡してこい!」と豪快に笑いながら自らの親衛隊長に言い放った魔王とは正反対だったのだ。
ディアンは一旦昔話を打ち切った。
「で、ダンカン、俺の連れは誰だと思う?」
「姫様だろ」
ダンカンは即答する。
「何故そう思う?」
「まずは彼女の名前。姫様の成長については、お前の若返りを見れば、逆に成長もありだと思うさ。それに彼女が披露した宮廷儀礼な、ありゃ筋金入りの王家の作法だ」
あまりにも的確なダンカンの指摘に、ディアンは顔をしかめてしまう。
するとその表情を見てダンカンが笑う。
「どうやら正解だったようだな」
彼はディアンに勝ち誇って見せた。
「まあ、魔王のアホみたいな魔力を継いでいる者がいるとしたら、アリアウェット姫くらいしかいないだろうなと推測はしたけどな。今の貴様の表情で確信したよ。ブラフに引っ掛かったのは貴様だからな。ディアン」
ふん。
「まあ、どのみち貴様にはばれるだろうと思っていたけどな。ところで、異常な殺され方の七首竜ってなんだ?」
負け惜しみの後、ディアンは彼らが関係していないであろう事件に話題を変えた。
しかし実はその事件にも彼らは関係していた。
正確には彼女だけだが。
「その七首竜はな、七つの首が、それはそれは見事に焼き切られていたそうだ。あれもお前らだろう?」
ダンカンの言葉にディアンは思わず頭を抱えてしまう。
あの馬鹿姫はディアンの言いつけを破って爆焔首輪七連発を七首竜にお見舞いしたのだろう。
七首竜の死体を残すと、後から発見者共に色々と詮索されるだろうと彼は考え、アリアウェットには七首竜に出会ったら、さっさと磔刑で跡形もなく片付けるように指示していたのだが、多分あの好奇心旺盛な馬鹿姫はそれだけでは退屈してしまったのだろう。
ディアンの脳裏には、得意げに七首竜の首を斬り飛ばすアリアウェットと、閃光が晴れた後の無残な竜の姿に腰を抜かしたであろうぷーさんの姿が浮かんだ。
「ところでディアン、貴様らの旅の目的は何だ?」
彼の問いに、ディアンは事実の八割方を説明した。
半年前の真相を含めて。
魔王が魔女の呪いで消えたこと。
姫様が六歳の姿から今の姿に成長してしまったこと。
彼女の髪が銀に染まってしまったこと。
ディアンが受けた呪いのこと。
ディアンはアリアウェットの呪いについてだけは隠した。
なぜならばこれは他者を不幸にしてしまう呪いなので、ダンカンにいらぬ心配をかける恐れがある。
「なんだ、姫様の保護を建前に、貴様の呪いを解きに行くのが目的か」
「うるせえ」
「貴様がアリアウェット姫に仕える目的は?」
「魔王との約束さ」
「姫様は、国を継ぐ気があるのか?」
「さあな」
「相変わらず掴みどころのない奴だな、お前は!」
ダンカンは豪快に笑う。
「ところでさっき、お前のところの姫が云々とか言っていたよな」
話題を変えたディアンにダンカンは顔をしかめた。
彼は一瞬逡巡した後、改めてディアンに向き直った。
「ああ、恥ずかしい話だが、実は国が乱れている」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる