嫌われ隊長が綴る呪われ姫の冒険譚

halsan

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炎の国の章

各々の武装

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「うはっ! すげー眺めだ」

 インプの案内で到着した、ゼノスが住まう塔近くの小高い丘から目の前に広がる光景に、思わずガルは声を上げ、シルフェはガルの背後で半泣きになり、さすがのディアンとアリアウェットもあっけにとられた。

 その塔は、無数の亡者アンデッドどもに囲まれていた。
 
「おい、これは千体どころの騒ぎじゃないだろ」
 うんざりしながら腕組みをするディアンから、インプは頭を掻きながら無言で目をそらしている。
 一方でアリアウェットとガルはやる気満々で顔を紅潮させている。
「いいじゃない! 一気に蹴散らしちゃいましょうよ!」
「おう、アリアウェット姉さんの魔法と俺の最強剣技で無問題!」
 ちなみにシルフェはアンデッドが怖いのか、ガルの背中に顔をうずめてしまった。

「やれやれ」
 ディアンはもう一度アンデッド達を見渡してみる。
 そいつらの殆どは骨兵士スケルトンソルジャー腐肉人ゾンビで構成されているようだ。
 うっすらと黄色に光る死霊レイスやら屍肉魔ワイトの姿もちらちらと見える。
 アンデッド集団の中で頭二つほど抜け出ている二体は、多分亡霊騎士アンデッドナイトだろう。
 それらの中で飛び抜けた魔力を発散しているローブ姿の存在。
 あれが多分ボスである死霊魔術師リッチだろうなとディアンは推測した。

「これならば当初の作戦で問題なさそうだな。アリア、準備はいいか?」
「いつでも大丈夫よ! ディアン!」
 ディアンはインプに一旦ゼノスの元に戻るように告げ、ガルとシルフェにもこの場所で待機しているように指示を出した。

「さて、それじゃ行くかね」
「ディアンと協力するのって、もしかしたら初めてかな?」
 アリアウェットが楽しそうに笑いかけた。
「そうだな。どうせなら派手に行くか、アリア!」
 ディアンも指をポキポキと鳴らしている。
 二人はやる気満々で飛翔フライを唱えた。
 
 まずは先制とばかりにアリアウェットが三発同時にぶっ放した炎嵐フレイムストームとディアンの炎嵐で、すべてのアンデッドたちは炎に包まれた。
 炎嵐が収まるタイミングで二人は同様に風嵐ウインドストームを重ね、灰燼かいじんと化した亡者共を吹き飛ばしていく。
 残ったのは二十体ほど。
 彼らは何事かと狼狽うろたえている。

「よし、前座は終了だ、アリアいったん戻るぞ」
「うん、ディアン」
 二人は一旦ガルとシルフェのところに戻る。

「こっからが本番だぞ。油断するなよ」
「任せとけ兄さん!」
「怖い……」
 相変わらず正反対の反応をするガルとシルフェだが、ディアンはそれに構わず、アリアウェットと魔法の準備をしていく。
 炎嵐に抵抗した連中は、魔法攻撃に抵抗レジストできる連中だ。
 なので次の作戦は当然「近接攻撃」となる。
 先ずはアリアウェットが自身を含む四人に魔法を唱えた。

 肉体強化フィジカルブースト全能力解放リリースフルポテンシャル

 そこにディアンの魔法が重ね掛けされる。

 聖鎧ホーリーアーマー

 これで全員の身体能力は倍増され、アンデッドから受けるダメージを軽減することができる。
 続けてガルの剣ににシルフェが魔法を付与した。
 
 武器強化ブーストアームズ逆刃刀アンデッドクラッシャー

 これは対アンデッド最強の付与魔法。
 
 最後にディアン、アリアウェット、シルフェがそれぞれ近接用の魔法を唱えた。
 
 聖武器創造クリエイトホーリーウェポン

 ガルを除く三人は、各々の手に魔法武器を出現させた。
 聖武器創造で創造された武器は、攻撃した相手に物理ダメージを与えると同時に魔法ダメージを与えるので、魔法抵抗と物理抵抗の両方を持つ高位アンデッドにもダメージを通すことができる。
 なので、まずは当たりやすさが重要になる。
 それを踏まえ、ディアンは自らの魔法武器をスピアとした。

「アリア、何だそりゃ?」
「ん? 問題ある?」
 アリアウェットがこしらえたのは九条鞭ナインテイルウィップ
 その名の通り9本の鞭で構成されている武器だ。
 そういえばワールストームで装備を整えているときに、アリアウェットが「ひらひらがいっぱいついていて可愛い」などとおかしなことを言っていたことを思い出し、ディアンは嘆息した。
 まあいい。
 当たりやすさという点に注目すれば十分ありだ。
 それをアリアウェットが振るうというのが絵的に問題がありそうだが、ディアンは考えるのをやめた。

 彼は気を取り直し、シルフェの方に目をやると再びため息をつく。
「シルフェ、それは何の冗談だ?」
「これってドラゴおじさまがガルの折檻に使っていた最強の武器なの」

 シルフェは、銀色に輝くフライパンを手にしていた。
 
 ここは戦場のはずなのだが、空気がおかしい方向に変わってしまっていく。
 アリアウェットはシルフェの持つフライパンに、盲点を突かれたかのような表情で、羨ましそうに見つめている。
 一方のシルフェも、アリアウェットが持つ九条鞭に、なぜだか知らないが胸がときめいてしまう。

「すげえ、姉さんのムチもシルフェのフライパンもかっこいいっす!」
 ガルは二人の装備を素直にほめている。
 しかし三人はディアンの手元を見つめた後、揃えたかのようなタイミングで三人同時にため息をついた

「ここで槍なの?」
「なんだあ槍かあ」
「つまらないの」
 なぜかディアンは三人から見下されるポジションとなってしまっている。
 これはまずい。
 ならばやることは一つ。 

「これは練習だ! 本番はこっちだ!」
 ディアンの宣言と同時に手元の槍が消え、新しい武器が創造される。

「よし、メインイベントに行くぜ!」
 ディアンは三人からの尊敬の眼差しを背に感じながら、前線に飛んで行った。

 光り輝く強大な両手持ちの「お玉」を携えながら。
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