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人外の章
ガイコツジジイ
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そんなこんなで数日が過ぎた。
ディアンの隣で御者台から遠くを見つめていたアドルフが、ディアンに馬車を止めるように指示を出す。
「どうしたジジイ」
「いやな、ノース夫妻にも世話になっていることだしな、夫妻の財産稼ぎに協力してやろうかと思っての」
そうだった。
帰途はノース・ワールフラッド家を再興するための財産稼ぎを行うのも目的だったと、ディアンは思い出す。
しかし死霊魔術師が口にしたのは「世話になっている」という別の理由だった。
「夫妻から受けた世話っていうのは、毎晩のギシアン堪能のことか? エロジジイ」
「言葉に出すとは無粋なやつじゃの」
そう、アドルフは初日から毎晩、氷の罠に凍りながら夫妻のギシアンを堪能しているのである。
それはそれということで、ディアンはアリアウェットに、ノース夫妻にも馬車を止めるよう合図を指示すると、一旦全員集合とする。
「それじゃガルバーン卿、お嬢ちゃんの針短剣を借りて、儂についてくるのじゃ」
「で、何すんだエロジジイ」
ディアンの無礼な口調を気にも求めずに、アドルフは指をさした。
「あれじゃよ」
その方向には、何かが点のように金色に輝いている。
「おお」
ガルバーンが思わずため息をついた。
それは黄金天竺鼠の大群だったのだ。
そこでアドルフは思い出したようにアリアウェット達に尋ねた。
「そういえばお嬢ちゃん達は、どうやってネズミどもの魔法絶対無効能力を破ったのかいの?」
まずはガルバーンが胸を張る。
「俺はシルフェーヌの肉体強化と武器強化で殴って仕留めた」
続けてアリアウェットも屈託なく答えた。
「私は落穴にネズミを落としてから、念動で動かした大岩で潰したの」
最後にディアンが自慢気に鼻を鳴らした。
「俺は円形天井と密封でネズミどもを閉じ込めた後、円形天井を肺に指定した窒息で窒息死させたぜ。どうだ、合理的だろう」
ところがそれらをアドルフは鼻で笑いとばした。
「ふん。エレガントさに欠けるのう。ガルバーン卿のやり方ではせいぜい数匹しか仕留められまいて。お嬢ちゃんの方法では肉が潰れて採れないじゃろう。最悪なのは小僧の方法じゃな。時間がかかる上に生死の判断も確実にはできん。魔法を解除したところに生き残りのネズミに突っ込まれたら面倒なことになる。まあ、儂に任してみい」
「うるせえクソジジイ。そこまで言うなら、やれるもんならやってみろ」
ディアンの文句を余裕で受け流しながら、アドルフはガルバーンを引き連れてネズミの大群に向かっていった。
悠然と向かってくる二足歩行動物二匹の影に気づいたネズミどもは、格好の獲物が来たとばかりに二人に殺到する。
するとアドルフがガルバーンの一歩前に立った。
「ガルバーンよ、気を確かに持つのじゃよ」
「え?」
ガルバーンの返事を待つこともなく、アドルフはゆっくりと受肉の指輪を彼の指から引き抜いていった。
「あやつ、あれをやるつもりか」
一方の留守番部隊では、ゼノスがディアン、アリアウェット、シルフェーヌにも、気をしっかり持つように釘を刺す。
指輪が完全に抜けたところで、アドルフはまがまがしい死霊魔術師の姿に戻った。
その漆黒の眼窩がネズミどもを捕らえる。
恐怖
アドルフが何かを呟いたと同時に、ネズミの大群は、突進の勢いのままアドルフの前へと崩れ落ちていく。
同時にアリアウェットの隣では、シルフェーヌも気を失っていた。
唖然とするガルバーンを死霊魔術師は急かす。
「ほれ、ボサっとしとるんじゃない。お嬢ちゃんの針短剣でとっとと頭蓋を突いてとどめを刺してくるのじゃ」
慌ててガルバーンは、倒れこんだネズミどもの眉間を突いて回る。
獲物の数はざっと五十匹。
価値にして皮と肉で金貨七十五枚分を、ほぼ一瞬でノース夫妻は手に入れたことになる。
「どうじゃ、きれいなもんじゃろ」
アドルフは自慢げに戻ってきた。
それに対しディアンは唖然とした表情で、アリアはシルフェーヌを抱えながら拍手で死霊魔術師を出迎えた。
ディアン達は前回と同様、ネズミの処理を作業分担しながら彼に尋ねた。
「いったい、さっきのは何だったんだ?」
すると、受肉の指輪を装備してただのジジイに戻った彼は何でもなさそうに答えた。
「あれは死霊魔術師となった時に手に入れた特殊能力じゃよ」
それをゼノスが補足する。
「シルフェの雪世界や、石魔妃の石化みたいなもんじゃ」
その効果は、「恐怖による昏倒」だそうだ。
アドルフ自身はアリアウェットたちに効果が及ばないよう、彼女たちから距離を置いた上で威力も抑えたつもりだったのだが、それでもシルフェーヌには効いてしまったらしい。
魔族が持つ特殊能力がヤバイのは、魔力に基づかないこと。
だから魔族の特殊能力にはゴールデンカピバラが持つ絶対魔法防御も意味が無い。
まさしくネズミ共にとっては天敵といえる能力だろう。
「あれ、そういえば、ゼノスさんも召喚された魔族だって言っていたわよね?」
アリアウェットが急に思い出したようにゼノスに尋ねた。
「ああ、そうじゃよ」
「どんな種族なの?」
アリアからの問いかけにゼノスはにやりと笑いかけた。
「あたしは獣族じゃよ」
ディアンの隣で御者台から遠くを見つめていたアドルフが、ディアンに馬車を止めるように指示を出す。
「どうしたジジイ」
「いやな、ノース夫妻にも世話になっていることだしな、夫妻の財産稼ぎに協力してやろうかと思っての」
そうだった。
帰途はノース・ワールフラッド家を再興するための財産稼ぎを行うのも目的だったと、ディアンは思い出す。
しかし死霊魔術師が口にしたのは「世話になっている」という別の理由だった。
「夫妻から受けた世話っていうのは、毎晩のギシアン堪能のことか? エロジジイ」
「言葉に出すとは無粋なやつじゃの」
そう、アドルフは初日から毎晩、氷の罠に凍りながら夫妻のギシアンを堪能しているのである。
それはそれということで、ディアンはアリアウェットに、ノース夫妻にも馬車を止めるよう合図を指示すると、一旦全員集合とする。
「それじゃガルバーン卿、お嬢ちゃんの針短剣を借りて、儂についてくるのじゃ」
「で、何すんだエロジジイ」
ディアンの無礼な口調を気にも求めずに、アドルフは指をさした。
「あれじゃよ」
その方向には、何かが点のように金色に輝いている。
「おお」
ガルバーンが思わずため息をついた。
それは黄金天竺鼠の大群だったのだ。
そこでアドルフは思い出したようにアリアウェット達に尋ねた。
「そういえばお嬢ちゃん達は、どうやってネズミどもの魔法絶対無効能力を破ったのかいの?」
まずはガルバーンが胸を張る。
「俺はシルフェーヌの肉体強化と武器強化で殴って仕留めた」
続けてアリアウェットも屈託なく答えた。
「私は落穴にネズミを落としてから、念動で動かした大岩で潰したの」
最後にディアンが自慢気に鼻を鳴らした。
「俺は円形天井と密封でネズミどもを閉じ込めた後、円形天井を肺に指定した窒息で窒息死させたぜ。どうだ、合理的だろう」
ところがそれらをアドルフは鼻で笑いとばした。
「ふん。エレガントさに欠けるのう。ガルバーン卿のやり方ではせいぜい数匹しか仕留められまいて。お嬢ちゃんの方法では肉が潰れて採れないじゃろう。最悪なのは小僧の方法じゃな。時間がかかる上に生死の判断も確実にはできん。魔法を解除したところに生き残りのネズミに突っ込まれたら面倒なことになる。まあ、儂に任してみい」
「うるせえクソジジイ。そこまで言うなら、やれるもんならやってみろ」
ディアンの文句を余裕で受け流しながら、アドルフはガルバーンを引き連れてネズミの大群に向かっていった。
悠然と向かってくる二足歩行動物二匹の影に気づいたネズミどもは、格好の獲物が来たとばかりに二人に殺到する。
するとアドルフがガルバーンの一歩前に立った。
「ガルバーンよ、気を確かに持つのじゃよ」
「え?」
ガルバーンの返事を待つこともなく、アドルフはゆっくりと受肉の指輪を彼の指から引き抜いていった。
「あやつ、あれをやるつもりか」
一方の留守番部隊では、ゼノスがディアン、アリアウェット、シルフェーヌにも、気をしっかり持つように釘を刺す。
指輪が完全に抜けたところで、アドルフはまがまがしい死霊魔術師の姿に戻った。
その漆黒の眼窩がネズミどもを捕らえる。
恐怖
アドルフが何かを呟いたと同時に、ネズミの大群は、突進の勢いのままアドルフの前へと崩れ落ちていく。
同時にアリアウェットの隣では、シルフェーヌも気を失っていた。
唖然とするガルバーンを死霊魔術師は急かす。
「ほれ、ボサっとしとるんじゃない。お嬢ちゃんの針短剣でとっとと頭蓋を突いてとどめを刺してくるのじゃ」
慌ててガルバーンは、倒れこんだネズミどもの眉間を突いて回る。
獲物の数はざっと五十匹。
価値にして皮と肉で金貨七十五枚分を、ほぼ一瞬でノース夫妻は手に入れたことになる。
「どうじゃ、きれいなもんじゃろ」
アドルフは自慢げに戻ってきた。
それに対しディアンは唖然とした表情で、アリアはシルフェーヌを抱えながら拍手で死霊魔術師を出迎えた。
ディアン達は前回と同様、ネズミの処理を作業分担しながら彼に尋ねた。
「いったい、さっきのは何だったんだ?」
すると、受肉の指輪を装備してただのジジイに戻った彼は何でもなさそうに答えた。
「あれは死霊魔術師となった時に手に入れた特殊能力じゃよ」
それをゼノスが補足する。
「シルフェの雪世界や、石魔妃の石化みたいなもんじゃ」
その効果は、「恐怖による昏倒」だそうだ。
アドルフ自身はアリアウェットたちに効果が及ばないよう、彼女たちから距離を置いた上で威力も抑えたつもりだったのだが、それでもシルフェーヌには効いてしまったらしい。
魔族が持つ特殊能力がヤバイのは、魔力に基づかないこと。
だから魔族の特殊能力にはゴールデンカピバラが持つ絶対魔法防御も意味が無い。
まさしくネズミ共にとっては天敵といえる能力だろう。
「あれ、そういえば、ゼノスさんも召喚された魔族だって言っていたわよね?」
アリアウェットが急に思い出したようにゼノスに尋ねた。
「ああ、そうじゃよ」
「どんな種族なの?」
アリアからの問いかけにゼノスはにやりと笑いかけた。
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