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第08章 絶望

第105話 封印

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 バフォールの魔法攻撃に対し、レイも魔法を放つ。
 魔法がぶつかり合い、粉塵が巻き上がった。
 レイの体が地の上を転がっていく。

「もう終わらせよう」

 止めを刺すようにバフォールが魔法を放った。

「レイ!! ぐはっ!!!」

 レイの前に躍り出たアルバートは、バフォールの攻撃を代わりに受ける。
 何度も受けた魔防具のマントはボロボロで、アルバートの体を焦がした。

「先輩!!」
「だ、大丈夫だ」

 レイやビルボートの体も赤い染みをいくつも増やしている。
 三対一にもかかわらず、バフォールは僅かな傷のみ。

 圧倒的な力の差。

「そうか、お前から死にたいのか。ならその願いは無償で叶えてやろう」
「死なねーよ!! レイ!!」
「はいっ!!」

 バフォールが放った魔法をアルバートは走り避け、そのままバフォールに向かう。
 レイもまた反対方向に周り込むように突き進む。

 左右からの同時攻撃。

 バフォールはアルバートを先に薙ぎ倒す。
 直ぐ様、レイの剣を受け止めた。

「諦めてしまえば楽になるぞ。この女の願いを叶えたらこの国で暫く遊ぶ予定だが、お前がその体をくれるのであれば、この国だけは手を出さない。どうだ? いい取引だろう?」
「ははは。どこがいい取引なの? エリーを守れなければ意味がない!」

 レイはバフォールの剣を弾き、横から斬り込む。
 バフォールはまたそれを止めた。

「お前の身体は魔力が充満しているうえに、体もしっかりと作られている。どうだ? 私がお前の身体に入ればより強くなれるぞ」
「んー、もしかして焦ってる? ハーネイス様の体じゃ思うように動かないって聞こえるけど?」

 剣を交えたまま、レイは剣から爆風と雷を巻き起こす。
 正面から受けたバフォールの髪が後方になびく。

「くっ……」

 バフォールの体がぐらりと傾き、魔剣が霧になって消えた。

「……そうか、残念だ」

 呟きを溢すと稲妻のような赤黒い光がバフォールの両腕にまとわりつく。
 ビリビリと大気が揺れた。

「さらばだ人間」

 バフォールが両手を掲げると、天から赤黒い雷がレイの頭上に打ち落とされた。
 轟音と共に地面が揺れる。

「レイっ!!!」

 ビルボートとアルバートが護る隙も与えられず、レイは粉塵の中に消えた――――。




 それを遠くから見ていたアランとギルの心臓は跳ねた。

「シ、シリル!!」
「待って下さい」

 駆け寄ろうとしたギルの肩をアランが止める。

「ギルさん。我々がやるべきことをします! 先ずは魔法陣を描きましょう!」
「ですがっ…………いえ……わ、わかりました」

 アランの強い視線に押され、ギルは瞳を強く閉じ頷いた。

 やるべきこと。
 自分にしか出来ないこと。
 それがレイを助けることになる。

 ギルは少しだけレイ達が戦っている場所へと近づくと、その場に腰を下ろした。
 大地に両手を起き、瞳を閉じる。

 風の音。
 何かが焼ける臭い。

 それらを感じながら一呼吸を置く。



【光と闇 世界の狭間に生まれし魔の根源――】



 詠唱を始めると蒼白い光がギルを中心に円を描く。

 アランはその円から慌てて離れ、見守った。

 ギルが詠唱を続けていくと、それに合わせて円に文字や記号が次々と描かれていく。



――――その頃、舞い散った粉塵からレイの姿が現れる。

「……あの中で、無傷とは……お前はいったい……」
「今のが本気? あんまり人間をなめない方がいいよ」

 魔法消滅の魔法薬。
 レイはそれを使用したのだった。

 睨みを利かすレイに対し、バフォールは眉間にシワを寄せた。
 見ていた者全員がほっと息を吐くのを感じたからだった。

「……お前が希望の中心であることは分かった。ならば……」

 バフォールは改めて剣を作るとドレスの裾を持ち上げ、素早く距離を詰める。
 剣はレイの頭上から降りてきた。

 ガギンっと音が鳴る。

「くっ……!」

 受けた攻撃はあまりにも重く、ジンと手が痺れる。
 レイは足を大きく開いて踏ん張った。

 バフォールはニヤリと笑みを浮かべる。

 重なっていた剣は弧を描き、レイの方へと突き出された。

「かはっ……!」

 動きの早さに付いていくことが出来ず、脇腹に魔剣が刺さるのをレイはただ見下ろしていた。



 遠くで見ていたアランの心臓が跳ねる。

「くそっ……」

 ギルの詠唱は続いている。
 もう少し。

 アランはタイミングを見極めるように、ギルの詠唱の言葉に耳を傾けながらバフォールに銃を向けた。



【奈落の底に光刺す 魂の縛 地より来りてそれを封ずる――】



 ギルはポケットから黒い箱を取り出すとそれを前に付きだした。
 箱はふわりと浮かび上がる。

「照明弾!!三、二、一!!」

 アランがそれを確認するとバフォールの近くに向けて照明弾を放った。
 辺りは真っ白に染まり、キーンとした耳鳴りが鳴り響く。

「くっ……小賢しい人間共め!!!」

 眩い光で目が眩んだバフォールは、手当たり次第に魔法を撒き散らし始めた。
 被害が大きくなると感じたレイは、腹部に剣を刺されたまま自分の剣を握り直す。

「バフォールっ!!!」

 残っている力を込め、バフォールの背中に剣を突き刺した。

「ぐっ……」

 バフォールは動きを止める。



【偉大なる光の神 汝の力を解放――】



 魔法陣から光の柱が立ち昇った。
 中心に浮かぶ小さな箱がくるくると廻り出す。






【悪しきその名はバフォール。ギル・セルフィアスの名において闇から光へといざない、その闇を封印し無となれ!】



 ギルが呪文を唱えると無機質な箱が輝いた。
 黒い煙のようなものが吸い込まれていく。

 煙の発祥元。
 それはレイの目の前にいるバフォール……もといハーネイスだった。
 ハーネイスの全身から黒い煙が立ち上る。

「こ、これは……まさか……。これを使える人間がここにいたとは……」
「だから……人間……舐めないでって言ったでしょ……」

 レイは薄く笑うとハーネイスと共に、赤く染まった地の上に膝から崩れた。

「愚かな人間がいる限り……私は……」



――――ナンドデモ……ヨミ……ガエル……。



 バフォールは微かに笑みを浮かべ、レイに刺さっていた魔剣と共に黒い塵のように舞い消えた。

「シ、シリルっ……」

 魔力を全て使ったギルもまたその場に倒れた。


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