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第13章 敵国
第158話 デール王国の動き
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時は戻り、エリー王女誘拐から五日目のことだった。
土と岩だらけの枯れた大地に四頭の馬が砂ぼこりを撒き散らす。真夏の日差しを直に受けながらも、セイン王子を含む四名はシロルディア王国を経由しながらデール王国を目指していた。
ギルは何度も馬に回復魔法を施す。ふと、何か声が聞こえた気がして後ろを振り返った。北東の空に黒い点が近づいてくる。
「セイン様! ポルポルです!」
四人はギルの言葉で馬を止めた。伝書を届けるための鳥、ポルポルである。
ギルが腕をかざすと、ポルポルは旋回してからゆっくりと止まった。
「ご苦労様」
ポルポルの胸を撫で、足に括りつけられた手紙を片手で取り外す。直ぐにセイン王子に手紙を手渡し、じっと見守った。アランやアルバートも不安な様子で見ている。
「……ああ……、良かった……。エリーとサラさんは無事だと書いてある。ディーン様が襲われた当日に救出して下さったそうだ。今はディーン様とアトラスに向かっているみたい」
「良かった……。良かったですね、アランさん、アルバートさん」
「ああ……」
重く苦しい暗い闇にいるような日々であったが、やっと視界が開けたような気がした。顔を見合わせ頷き合う。しかしまだ誰も笑顔を取り戻せたわけではなかった。
「アラン、アル先輩。あと半日もすればデール城へ着く。俺達はにーさんが懸念していたデールの動きを探りに行こうと思う。本当にアトラスに牙を向けるつもりなのか……。二人はどうする?」
「俺たちも共に行く。現状を把握し、少しでも有益な情報を得てから戻りたい」
「分かった。じゃあ、このまま突き進む!」
四人は馬の腹を蹴り、今までと変わることなくデール王国へ急いだ。
景色に赤みが増した頃、徐々に民家が増えてきた。デール王国は白い石で作られた家が一般的で、外にかがり火を焚く風習がある。ポツポツと灯りが灯り始めると、橙色に染まりデールの町が美しく輝いた。
それとは対照的に、少し疲弊しているようにも見える女性たち。外に出てただ遠くを見つめていた。
「アルバート、何か気づかないか?」
アランが並走して尋ねる。
「ああ……男がいねー……。それに皆、城がある方を見ているな。今日は何かの祭典でもあんのか?」
「いや、そういったものは今の時期にはない」
他国の行事にも詳しいアランは否定する。
デール王国に入り、いくつかある村や町もそうだった。それは、働きに出ていると思っていたため気にも留めなかった。しかし、王都に入ってからも男性の姿が一人も見当たらない。いたとしても老人くらいだ。
デール王国の地形は段丘である。階段が多い街作りになっているため、馬での移動は難しい。四人はすぐに馬屋に向かった。馬屋は街の入口に多く見られ、一番近い馬屋に入った。
「旅の人かい? こんな時にここに訪れるなんて不運だね。悪いことは言わない。この国から早いところ出た方がいい……」
馬屋の女主人が声を潜め、追い出そうとしてくる。
「どういうことでしょうか?」
ギルが尋ねると辺りを見回してから、より一層声を落とした。
「戦争だよ。どちらから来たかは分からないけど、南へ行くのはやめた方がいい」
「戦争!? 南……まさかアトラスではないですよね?」
女主人は大きくため息をついた。
「そのまさかさ。うちの主人も息子もみんな城に集められている。早朝出発だそうだ。だからあんたら、巻き込まれない内にこの国から出た方がいい」
「早朝って明日ですか!?」
四人は顔を見合わせた。
エリー王女を誘拐したのはデール王国だったのかは分からない。しかし、デール王国はリアム国王が言っていたようにアトラス王国への侵略を目論んでいたのだ。
「教えて頂きましてありがとうございます。旅仲間にこのことを伝えたいので、少しこの場をお借りしてよろしいでしょうか」
セイン王子が一歩前に出てお願いをすると女主人は頷いた。
「それがいい。しばらくはデールにもアトラスにも近寄らないほうがいいからね……」
女主人に礼を言うとセイン王子とアランは手紙を書き、それぞれポルポルを呼ぶ。人間には聴こえない特殊な笛だ。直ぐに漆黒の鳥が二羽、窓から入ってきた。
「ありがとう。アトラス王国シトラル陛下とローンズ王国のリアム陛下に渡してね」
セイン王子が女主人が聞こえないようにポルポルに伝え、胸を撫でる。カチカチと嘴を鳴らし、手紙を受け取ったポルポルは夜空に消えていった。
これでローンズ王国はすぐに援軍をアトラス王国へ送ってくれるだろう。また、アトラス王国もデール王国が到着する前に事実を知り、迎え撃つことが出来る。
「俺たちもすぐにアトラスへ向かおう」
その時だった、バンっと大きな音を立てて馬屋の扉が開いた。兵士が数人立っている。
「おい、お前たち! ポルポルを使ったのはお前たちか!! それに何故城に行っていない!! 男は全員参加せよと布告があっただろ!!」
兵士が声を荒げ、威圧的に問う。戦争前でピリピリしているのだろう。
「我々は先程この街に着いた旅人です。直ぐに街を出ます」
「この国に入った以上、この国の指示に従ってもらう! 今すぐ我々に付いて来るように!」
ずかずかと馬屋に入り、剣をギルに突き付けた。兵士は五人。セイン王子は後ろの方でじっと様子を伺う。
この場で兵士を切り、逃げるか。それとも……。
土と岩だらけの枯れた大地に四頭の馬が砂ぼこりを撒き散らす。真夏の日差しを直に受けながらも、セイン王子を含む四名はシロルディア王国を経由しながらデール王国を目指していた。
ギルは何度も馬に回復魔法を施す。ふと、何か声が聞こえた気がして後ろを振り返った。北東の空に黒い点が近づいてくる。
「セイン様! ポルポルです!」
四人はギルの言葉で馬を止めた。伝書を届けるための鳥、ポルポルである。
ギルが腕をかざすと、ポルポルは旋回してからゆっくりと止まった。
「ご苦労様」
ポルポルの胸を撫で、足に括りつけられた手紙を片手で取り外す。直ぐにセイン王子に手紙を手渡し、じっと見守った。アランやアルバートも不安な様子で見ている。
「……ああ……、良かった……。エリーとサラさんは無事だと書いてある。ディーン様が襲われた当日に救出して下さったそうだ。今はディーン様とアトラスに向かっているみたい」
「良かった……。良かったですね、アランさん、アルバートさん」
「ああ……」
重く苦しい暗い闇にいるような日々であったが、やっと視界が開けたような気がした。顔を見合わせ頷き合う。しかしまだ誰も笑顔を取り戻せたわけではなかった。
「アラン、アル先輩。あと半日もすればデール城へ着く。俺達はにーさんが懸念していたデールの動きを探りに行こうと思う。本当にアトラスに牙を向けるつもりなのか……。二人はどうする?」
「俺たちも共に行く。現状を把握し、少しでも有益な情報を得てから戻りたい」
「分かった。じゃあ、このまま突き進む!」
四人は馬の腹を蹴り、今までと変わることなくデール王国へ急いだ。
景色に赤みが増した頃、徐々に民家が増えてきた。デール王国は白い石で作られた家が一般的で、外にかがり火を焚く風習がある。ポツポツと灯りが灯り始めると、橙色に染まりデールの町が美しく輝いた。
それとは対照的に、少し疲弊しているようにも見える女性たち。外に出てただ遠くを見つめていた。
「アルバート、何か気づかないか?」
アランが並走して尋ねる。
「ああ……男がいねー……。それに皆、城がある方を見ているな。今日は何かの祭典でもあんのか?」
「いや、そういったものは今の時期にはない」
他国の行事にも詳しいアランは否定する。
デール王国に入り、いくつかある村や町もそうだった。それは、働きに出ていると思っていたため気にも留めなかった。しかし、王都に入ってからも男性の姿が一人も見当たらない。いたとしても老人くらいだ。
デール王国の地形は段丘である。階段が多い街作りになっているため、馬での移動は難しい。四人はすぐに馬屋に向かった。馬屋は街の入口に多く見られ、一番近い馬屋に入った。
「旅の人かい? こんな時にここに訪れるなんて不運だね。悪いことは言わない。この国から早いところ出た方がいい……」
馬屋の女主人が声を潜め、追い出そうとしてくる。
「どういうことでしょうか?」
ギルが尋ねると辺りを見回してから、より一層声を落とした。
「戦争だよ。どちらから来たかは分からないけど、南へ行くのはやめた方がいい」
「戦争!? 南……まさかアトラスではないですよね?」
女主人は大きくため息をついた。
「そのまさかさ。うちの主人も息子もみんな城に集められている。早朝出発だそうだ。だからあんたら、巻き込まれない内にこの国から出た方がいい」
「早朝って明日ですか!?」
四人は顔を見合わせた。
エリー王女を誘拐したのはデール王国だったのかは分からない。しかし、デール王国はリアム国王が言っていたようにアトラス王国への侵略を目論んでいたのだ。
「教えて頂きましてありがとうございます。旅仲間にこのことを伝えたいので、少しこの場をお借りしてよろしいでしょうか」
セイン王子が一歩前に出てお願いをすると女主人は頷いた。
「それがいい。しばらくはデールにもアトラスにも近寄らないほうがいいからね……」
女主人に礼を言うとセイン王子とアランは手紙を書き、それぞれポルポルを呼ぶ。人間には聴こえない特殊な笛だ。直ぐに漆黒の鳥が二羽、窓から入ってきた。
「ありがとう。アトラス王国シトラル陛下とローンズ王国のリアム陛下に渡してね」
セイン王子が女主人が聞こえないようにポルポルに伝え、胸を撫でる。カチカチと嘴を鳴らし、手紙を受け取ったポルポルは夜空に消えていった。
これでローンズ王国はすぐに援軍をアトラス王国へ送ってくれるだろう。また、アトラス王国もデール王国が到着する前に事実を知り、迎え撃つことが出来る。
「俺たちもすぐにアトラスへ向かおう」
その時だった、バンっと大きな音を立てて馬屋の扉が開いた。兵士が数人立っている。
「おい、お前たち! ポルポルを使ったのはお前たちか!! それに何故城に行っていない!! 男は全員参加せよと布告があっただろ!!」
兵士が声を荒げ、威圧的に問う。戦争前でピリピリしているのだろう。
「我々は先程この街に着いた旅人です。直ぐに街を出ます」
「この国に入った以上、この国の指示に従ってもらう! 今すぐ我々に付いて来るように!」
ずかずかと馬屋に入り、剣をギルに突き付けた。兵士は五人。セイン王子は後ろの方でじっと様子を伺う。
この場で兵士を切り、逃げるか。それとも……。
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