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2章 軌跡
3話 【街】
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何時間か馬で平原を走った。
今いる場所がどこかも分からず、とりあえず北に向かった。
誘拐犯の向かっていた方向とは逆の方角だ。
シェリアの事を商品だと言っていたことから、人身売買目的か、どこかの貴族に雇われて動いていたのか、奴らの行動理念は分かったものではないが、このままこの馬車に乗って進行方向へ向かっていたら誘拐犯の仲間が待ち受けているかもしれない。
合流場所も何もかもが分からない状況で進行方向のまま進むのは愚行でしかない。
という事で、逆の方角へ向かったが、これもこれで得策とはいえないので辛い所だ。
公爵家へ侵入し、ピンポイントでシェリアの居場所を知っていたのだから、どこかの貴族の差し金とみて間違いはないだろう。
そのため一刻も早く王都に戻らなければならない。
それにしても公爵家を襲わせて、シェリアを攫い、王都から離れた場所でシェリアを売り払う。
売り払った際には、シェリアは奴隷になるため、その地から逃げ出すことはできない。
中々よくできた筋書きだ。
考えていたら頭が痛くなってきた。
シェリアも疲れて眠ったのか、途中話しかけても返事は返ってこなかった。
ーーーーーーーーー
体感で、2.3時間、馬を走らせた。
いつまでも続くだろうと錯覚させる様な広大な平原に、突如、巨大な突起物が見えた。
最初は何かの見間違いかとも思ったが、あれは城壁だ。
王都の城壁には大分劣るが、遠目からでも、そこらの村よりも規模があるという事だけは分かる。
「シェリア...?」
「...ん?」
「街だ!」
「えっ?!」
シェリアの声も、街を見つけた興奮からか、数時間前よりも数段高くなっている。
それ程までに、自分達すらも何処か分からないこの状況で、人間のいる場所があるというだけで、どこか安心できるものがあるのだ。
だが、どこの街でも、村でも、身分証がないと中には入れない。
強引に入れたとしても、承諾証が無ければ宿にも泊まれないなどといった不自由な事が多いのだ。
俺はそれを持っていない。
「シェリアさん、身分証などというものは持っては...?」
「無いわね。」
「ですよね。」
まぁ、あの状況で連れ去られたのだから期待はしていなかったが。
「これならあるけど。」
シェリアが後ろから差し出してきたのは、人攫いの身分証だった。
「...こんなものどこに。」
「荷袋に入ってたわ。」
何?!
荷袋だと。
なら、あれがあるはずだ。
「これもあったわよ。」
ジャランジャランと金属がぶつかり合う音がシェリアの手の上で奏でられる。
「金...。」
ついつい目線も金色の輝きに奪われる。
途中、馬が暴走しかかったが金と比べれば造作のない事だ。
「これくらいで、何日くらい過ごせるの?」
「どうだろうな、5日は何なく過ごせるとは思う。」
「そう、じゃあ分かってるわね?」
何が分かっているのか。
シェリアの言っている意味がわからず、俺は頭を捻る。
「私が見つけたのだから、私の指示にアンタは従うのよ。」
「は?」
さっきとは違い、街を見つけた安堵心からか、シェリアの態度はいつも通りに戻ったが、今だけはもう少し病んでいてくれ、とまで思う。
金とは恐ろしいものだ。
「使い方は?」
「知らないわよ。」
自信満々な、シェリアの顔に少し微笑しながら、馬車を加速させる。
夕焼けに染まった平原はいつもよりも綺麗に見えた。
ーーーーーーーーーー
鉄の玉を人に当てるだけで英雄と呼ばれた。
人が人を殺して、人は人を讃えた。
人同士が呪い合い憎しみ合う事で戦争が生まれる。
じゃあ戦争の中で戦争のために生まれた俺達は呪われた生き物なのだろうか?
一人の英雄が言った。
俺達は自由であると。
一体、俺の何処が自由なのだろうか。
まず、自由とは何なのだろうか。
今いる場所がどこかも分からず、とりあえず北に向かった。
誘拐犯の向かっていた方向とは逆の方角だ。
シェリアの事を商品だと言っていたことから、人身売買目的か、どこかの貴族に雇われて動いていたのか、奴らの行動理念は分かったものではないが、このままこの馬車に乗って進行方向へ向かっていたら誘拐犯の仲間が待ち受けているかもしれない。
合流場所も何もかもが分からない状況で進行方向のまま進むのは愚行でしかない。
という事で、逆の方角へ向かったが、これもこれで得策とはいえないので辛い所だ。
公爵家へ侵入し、ピンポイントでシェリアの居場所を知っていたのだから、どこかの貴族の差し金とみて間違いはないだろう。
そのため一刻も早く王都に戻らなければならない。
それにしても公爵家を襲わせて、シェリアを攫い、王都から離れた場所でシェリアを売り払う。
売り払った際には、シェリアは奴隷になるため、その地から逃げ出すことはできない。
中々よくできた筋書きだ。
考えていたら頭が痛くなってきた。
シェリアも疲れて眠ったのか、途中話しかけても返事は返ってこなかった。
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体感で、2.3時間、馬を走らせた。
いつまでも続くだろうと錯覚させる様な広大な平原に、突如、巨大な突起物が見えた。
最初は何かの見間違いかとも思ったが、あれは城壁だ。
王都の城壁には大分劣るが、遠目からでも、そこらの村よりも規模があるという事だけは分かる。
「シェリア...?」
「...ん?」
「街だ!」
「えっ?!」
シェリアの声も、街を見つけた興奮からか、数時間前よりも数段高くなっている。
それ程までに、自分達すらも何処か分からないこの状況で、人間のいる場所があるというだけで、どこか安心できるものがあるのだ。
だが、どこの街でも、村でも、身分証がないと中には入れない。
強引に入れたとしても、承諾証が無ければ宿にも泊まれないなどといった不自由な事が多いのだ。
俺はそれを持っていない。
「シェリアさん、身分証などというものは持っては...?」
「無いわね。」
「ですよね。」
まぁ、あの状況で連れ去られたのだから期待はしていなかったが。
「これならあるけど。」
シェリアが後ろから差し出してきたのは、人攫いの身分証だった。
「...こんなものどこに。」
「荷袋に入ってたわ。」
何?!
荷袋だと。
なら、あれがあるはずだ。
「これもあったわよ。」
ジャランジャランと金属がぶつかり合う音がシェリアの手の上で奏でられる。
「金...。」
ついつい目線も金色の輝きに奪われる。
途中、馬が暴走しかかったが金と比べれば造作のない事だ。
「これくらいで、何日くらい過ごせるの?」
「どうだろうな、5日は何なく過ごせるとは思う。」
「そう、じゃあ分かってるわね?」
何が分かっているのか。
シェリアの言っている意味がわからず、俺は頭を捻る。
「私が見つけたのだから、私の指示にアンタは従うのよ。」
「は?」
さっきとは違い、街を見つけた安堵心からか、シェリアの態度はいつも通りに戻ったが、今だけはもう少し病んでいてくれ、とまで思う。
金とは恐ろしいものだ。
「使い方は?」
「知らないわよ。」
自信満々な、シェリアの顔に少し微笑しながら、馬車を加速させる。
夕焼けに染まった平原はいつもよりも綺麗に見えた。
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鉄の玉を人に当てるだけで英雄と呼ばれた。
人が人を殺して、人は人を讃えた。
人同士が呪い合い憎しみ合う事で戦争が生まれる。
じゃあ戦争の中で戦争のために生まれた俺達は呪われた生き物なのだろうか?
一人の英雄が言った。
俺達は自由であると。
一体、俺の何処が自由なのだろうか。
まず、自由とは何なのだろうか。
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