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待ち合わせ

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数日後の週末の夜、奈緒美は新宿にいた。待ち合わせは、タイムズスクエアーの愛媛物産店の前だったが、約束の6時半までまだ1時間近くあった。

奈緒美は、プラプラと歩きながら、紀伊国屋書店に向かって歩いた。好きな推理小説のコーナーを一回りして戻ってくれば、いい時間潰しになる。

だが、小説のあらすじなどチェックする余裕は奈緒美にはなかった。
今夜は、初めて加虐の天使に会うのだ。
奈緒美の心臓は、今朝から工事現場でパイルが打ち込まれているかの様に大きな音で鼓動を奏で、振動で体中が揺れているかの様だった。いや実際に、回りから見ても揺れていたかもしれなかった。

加虐の天使はどんな男なのだろう。
奈緒美は緊張しながらも、思いを膨らませた。

初めてという事もあり、お互いの家以外の場所で会う、それだけが唯一聞き届けられた条件だった。

絶対服従、それが会う条件だった。
今思えば、1ヶ月間奈緒美を放っておいたのは、彼の作戦だったのだろう。
奈緒美を、肉体的にも精神的にも追い込み、リアルの申し出を断れない様にしたのだ。奈緒美はまんまと加虐の天使の策略に堕ちたのだ。

だが、奈緒美自身はそれでよかった。これが彼女自身も本当は望んでいた事だったのだから。ただ、度胸がなかっただけだったのだから。

だから、今夜はどんな目に遭っても後悔はしないと心に決めた。
恐怖心と緊張はどうしても治まらなかったが、それはやむを得なかった。長年の夢が叶うという期待と悦び。そしてリスクへの恐怖。平常心でいられる方がおかしかった。

今夜は、どんな責めが待っているのだろう。最初は軽いメニューからだろうか。あるいは、最初から目一杯いたぶられるのだろうか。
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