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噛まれて

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しかし、しばらくすると横の壁の向こうから、水の流れる音が聞こえ始めた。 どうやらシャワーを浴びているらしい。

美波はベッドの上に座ったまま、しばしその水音に耳を傾けた。

今夜は終わりなのかしら・・

美波は時計を見た。深夜を過ぎているが、まだ朝までは時間がある。

不意に喉の乾きを感じて、美波はベッドから抜け出し、入り口付近にある冷蔵庫の所まで歩いていった。

美波は冷蔵庫の扉を開け、腰をかがめて中を覗き込んだ。

そして、小さなスポーツドリンクを1本取り出すとその場に立ったままゆっくりと飲み始めた。喉から胃の中まで、冷たいものがゆっくりと染み込む様に下りていくのが感じられる。その心地良さは、疲れはてた美波に力を蘇らせた。

冷蔵庫の上に空になった瓶を置き、一息付くと、いきなり背後から誰かが美波を抱きしめてきた。

「何を飲んでいるんだい?」

アキラは美波を抱きしめたまま、彼女の髪に顔を埋めた。

再び、美波の体の中で何かが熱っぽくなり始める。

だめ、騙されないで。。

美波は心の中で自分に言い聞かせた。

彼には、アキラには、期待してはいけないのだ。例え一時的に優しくされたとしても、それはその後に味わわされる地獄の苦しみへの伏線に過ぎない。そんな事は分かりきっている。だが、美波の女の部分は、理性を働かせる事が出来なかった。

「俺もスポーツドリンクを飲むかな。」

アキラは美波越しに冷蔵庫に手を伸ばすと、美波が先程飲んだのと同じ物を取り出した。
そして、そのスポーツドリンクのキャップを開けると、黙って飲み始めた。背後から、ゴク、ゴクという音だけが聞こえていた。

アキラは、半分ほど飲んだペットボトルを美波の顔の前で軽く振った。


「お前ももう少し飲みたいだろ。」

アキラはそう言うと、口にスポーツドリンクを流し込み、口に含んだままいきなり美波に深々とキスをした。

思わず全身に力を込める美波。
少し暖まった液体が、美波の口一杯に広がり、唇から溢れた。だが、それが顎から首筋に流れ落ちても、美波にはそれを感じる余裕すらなかった。

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