2 / 8
静かなる炎
しおりを挟む
「そりゃあ、まあ、戦費も貢納金も出せますがね、若様」
目の前に座る、真っ直ぐな瞳に、こっそりと肩を竦めて言葉を紡ぐ。
「しかしそこまでして、あの若王に肩入れすることもないのでは」
「私は、王の騎士なのです、祖父上、いえ市長殿」
だが、孫を心配するカイルの言葉は、いとも簡単に拒絶された。
溜息をこらえ、もう一度、目の前の小さな影を見つめる。年端もいかぬ、この小さな身体で、カイルの孫であるアキはこのフルギーラの地と、そこで栄えるファイラの街を上手に守っている。商業の重要性に気付いた祖父と同じように街の商人達に自由という特権を与え、芸術と文化を愛した父と同じように街の大学と学者・芸術家達に十分な庇護を与えている。フルギーラ家の父祖から続く援助と、街傍を流れるノイ川の水運、そして新しい領主となったアキが自身の知略と武術で森や街道を荒らす盗賊を殲滅してくれたおかげで、カイルが長を務めるこのファイラの街は、丘の多いこの地の特産物となっている毛織物と葡萄酒の取引で多大な財を成している。長年この街で商取引をしているのだから、そのことは、カイルは十分過ぎるほど理解している。だが、である。
先年、父である老王との共同統治に加わった若王リュカ。彼の王はこれまでの緩やかな封建制を廃し、王を絶対的な君主とする中央集権を画策している。そして、目の前にいる孫アキは、若王リュカのある意味無茶な戦略に従って、近隣の、王の命をのらりくらりと無視している小領主達を武力で攻め続けている。
貢納金で済むのであれば、小さな領土の武力を無理に割かずとも良いではないか。それが、カイルの本心。病弱な父に似たアキの身体のことも、心配。戦闘あるいは病気でアキが命を落としてしまえば、それこそあの若王は喜々として、アキの妹ティアに自分の腹心を娶らせ、この地を乗っ取るだろう。せめてアイラと同じくらい、丈夫に生まれついてくれれば良かったのに。娘のアイラに良く似た、アキの瞳の色に、カイルは自分の気持ちを隠すように唇を少しだけ、噛んだ。
おそらく、アキの一途さも、アイラに似たのだろう。諦めるように、息を吐く。カイルの長女であったアイラは、多忙を極めていたカイルと早くに亡くなったカイルの妻の代わりに家庭内を切り盛りし、妻が残したアイラの弟妹を一人前に育てた。その為に婚期は逃したが、街の大学を訪れていた前の領主に見初められ、結婚して息子と娘を産んだ。商人の娘と領主との結婚だから、もちろん、領主の親族からは反対の声が出た。商取引で様々な地を旅し、小領主の大変さを知っていたカイル自身も、街の商人に嫁ぐようアイラに言った。だがアイラは、全ての意見を押し切って、アキの父である前の領主の妻となった。
アイラはそれで、幸せだったのだろうか? 目の前の、娘と同じ瞳に、心の中で問いかける。たとえ娘とはいえ、他人は他人。他人の幸せを推し量ろうとするのは、不遜だともいえるし馬鹿げてもいる。それは、目の前の孫、フルギーラの領主アキに対しても、同じ。仕方が無い。見守るしか、ないのだろう。じっと祖父を見つめる強い光に、カイルは悲しみにも似た笑みを零した。
目の前に座る、真っ直ぐな瞳に、こっそりと肩を竦めて言葉を紡ぐ。
「しかしそこまでして、あの若王に肩入れすることもないのでは」
「私は、王の騎士なのです、祖父上、いえ市長殿」
だが、孫を心配するカイルの言葉は、いとも簡単に拒絶された。
溜息をこらえ、もう一度、目の前の小さな影を見つめる。年端もいかぬ、この小さな身体で、カイルの孫であるアキはこのフルギーラの地と、そこで栄えるファイラの街を上手に守っている。商業の重要性に気付いた祖父と同じように街の商人達に自由という特権を与え、芸術と文化を愛した父と同じように街の大学と学者・芸術家達に十分な庇護を与えている。フルギーラ家の父祖から続く援助と、街傍を流れるノイ川の水運、そして新しい領主となったアキが自身の知略と武術で森や街道を荒らす盗賊を殲滅してくれたおかげで、カイルが長を務めるこのファイラの街は、丘の多いこの地の特産物となっている毛織物と葡萄酒の取引で多大な財を成している。長年この街で商取引をしているのだから、そのことは、カイルは十分過ぎるほど理解している。だが、である。
先年、父である老王との共同統治に加わった若王リュカ。彼の王はこれまでの緩やかな封建制を廃し、王を絶対的な君主とする中央集権を画策している。そして、目の前にいる孫アキは、若王リュカのある意味無茶な戦略に従って、近隣の、王の命をのらりくらりと無視している小領主達を武力で攻め続けている。
貢納金で済むのであれば、小さな領土の武力を無理に割かずとも良いではないか。それが、カイルの本心。病弱な父に似たアキの身体のことも、心配。戦闘あるいは病気でアキが命を落としてしまえば、それこそあの若王は喜々として、アキの妹ティアに自分の腹心を娶らせ、この地を乗っ取るだろう。せめてアイラと同じくらい、丈夫に生まれついてくれれば良かったのに。娘のアイラに良く似た、アキの瞳の色に、カイルは自分の気持ちを隠すように唇を少しだけ、噛んだ。
おそらく、アキの一途さも、アイラに似たのだろう。諦めるように、息を吐く。カイルの長女であったアイラは、多忙を極めていたカイルと早くに亡くなったカイルの妻の代わりに家庭内を切り盛りし、妻が残したアイラの弟妹を一人前に育てた。その為に婚期は逃したが、街の大学を訪れていた前の領主に見初められ、結婚して息子と娘を産んだ。商人の娘と領主との結婚だから、もちろん、領主の親族からは反対の声が出た。商取引で様々な地を旅し、小領主の大変さを知っていたカイル自身も、街の商人に嫁ぐようアイラに言った。だがアイラは、全ての意見を押し切って、アキの父である前の領主の妻となった。
アイラはそれで、幸せだったのだろうか? 目の前の、娘と同じ瞳に、心の中で問いかける。たとえ娘とはいえ、他人は他人。他人の幸せを推し量ろうとするのは、不遜だともいえるし馬鹿げてもいる。それは、目の前の孫、フルギーラの領主アキに対しても、同じ。仕方が無い。見守るしか、ないのだろう。じっと祖父を見つめる強い光に、カイルは悲しみにも似た笑みを零した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる