63 / 351
第二章 湖を臨む都
2.21 秋分祭の日のこと②
しおりを挟む
「サシャじゃないか」
人でごった返す北都の大通りで、大柄な人物に声を掛けられる。
「カジミール。……セルジュも」
サシャに声を掛けた人物の後ろにセルジュを見かけ、サシャはほっとした表情を見せた。
「久しぶり」
そう言えば、『星読み』の家に居候しているカジミールには、『星読み』の仕事を手伝う時に会っているが、下町での伝染病騒動以来、セルジュには会っていなかった。サシャのエプロンのポケットの中から、そっと辺りを確かめる。セルジュには、護衛は付いていないようだ。王族を狙う暗殺者がいるかもしれないのに、大丈夫かな。心に生じた暗雲に、トールは小さく唸った。とにかく、今は、サシャを守る最善の策を考えなければ。
あの遺跡を調査した後すぐ、黒竜騎士団のあの三人は、何か別の用件があるとかで北都を離れた。しかしながら、あの全てを見透かす蒼い瞳を持った黒竜騎士団長ヴィリバルトが強く言ったのだろう、祭に浮かれる人々の間に見える、灰色の鎧を着た騎士らしき影は、普段よりも多く見える。
「やっぱり人、多いな」
トールが考え込んでいる間に、秋分祭のメインイベントが行われるらしい北都の広場へと向かう人達を避けるために大通りの端へとサシャとセルジュを引っ張ったカジミールが、辺りを見回して息を吐く。
「この人混みだと、『星読み』の宿舎の屋上から眺めた方が、祭、よく見えるな」
「宿舎?」
カジミールの言葉に反応したのは、小さくなって人混みを上手に避けていたクリス。
「北都の東側にあるんだ」
「それくらい知ってる」
追加されたカジミールの言葉に、湖で獲れた魚を街に配達する仕事も請け負っているクリスが鼻白む。
『星読み』の宿舎なら、『星読み』の手伝いをしているサシャも夜遅くなってしまったときには一泊することがあるから、トールもよく知っている。八都中を移動する『星読み』達が寝泊まりする、城壁と区別が付かない堅牢な石造りの建物が、北都の北東部、広場から通りを二つほど隔てた場所にある。その建物には、ちょっとした天体観測に用いる太めの塔が付属している。その塔から祭を眺めようというのが、カジミールの提案。
「広場からちょっと遠くないか?」
「だから穴場なんだよ」
クリスの問いに、カジミールがにやりと笑う。
「行っても良いぜ」
その笑顔に釣られたのか、クリスの日焼けした頬も上方に動いた。
「生意気な奴だな」
そのクリスの笑みに、カジミールが吹き出す。
クリスとカジミールは、良い仲間になりそうだ。風に揺れるカジミールの、サシャを助けてくれた『冬の国』の人タトゥに似た薄い金色の髪と、汗に濡れたクリスの、北都の人々の中では珍しくない濃い色の前髪に、トールも小さく微笑んだ。
「セルジュも、良いよな」
「ああ」
首だけを横に向けたカジミールに、セルジュが濃い金色の髪を揺らす。
「サシャも」
「はい」
もちろん、トールにも異論はない。
人混みを避けるために細い道を選ぶカジミールに、トールはサシャと共に黙って従った。
人でごった返す北都の大通りで、大柄な人物に声を掛けられる。
「カジミール。……セルジュも」
サシャに声を掛けた人物の後ろにセルジュを見かけ、サシャはほっとした表情を見せた。
「久しぶり」
そう言えば、『星読み』の家に居候しているカジミールには、『星読み』の仕事を手伝う時に会っているが、下町での伝染病騒動以来、セルジュには会っていなかった。サシャのエプロンのポケットの中から、そっと辺りを確かめる。セルジュには、護衛は付いていないようだ。王族を狙う暗殺者がいるかもしれないのに、大丈夫かな。心に生じた暗雲に、トールは小さく唸った。とにかく、今は、サシャを守る最善の策を考えなければ。
あの遺跡を調査した後すぐ、黒竜騎士団のあの三人は、何か別の用件があるとかで北都を離れた。しかしながら、あの全てを見透かす蒼い瞳を持った黒竜騎士団長ヴィリバルトが強く言ったのだろう、祭に浮かれる人々の間に見える、灰色の鎧を着た騎士らしき影は、普段よりも多く見える。
「やっぱり人、多いな」
トールが考え込んでいる間に、秋分祭のメインイベントが行われるらしい北都の広場へと向かう人達を避けるために大通りの端へとサシャとセルジュを引っ張ったカジミールが、辺りを見回して息を吐く。
「この人混みだと、『星読み』の宿舎の屋上から眺めた方が、祭、よく見えるな」
「宿舎?」
カジミールの言葉に反応したのは、小さくなって人混みを上手に避けていたクリス。
「北都の東側にあるんだ」
「それくらい知ってる」
追加されたカジミールの言葉に、湖で獲れた魚を街に配達する仕事も請け負っているクリスが鼻白む。
『星読み』の宿舎なら、『星読み』の手伝いをしているサシャも夜遅くなってしまったときには一泊することがあるから、トールもよく知っている。八都中を移動する『星読み』達が寝泊まりする、城壁と区別が付かない堅牢な石造りの建物が、北都の北東部、広場から通りを二つほど隔てた場所にある。その建物には、ちょっとした天体観測に用いる太めの塔が付属している。その塔から祭を眺めようというのが、カジミールの提案。
「広場からちょっと遠くないか?」
「だから穴場なんだよ」
クリスの問いに、カジミールがにやりと笑う。
「行っても良いぜ」
その笑顔に釣られたのか、クリスの日焼けした頬も上方に動いた。
「生意気な奴だな」
そのクリスの笑みに、カジミールが吹き出す。
クリスとカジミールは、良い仲間になりそうだ。風に揺れるカジミールの、サシャを助けてくれた『冬の国』の人タトゥに似た薄い金色の髪と、汗に濡れたクリスの、北都の人々の中では珍しくない濃い色の前髪に、トールも小さく微笑んだ。
「セルジュも、良いよな」
「ああ」
首だけを横に向けたカジミールに、セルジュが濃い金色の髪を揺らす。
「サシャも」
「はい」
もちろん、トールにも異論はない。
人混みを避けるために細い道を選ぶカジミールに、トールはサシャと共に黙って従った。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる