『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第二章 湖を臨む都

2.24 新学期の教室①

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 煌星祭きらぼしのまつりの次の日。

 新学期の講義室――大きめの屋敷の二階にある、だだっ広いだけで机も椅子も無い部屋――は、人いきれで埋まっていた。

「サシャ!」

 その講義室の前の方で、手招きする大きな腕を見つける。

「ここ、来いよ」

 あの大柄な影は、カジミール。人の多さに立ち竦んでいたサシャの、友人を確かめてほっとした表情に頷く。

 人混みを何とか掻き分けると、サシャはカジミールの隣の、何も敷いていない床に腰を下ろした。

「今日は、人、多いね」

「初日だからな」

 カジミールの赤みを帯びた頬を見上げたサシャの頬からは、先程までの蒼さが無くなっている。やはり、友達と居ることが心強いのだろう。見たことの無い顔ばかりの周囲を確かめ、トールは小さく首を横に振った。トールも、……雪が音を立てて降る町に引っ越してきた当初は、友達が一人も居なくて心細かった。

「今日は学長の話と、学習計画について個別に面談するだけだから、この人混みも今日だけさ」

 カジミールの言葉に、サシャと同時に頷く。カジミールは、二年前から自由七科を学ぶこの学校に通っていると、サシャのもう一人の学友セルジュも、サシャが計算を手伝っている『星読ほしよみ』博士、リュカの父ヒルベルトも言っていた。だから、学校の初日についても詳しい。

 大学で専門的なことを学ぶため、あるいは専門的な職に就くためには、文法・修辞・論理・算術・幾何・音楽・天文という『自由七科』の履修が必須だと、これは北辺ほくへんの修道院でアラン師匠から聞いている。北向きたむくの国にある、自由七科を学ぶことができる『学校』は、北都ほくとのこの場所にある一つだけ。学校が始まる『煌星祭の翌日』に、学校に集まる人間が多いのは、ある意味当たり前。

 トールが通っていた地方の小さな大学でも、新学期の初回の授業は、大学にはこんなに学生がいたのかと感心してしまうほど人いきれが酷かった。昔の思い出に心が痛くなり、トールはそっと俯いた。

「セルジュは?」

 確かめるように二度、辺りを見回したサシャが、再びカジミールを見上げる。そう言えば、秋分祭しゅうぶんのまつりで暗殺者に襲われて以来、見かけていない。

「暗殺者のことを危惧して、王宮で個人授業を受けるそうだ」

 仕方が無いな。肩を落としたように見えたカジミールと、俯いたサシャに、トールの心も更に沈む。いじめっ子達からサシャを庇ってくれたのも、引っ込み思案なサシャを議論に誘ってくれたのも、セルジュ。王太子の第二王子であり、北向の重要人物でもあるのだから、特別に守る必要がある存在なのは分かる。でも、……やはり、淋しさを覚えてしまう。

「あ、そうだ」

 空気を変えたかったのだろう、顔を上げてサシャを見たカジミールが、殊更に明るい声を発する。

「ヒルベルト様から、『煌星祭の手伝いありがとう』って言っておいてくれって頼まれてたんだった」
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