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第二章 湖を臨む都
2.32 湖の西
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僅かなざわめきに、そっと瞳を上げる。
目に映ったのは、夜空に輝く煌星と、風に揺れる梢。
地上に、戻った? まだぼうっとする思考をはっきりさせるために、首を強く横に振る。……そうだ、サシャは? 焦りを自覚する前に、トールは、自分のすぐ横で仰向けに倒れている、びしょ濡れの服を身体に貼り付けたサシャを発見した。
[大丈夫か?]
表紙に小さく文字を並べ、サシャの様子を確かめる。粒の大きい砂地に投げ出された細い腕はピクリとも動かないが、重く濡れた服は、僅かながらも上下を繰り返している。息は、ある。……生きている。トールはほっと胸を撫で下ろした。
とにかく、濡れた服を換えた方が良い。冷たく見える星空を確かめる。この場所からは、湖の水は十分遠くに見えるから、再び溺れることは心配しなくて良い。だが、今は冬。濡れた服のままでは、サシャが凍えてしまう。何とかしなければ。再びの焦りに、トールは唇を噛みしめた。『本』である自分では、今のサシャを助けることができない。
天を仰いだトールの視界の端に、光が入る。
誰か、来る? 確かめようと首を伸ばす前に、トールの耳に聞き覚えのある声が響いた。
「サシャ!」
松明を従えた小さな影が、トールとサシャの間に割って入る。
「居たっ! 居たよっ! アラン師匠!」
身動き一つしないサシャを目視で確認したクリスが、松明を持ってサシャの側に膝をついたアランに向かって飛び跳ねるように叫ぶ、その声を、トールは安堵と共に聞いていた。
「マルクさんが言った通り!」
北向の北辺から流れ来る水を湛える『星の湖』の水は、東側の東雲と西側の秋津に流れていく。北辺の修道院で読んだ本の内容を、思い出す。湖の西側に落ちたのなら、秋津へと流れる河に近い岸辺に流れ着いているかもしれない。漁師の親方、マルクの言葉を繰り返すクリスに、トールは「なるほど」と頷いた。
「冷たいな」
はしゃぐクリスの横でサシャの身体を触れて確かめたアランが、クリスに松明を渡す。
「サシャ、……生きてるの?」
松明を受け取ったクリスは、飛び跳ねるのを止めてアランとサシャを交互に見つめた。
「本当に?」
「ああ」
「マルクさん、『湖の住人は気まぐれだ』って言ってたことある、けど」
目を丸くしたクリスに、アランが微笑む。
「……だが」
しかしすぐに、アランの瞳は険しさを増した。
「濡れた服を脱がせて、温めないと」
アランの言葉に、今度はクリスが笑う。
「近くに、網を置いてる建物があるよ」
「そこに案内してくれ」
「良いよ」
頷いたクリスを確かめる前に、アランは再びサシャの身を確認し、そして辺りを見回した。
「何?」
首を傾げるクリスに頷いたアランが、トールの方へと手を伸ばす。あっと思う間もなく、トールの身体はアランからクリスへと手渡されていた。
「これ、サシャの本!」
トールを見つめたクリスの口から、驚きが漏れる。
「濡れてない!」
「ああ。……神の、思し召しだ」
そのクリスに大きく頷くと、アランはサシャの身体を一息で抱き上げた。
「じゃ、じゃあ、サシャ、助かる?」
立ち上がったアランを見上げたクリスに、アランが頷く。
「適切な治療を施せば、な」
「良かった」
建物、すぐ近くだから。松明を掲げてアランの前を歩き始めたクリスに、ほっと息を吐く。クリスの腕の中で、トールはようやく全身の力を抜いた。
目に映ったのは、夜空に輝く煌星と、風に揺れる梢。
地上に、戻った? まだぼうっとする思考をはっきりさせるために、首を強く横に振る。……そうだ、サシャは? 焦りを自覚する前に、トールは、自分のすぐ横で仰向けに倒れている、びしょ濡れの服を身体に貼り付けたサシャを発見した。
[大丈夫か?]
表紙に小さく文字を並べ、サシャの様子を確かめる。粒の大きい砂地に投げ出された細い腕はピクリとも動かないが、重く濡れた服は、僅かながらも上下を繰り返している。息は、ある。……生きている。トールはほっと胸を撫で下ろした。
とにかく、濡れた服を換えた方が良い。冷たく見える星空を確かめる。この場所からは、湖の水は十分遠くに見えるから、再び溺れることは心配しなくて良い。だが、今は冬。濡れた服のままでは、サシャが凍えてしまう。何とかしなければ。再びの焦りに、トールは唇を噛みしめた。『本』である自分では、今のサシャを助けることができない。
天を仰いだトールの視界の端に、光が入る。
誰か、来る? 確かめようと首を伸ばす前に、トールの耳に聞き覚えのある声が響いた。
「サシャ!」
松明を従えた小さな影が、トールとサシャの間に割って入る。
「居たっ! 居たよっ! アラン師匠!」
身動き一つしないサシャを目視で確認したクリスが、松明を持ってサシャの側に膝をついたアランに向かって飛び跳ねるように叫ぶ、その声を、トールは安堵と共に聞いていた。
「マルクさんが言った通り!」
北向の北辺から流れ来る水を湛える『星の湖』の水は、東側の東雲と西側の秋津に流れていく。北辺の修道院で読んだ本の内容を、思い出す。湖の西側に落ちたのなら、秋津へと流れる河に近い岸辺に流れ着いているかもしれない。漁師の親方、マルクの言葉を繰り返すクリスに、トールは「なるほど」と頷いた。
「冷たいな」
はしゃぐクリスの横でサシャの身体を触れて確かめたアランが、クリスに松明を渡す。
「サシャ、……生きてるの?」
松明を受け取ったクリスは、飛び跳ねるのを止めてアランとサシャを交互に見つめた。
「本当に?」
「ああ」
「マルクさん、『湖の住人は気まぐれだ』って言ってたことある、けど」
目を丸くしたクリスに、アランが微笑む。
「……だが」
しかしすぐに、アランの瞳は険しさを増した。
「濡れた服を脱がせて、温めないと」
アランの言葉に、今度はクリスが笑う。
「近くに、網を置いてる建物があるよ」
「そこに案内してくれ」
「良いよ」
頷いたクリスを確かめる前に、アランは再びサシャの身を確認し、そして辺りを見回した。
「何?」
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「これ、サシャの本!」
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「濡れてない!」
「ああ。……神の、思し召しだ」
そのクリスに大きく頷くと、アランはサシャの身体を一息で抱き上げた。
「じゃ、じゃあ、サシャ、助かる?」
立ち上がったアランを見上げたクリスに、アランが頷く。
「適切な治療を施せば、な」
「良かった」
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