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第三章 森と砦と
3.9 神殿の幻想 その2
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不意に瞳の端を過った金網に、思わず一歩、歩を進める。
あの、少し錆びる度に細かく塗り直している所為で斑になっている金網は、この町に引っ越してきてからずっとトールが通っていたサッカー&フットサルクラブの、ボール飛び出し防止用の金網。思い出すと同時に、胸が痛くなる。この金網にも、もう逢えないと思っていた。
熱くなった瞳が、見慣れた人影を捉える。
あれは、……父。何を、見ているのだろう? 首を傾げつつ、更に一歩、父の方へと歩を進める。おそらく、クラブ所属の人達は、よそのグラウンドで行われている試合に参加しているのだろう、雲一つ無く晴れているのに、金網の向こうに見える土色のグラウンドには誰もいない。それなのに、トールの父は、金網の側でグラウンドを見つめている。
その父の横に、そっと佇む。
首を少し斜めに傾けることで見えた、表情の無い父の横顔に、トールは言葉を失った。
常に口角を少しだけ上げる以外の表情を見せない母と違い、父は、笑う時は笑い、怒る時は怒る人、だったはず。それなのに、何故?
〈俺の、所為だ〉
思い当たった結論が、心を貫く。
「ごめんなさい、父さん」
その言葉が喉から出る前に、景色は不意に闇色に染まった。
あの、少し錆びる度に細かく塗り直している所為で斑になっている金網は、この町に引っ越してきてからずっとトールが通っていたサッカー&フットサルクラブの、ボール飛び出し防止用の金網。思い出すと同時に、胸が痛くなる。この金網にも、もう逢えないと思っていた。
熱くなった瞳が、見慣れた人影を捉える。
あれは、……父。何を、見ているのだろう? 首を傾げつつ、更に一歩、父の方へと歩を進める。おそらく、クラブ所属の人達は、よそのグラウンドで行われている試合に参加しているのだろう、雲一つ無く晴れているのに、金網の向こうに見える土色のグラウンドには誰もいない。それなのに、トールの父は、金網の側でグラウンドを見つめている。
その父の横に、そっと佇む。
首を少し斜めに傾けることで見えた、表情の無い父の横顔に、トールは言葉を失った。
常に口角を少しだけ上げる以外の表情を見せない母と違い、父は、笑う時は笑い、怒る時は怒る人、だったはず。それなのに、何故?
〈俺の、所為だ〉
思い当たった結論が、心を貫く。
「ごめんなさい、父さん」
その言葉が喉から出る前に、景色は不意に闇色に染まった。
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