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第四章 帝都の日々
4.28 白竜騎士団前の衝突
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何度も後ろを振り返りながら歩くサシャの、鼓動の速さに、唇を噛み締めて首を横に振る。
「大丈夫ですか、サシャ?」
普段は何でもない石畳の隙間に足を取られて揺れるサシャの腕を何度も優しく掴んでサシャを支えるフェリクスに何度も首を横に振ったサシャの血の気の無い頬に、トールの胸は痛みで溢れかえっていた。
夕刻の通りに、人は疎ら。段々と暗くなっていく道のりは、普段以上に長く思えてしまう。サシャの後ろを進む、エルチェとピオが運ぶ担架に乗せられたブラスの遺体に、すれ違う人影が驚きの表情を見せる。その人影達の、好奇を含む視線にも、息が苦しくなる。トールの背表紙に落ちた、サシャの涙に、トールは再び首を横に振った。
「これはこれは、フェリクス殿」
ようやく、帝都の北東側にある白竜騎士団の詰所の前へと辿り着く。
「何か?」
「実は……」
「そいつがやったんだろ!」
正面玄関から出てきた白竜騎士団長イジドールに説明を始めたフェリクスの声は、しかしイジドールの後ろから響いた罵声に掻き消された。
「そいつ、狂信者と繋がってるって噂だぜ!」
「郊外へ出掛けてる理由も、古代の神殿と、生け贄用の犠牲者を探してるからって、聞いたことがあるんだ」
「火炙りにされかけて助かったのも、狂信者の気まぐれってことらしい」
フェリクスが背後に隠したサシャを指差して罵る声に、震えが走る。どの声も、事実とは異なる。しかしそれを証明するための根拠を示すことはできない。根拠の無い侮蔑は、相手にしないのが一番。サシャを侮辱する、銀色の竜が刺繍された白いマントを羽織る青年達と、根拠無く年下の相手を罵る部下に何も言わない白竜騎士団長をトールが睨む前に、その場に固まってしまったサシャの手をフェリクスが優しく掴んだ。
「帰りましょう、サシャ」
踵を返したフェリクスが、エルチェとピオに、ブラスの遺体を白竜騎士団の詰所の中に運ぶよう、小さな声で指示を出す。
「ブラスっ!」
不意に響いた、ブラスの兄バジャルドの声に、動き始めたサシャの全身は再び固まった。
「ブラスっ!」
エルチェとピオが運びかけた担架に、バジャルドが飛びつく。大柄なバジャルドの影に二人が見えなくなった次の瞬間、突然の閃光が、トールの目を射た。
次にトールが目にしたのは、バジャルドの喉元に剣の切っ先を突きつけているフェリクスの、いつにない鋭さ。
「サシャ!」
一瞬遅れて、担架を取り落としたエルチェとピオがサシャとバジャルドの間に割って入る。
「怪我は?」
エルチェの声に、サシャの鼓動を確かめる。
辺りを見回すと、尻餅をついたサシャの左脇ギリギリに、バジャルドがいつも剣帯で吊していた剣が、抜き身の状態で石畳に刺さっているのが、見えた。
「根拠の無い噂で弱き者を罵るとは」
バジャルドに切っ先を突きつけたままのフェリクスが、静かに、瞳だけで辺りを見回す。
「白竜騎士団も地に堕ちましたね」
誰も動かないことを確かめ、目を伏せて剣を鞘に収めたフェリクスは、あくまで、冷静さを保っていた。
「遺体を乱暴に扱ってしまって申し訳ありません」
全身が固まったままのバジャルドに、フェリクスが深く頭を下げる。
「戻りましょう、サシャ」
そしてくるりと踵を返したフェリクスは、何とか立ち上がったサシャを支えて帰るようにとピオとエルチェに指示を出した。
「大丈夫ですか、サシャ?」
普段は何でもない石畳の隙間に足を取られて揺れるサシャの腕を何度も優しく掴んでサシャを支えるフェリクスに何度も首を横に振ったサシャの血の気の無い頬に、トールの胸は痛みで溢れかえっていた。
夕刻の通りに、人は疎ら。段々と暗くなっていく道のりは、普段以上に長く思えてしまう。サシャの後ろを進む、エルチェとピオが運ぶ担架に乗せられたブラスの遺体に、すれ違う人影が驚きの表情を見せる。その人影達の、好奇を含む視線にも、息が苦しくなる。トールの背表紙に落ちた、サシャの涙に、トールは再び首を横に振った。
「これはこれは、フェリクス殿」
ようやく、帝都の北東側にある白竜騎士団の詰所の前へと辿り着く。
「何か?」
「実は……」
「そいつがやったんだろ!」
正面玄関から出てきた白竜騎士団長イジドールに説明を始めたフェリクスの声は、しかしイジドールの後ろから響いた罵声に掻き消された。
「そいつ、狂信者と繋がってるって噂だぜ!」
「郊外へ出掛けてる理由も、古代の神殿と、生け贄用の犠牲者を探してるからって、聞いたことがあるんだ」
「火炙りにされかけて助かったのも、狂信者の気まぐれってことらしい」
フェリクスが背後に隠したサシャを指差して罵る声に、震えが走る。どの声も、事実とは異なる。しかしそれを証明するための根拠を示すことはできない。根拠の無い侮蔑は、相手にしないのが一番。サシャを侮辱する、銀色の竜が刺繍された白いマントを羽織る青年達と、根拠無く年下の相手を罵る部下に何も言わない白竜騎士団長をトールが睨む前に、その場に固まってしまったサシャの手をフェリクスが優しく掴んだ。
「帰りましょう、サシャ」
踵を返したフェリクスが、エルチェとピオに、ブラスの遺体を白竜騎士団の詰所の中に運ぶよう、小さな声で指示を出す。
「ブラスっ!」
不意に響いた、ブラスの兄バジャルドの声に、動き始めたサシャの全身は再び固まった。
「ブラスっ!」
エルチェとピオが運びかけた担架に、バジャルドが飛びつく。大柄なバジャルドの影に二人が見えなくなった次の瞬間、突然の閃光が、トールの目を射た。
次にトールが目にしたのは、バジャルドの喉元に剣の切っ先を突きつけているフェリクスの、いつにない鋭さ。
「サシャ!」
一瞬遅れて、担架を取り落としたエルチェとピオがサシャとバジャルドの間に割って入る。
「怪我は?」
エルチェの声に、サシャの鼓動を確かめる。
辺りを見回すと、尻餅をついたサシャの左脇ギリギリに、バジャルドがいつも剣帯で吊していた剣が、抜き身の状態で石畳に刺さっているのが、見えた。
「根拠の無い噂で弱き者を罵るとは」
バジャルドに切っ先を突きつけたままのフェリクスが、静かに、瞳だけで辺りを見回す。
「白竜騎士団も地に堕ちましたね」
誰も動かないことを確かめ、目を伏せて剣を鞘に収めたフェリクスは、あくまで、冷静さを保っていた。
「遺体を乱暴に扱ってしまって申し訳ありません」
全身が固まったままのバジャルドに、フェリクスが深く頭を下げる。
「戻りましょう、サシャ」
そしてくるりと踵を返したフェリクスは、何とか立ち上がったサシャを支えて帰るようにとピオとエルチェに指示を出した。
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