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第四章 帝都の日々
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「サシャ」
不意に響いた、聞き知った声に、思考が止まる。
この、声、は……!
「サシャ……」
灯りを持たずに部屋に入ってきた細い影、セルジュが、アランが座っていた椅子に腰を下ろす。汗に濡れたサシャの額に触れたセルジュは、厚手の毛布の上に投げ出されたサシャの左腕を小さく掴んだ。
「この火傷は、狂信者の贄にされかけた……」
引き攣れた痕になってしまったサシャの火傷を静かに撫でるセルジュの、震える背に、言葉が出ない。何故セルジュは、ここに来たのだろう? 脳裏を過った疑問に、トールは小さく首を傾げた。見舞いなら、朝になってからでも良いのに。
「……セルジュ?」
暗闇に僅かに光った、紅い瞳に、ほっと息を吐く。サシャは、……大丈夫だ。トールの安堵は、しかし次のセルジュの言葉で緊張に変わった。
「済まない、サシャ」
サシャの左腕を強く掴んだセルジュの肩が、大きく震える。
「北都に流れた中傷、最初に、曾御祖父様の、先の老王陛下の側近の耳に入れたの、は……」
目を見開いたサシャと、言葉を失ったトールの耳に、震えるセルジュの声が響いた。
「北都の、サシャの活躍が、羨ましくて」
北都の下町で疫病が発生した時、セルジュは真っ先に安全な王宮に逃げた。秋分祭の日、カジミールとサシャが暗殺者を阻止しようとした時も、王族に課せられていた日頃の武術訓練にも拘わらず、セルジュの身体は竦んでしまい、結局サシャに庇われるだけになってしまった。それが悔しくて、サシャを妬んでしまった。だからセルジュは、先の老王陛下がサシャに会うと決めた時に、老王が信頼している側近に、サシャのことについて『嘘』を囁いた。
「曾御祖父様の謁見が止まれば、それで良かった、の……」
「セルジュ」
サシャの左手を涙で濡らしたセルジュに、サシャが首を横に振る。サシャは、セルジュを許すつもりだ。首を横に振ったトールは、しかしすぐにサシャを優しく見つめた。セルジュに対し怒りを覚えないのが、サシャの心。それは、トールもしっかりと理解していた。
「僕もね、セルジュ。……一つだけ、秘密があるんだ」
微笑んで頷いたトールの耳に、今にも消えそうなサシャの声が響く。
「僕は、……セルジュやリュカの、又従兄弟にあたる、らしい」
「えっ?」
サシャの言葉に目を丸くしたセルジュの涙は、確かに、止まっていた。
「……じゃ、じゃあ」
しばらくの間言葉を失っていたセルジュの唇が、彷徨うように言葉を紡ぐ。
「サシャは、御祖父様の、弟君の、孫、に」
「うん」
目を瞬かせたセルジュに、サシャは大きく頷いた。
「誰にも、言わないで」
「分かった」
それだけを口にして眠りに落ちたサシャの左手を、セルジュが優しく握り締める。
セルジュは、サシャの秘密を誰にも言わない。確信に、トールは大きく頷いた。
不意に響いた、聞き知った声に、思考が止まる。
この、声、は……!
「サシャ……」
灯りを持たずに部屋に入ってきた細い影、セルジュが、アランが座っていた椅子に腰を下ろす。汗に濡れたサシャの額に触れたセルジュは、厚手の毛布の上に投げ出されたサシャの左腕を小さく掴んだ。
「この火傷は、狂信者の贄にされかけた……」
引き攣れた痕になってしまったサシャの火傷を静かに撫でるセルジュの、震える背に、言葉が出ない。何故セルジュは、ここに来たのだろう? 脳裏を過った疑問に、トールは小さく首を傾げた。見舞いなら、朝になってからでも良いのに。
「……セルジュ?」
暗闇に僅かに光った、紅い瞳に、ほっと息を吐く。サシャは、……大丈夫だ。トールの安堵は、しかし次のセルジュの言葉で緊張に変わった。
「済まない、サシャ」
サシャの左腕を強く掴んだセルジュの肩が、大きく震える。
「北都に流れた中傷、最初に、曾御祖父様の、先の老王陛下の側近の耳に入れたの、は……」
目を見開いたサシャと、言葉を失ったトールの耳に、震えるセルジュの声が響いた。
「北都の、サシャの活躍が、羨ましくて」
北都の下町で疫病が発生した時、セルジュは真っ先に安全な王宮に逃げた。秋分祭の日、カジミールとサシャが暗殺者を阻止しようとした時も、王族に課せられていた日頃の武術訓練にも拘わらず、セルジュの身体は竦んでしまい、結局サシャに庇われるだけになってしまった。それが悔しくて、サシャを妬んでしまった。だからセルジュは、先の老王陛下がサシャに会うと決めた時に、老王が信頼している側近に、サシャのことについて『嘘』を囁いた。
「曾御祖父様の謁見が止まれば、それで良かった、の……」
「セルジュ」
サシャの左手を涙で濡らしたセルジュに、サシャが首を横に振る。サシャは、セルジュを許すつもりだ。首を横に振ったトールは、しかしすぐにサシャを優しく見つめた。セルジュに対し怒りを覚えないのが、サシャの心。それは、トールもしっかりと理解していた。
「僕もね、セルジュ。……一つだけ、秘密があるんだ」
微笑んで頷いたトールの耳に、今にも消えそうなサシャの声が響く。
「僕は、……セルジュやリュカの、又従兄弟にあたる、らしい」
「えっ?」
サシャの言葉に目を丸くしたセルジュの涙は、確かに、止まっていた。
「……じゃ、じゃあ」
しばらくの間言葉を失っていたセルジュの唇が、彷徨うように言葉を紡ぐ。
「サシャは、御祖父様の、弟君の、孫、に」
「うん」
目を瞬かせたセルジュに、サシャは大きく頷いた。
「誰にも、言わないで」
「分かった」
それだけを口にして眠りに落ちたサシャの左手を、セルジュが優しく握り締める。
セルジュは、サシャの秘密を誰にも言わない。確信に、トールは大きく頷いた。
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