君が手に、我が手を重ねて

風城国子智

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砦の秘密 1

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「たっ、隊長っ!」
 何時に無く急いたチコの声が、緊張感に満ちた砦の中庭に響く。
「……キカ?」
 その声で、隊員に剣の技を教える為の模擬剣を下ろしたリトが、チコの背中でぐったりしている影を認めて声を上げた。
「キカじゃないか。どうしたんだ?」
「砦と丘との間をパトロールしてたら、草陰で倒れてた」
 武術訓練に加わっていたパキトの問いに、チコが答える。まだ少年にしか見えない、チコの後ろの小さな影に、武術訓練に加わっていたエリカは大きく息を吐いた。おそらく、キカという名のこの少年も、エリカの婚約者であるリト達と同じ『黒剣隊』の一員。そして。……命を狙われ、這々の体でここまで逃げてきた。
「とりあえず降ろして」
 中庭の隅の長椅子に素早く自分のマントを敷いたリトに頷いたチコがそっと、キカの小さな身体を長椅子の上に乗せる。
「大丈夫か?」
 パキトが持って来た水をリトが飲ませると、小さな影はゆっくりと瞼を上げ、そして見開いた目をぱちぱちさせながら周りを見回した。
「た、隊長……。みんなも……」
「無事で良かった」
 リトの服を掴んで泣くキカの髪を、リトが優しく撫でる。しかしすぐに、キカはリトの服から手を離した。
「どうした?」
「丘の麓に、帝国の騎士達が集結しています。……大勢」
 唇を噛みしめたキカの言葉に、砦の中庭にいた隊員達の顔色が変わる。
「やはり、来たか」
 その中で、隊長であるリトだけが一人、冷静に頷いた。
「しかし意外に遅かったですね」
 そのリトに、パキトが、普段通りの軽口を叩く。
「ま、遅かれ早かれ、だ」
 そう言うと、リトは中庭に隊員全員を集めるよう、パキトに指示した。
 母が何者かに殺され、リト達とともにエリカがこの砦に隠れてから、既に一つの季節が過ぎていた。その間に、帝国を統治する帝によって解散させられ、帝国の各地に身を寄せていた『黒剣隊』の隊員達は三々五々、自分の身を守る為に、この、『黒剣隊』の拠り所であった、平原を開拓する人々を跋扈する魔物から守る為の砦に戻ってきていた。
 だが、既に暗殺者の手に掛かってしまった者もいる所為か、今の段階で、砦に隠れている人数は少ない。頑丈な砦があるとはいえ、少人数で、多勢と戦って大丈夫なのだろうか。次々と集まってくる、様々な年代や身体つきの人々を見つめてから、エリカは同じように集まってくる隊員達を見つめるリトの、端正だが青みが増した横顔を見つめた。
「やっぱり、逃げるが勝ち、ですか?」
 そのエリカの横で、パキトがリトに尋ねる。
「最終的にはそうするしかないだろう。食料無しで冬は越せない。……だが」
 小さな声が、エリカの耳に響いた。
「何故我々が命を狙われなければならないのか、その理由を確かめる必要がある」
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