10 / 19
砦の秘密 1
しおりを挟む
「たっ、隊長っ!」
何時に無く急いたチコの声が、緊張感に満ちた砦の中庭に響く。
「……キカ?」
その声で、隊員に剣の技を教える為の模擬剣を下ろしたリトが、チコの背中でぐったりしている影を認めて声を上げた。
「キカじゃないか。どうしたんだ?」
「砦と丘との間をパトロールしてたら、草陰で倒れてた」
武術訓練に加わっていたパキトの問いに、チコが答える。まだ少年にしか見えない、チコの後ろの小さな影に、武術訓練に加わっていたエリカは大きく息を吐いた。おそらく、キカという名のこの少年も、エリカの婚約者であるリト達と同じ『黒剣隊』の一員。そして。……命を狙われ、這々の体でここまで逃げてきた。
「とりあえず降ろして」
中庭の隅の長椅子に素早く自分のマントを敷いたリトに頷いたチコがそっと、キカの小さな身体を長椅子の上に乗せる。
「大丈夫か?」
パキトが持って来た水をリトが飲ませると、小さな影はゆっくりと瞼を上げ、そして見開いた目をぱちぱちさせながら周りを見回した。
「た、隊長……。みんなも……」
「無事で良かった」
リトの服を掴んで泣くキカの髪を、リトが優しく撫でる。しかしすぐに、キカはリトの服から手を離した。
「どうした?」
「丘の麓に、帝国の騎士達が集結しています。……大勢」
唇を噛みしめたキカの言葉に、砦の中庭にいた隊員達の顔色が変わる。
「やはり、来たか」
その中で、隊長であるリトだけが一人、冷静に頷いた。
「しかし意外に遅かったですね」
そのリトに、パキトが、普段通りの軽口を叩く。
「ま、遅かれ早かれ、だ」
そう言うと、リトは中庭に隊員全員を集めるよう、パキトに指示した。
母が何者かに殺され、リト達とともにエリカがこの砦に隠れてから、既に一つの季節が過ぎていた。その間に、帝国を統治する帝によって解散させられ、帝国の各地に身を寄せていた『黒剣隊』の隊員達は三々五々、自分の身を守る為に、この、『黒剣隊』の拠り所であった、平原を開拓する人々を跋扈する魔物から守る為の砦に戻ってきていた。
だが、既に暗殺者の手に掛かってしまった者もいる所為か、今の段階で、砦に隠れている人数は少ない。頑丈な砦があるとはいえ、少人数で、多勢と戦って大丈夫なのだろうか。次々と集まってくる、様々な年代や身体つきの人々を見つめてから、エリカは同じように集まってくる隊員達を見つめるリトの、端正だが青みが増した横顔を見つめた。
「やっぱり、逃げるが勝ち、ですか?」
そのエリカの横で、パキトがリトに尋ねる。
「最終的にはそうするしかないだろう。食料無しで冬は越せない。……だが」
小さな声が、エリカの耳に響いた。
「何故我々が命を狙われなければならないのか、その理由を確かめる必要がある」
何時に無く急いたチコの声が、緊張感に満ちた砦の中庭に響く。
「……キカ?」
その声で、隊員に剣の技を教える為の模擬剣を下ろしたリトが、チコの背中でぐったりしている影を認めて声を上げた。
「キカじゃないか。どうしたんだ?」
「砦と丘との間をパトロールしてたら、草陰で倒れてた」
武術訓練に加わっていたパキトの問いに、チコが答える。まだ少年にしか見えない、チコの後ろの小さな影に、武術訓練に加わっていたエリカは大きく息を吐いた。おそらく、キカという名のこの少年も、エリカの婚約者であるリト達と同じ『黒剣隊』の一員。そして。……命を狙われ、這々の体でここまで逃げてきた。
「とりあえず降ろして」
中庭の隅の長椅子に素早く自分のマントを敷いたリトに頷いたチコがそっと、キカの小さな身体を長椅子の上に乗せる。
「大丈夫か?」
パキトが持って来た水をリトが飲ませると、小さな影はゆっくりと瞼を上げ、そして見開いた目をぱちぱちさせながら周りを見回した。
「た、隊長……。みんなも……」
「無事で良かった」
リトの服を掴んで泣くキカの髪を、リトが優しく撫でる。しかしすぐに、キカはリトの服から手を離した。
「どうした?」
「丘の麓に、帝国の騎士達が集結しています。……大勢」
唇を噛みしめたキカの言葉に、砦の中庭にいた隊員達の顔色が変わる。
「やはり、来たか」
その中で、隊長であるリトだけが一人、冷静に頷いた。
「しかし意外に遅かったですね」
そのリトに、パキトが、普段通りの軽口を叩く。
「ま、遅かれ早かれ、だ」
そう言うと、リトは中庭に隊員全員を集めるよう、パキトに指示した。
母が何者かに殺され、リト達とともにエリカがこの砦に隠れてから、既に一つの季節が過ぎていた。その間に、帝国を統治する帝によって解散させられ、帝国の各地に身を寄せていた『黒剣隊』の隊員達は三々五々、自分の身を守る為に、この、『黒剣隊』の拠り所であった、平原を開拓する人々を跋扈する魔物から守る為の砦に戻ってきていた。
だが、既に暗殺者の手に掛かってしまった者もいる所為か、今の段階で、砦に隠れている人数は少ない。頑丈な砦があるとはいえ、少人数で、多勢と戦って大丈夫なのだろうか。次々と集まってくる、様々な年代や身体つきの人々を見つめてから、エリカは同じように集まってくる隊員達を見つめるリトの、端正だが青みが増した横顔を見つめた。
「やっぱり、逃げるが勝ち、ですか?」
そのエリカの横で、パキトがリトに尋ねる。
「最終的にはそうするしかないだろう。食料無しで冬は越せない。……だが」
小さな声が、エリカの耳に響いた。
「何故我々が命を狙われなければならないのか、その理由を確かめる必要がある」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる