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君が手に 2
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物憂げに、瞼を上げる。
「あ……」
この天井は、知っている。月明かりにぼうっと霞む木目に、微笑む。エリカ自身の部屋の、天井。そこまで認識するなり、エリカはがばっとベッドから飛び起きた。
「リトっ!」
ラウルに斬られた傷の痛みが、全身を駆け巡る。しかしその痛みを総無視して、エリカは辺りを見回した。エリカ自身は、無事だ。でも、リトは? 地下墓所の床に倒れ伏し、身動き一つしなかったリトと、床に広がった血の色が脳裏を過ぎる。身体よりも、心が、痛い。シーツをぎゅっと握りしめ、エリカはもう一度、月明かりに照らされた誰も居ない部屋を見回した。
と。
「……エリカ?」
扉が開く音とともに、エリカの耳に涼やかな声が響く。
「リ、リトっ!」
エリカの横にふわりと立ったリトに、エリカは上擦った声を上げた。
「ダメだよ」
そのエリカを、リトが優しくベッドに横たえる。
「怪我、酷いんだから。ちゃんと寝てないと治らない」
柔らかい枕に埋まったエリカの額にリトが置いてくれる、冷たく湿った手ぬぐいが、エリカには心地良かった。
「……リト」
髪を撫でてくれるリトの手に、眠りに引き込まれそうになる。
「リト、怪我、大丈夫?」
それでも何とか、エリカはリトにそれだけ尋ねた。
「もちろん」
エリカに微笑む、リトに、頷いて目を閉じる。
「ラウルとシアノは帝都に連行されたし、皇太子殿下の誤解も解けたから、『黒剣隊』にはもう、危害は及ばない。サリナも、パキトの無念を晴らせたと思うし、……叔母上の無念も、晴らせたと思う」
聞こえてくる、冷静で涼やかなリトの声も、快い。だが。
「ちゃんと眠って、ちゃんと食事をして、ダリオさんの言うことをちゃんと聞いていたら、ちゃんと元気になるから、ね」
うとうととし始めたエリカの耳に響いた、リトの声に、エリカは再び跳ね起き、エリカに背を向けたリトの左腕をぎゅっと掴んだ。
「エリカ?」
掴んだリトの腕は、エリカの頬よりも熱い。
「どこへ、行くの?」
その熱に、既に答えを知っている質問を、エリカはした。
「平原に、戻るんでしょ? ……私も、連れて行って!」
次期の帝である摂政皇太子テオが持っていた誤解が解け、『黒剣隊』の隊員達の身の安全は確保された。だからこそ、リトは、今度こそ、……自分の責務を果たそうとするだろう。直感のままのエリカの言葉に、リトは再びエリカの方を向き、ただ静かに、微笑んだ。
「連れて行くわけには、いかないんだ」
そしてエリカを諭すように、言葉を紡ぐ。
「あそこでは、私は君を守ることができない」
「守らなくていい」
そのリトの言葉を遮り、エリカはリトを掴む手に力を込めた。
「私が、あなたを守る」
「えっ?」
「だから、私はあなたと一緒に行く。どこにでも、どこまでも」
決然としたエリカの言葉に、リトの頬が、月明かりでも分かるほどに赤くなる。そして。
「ありがとう」
微笑んだリトが、エリカの腕を掴んで強く引く。いつの間にか、エリカの身体は、リトの腕の中にあった。美人だと、常に思っていた、リトの顔が、エリカの目と鼻の先にある。そのことに初めて気付き、エリカは胸の鼓動を止めることができなかった。
リトの唇が、エリカの唇に重なる。
月明かりだけが、二人の前途を祝福していた。
「あ……」
この天井は、知っている。月明かりにぼうっと霞む木目に、微笑む。エリカ自身の部屋の、天井。そこまで認識するなり、エリカはがばっとベッドから飛び起きた。
「リトっ!」
ラウルに斬られた傷の痛みが、全身を駆け巡る。しかしその痛みを総無視して、エリカは辺りを見回した。エリカ自身は、無事だ。でも、リトは? 地下墓所の床に倒れ伏し、身動き一つしなかったリトと、床に広がった血の色が脳裏を過ぎる。身体よりも、心が、痛い。シーツをぎゅっと握りしめ、エリカはもう一度、月明かりに照らされた誰も居ない部屋を見回した。
と。
「……エリカ?」
扉が開く音とともに、エリカの耳に涼やかな声が響く。
「リ、リトっ!」
エリカの横にふわりと立ったリトに、エリカは上擦った声を上げた。
「ダメだよ」
そのエリカを、リトが優しくベッドに横たえる。
「怪我、酷いんだから。ちゃんと寝てないと治らない」
柔らかい枕に埋まったエリカの額にリトが置いてくれる、冷たく湿った手ぬぐいが、エリカには心地良かった。
「……リト」
髪を撫でてくれるリトの手に、眠りに引き込まれそうになる。
「リト、怪我、大丈夫?」
それでも何とか、エリカはリトにそれだけ尋ねた。
「もちろん」
エリカに微笑む、リトに、頷いて目を閉じる。
「ラウルとシアノは帝都に連行されたし、皇太子殿下の誤解も解けたから、『黒剣隊』にはもう、危害は及ばない。サリナも、パキトの無念を晴らせたと思うし、……叔母上の無念も、晴らせたと思う」
聞こえてくる、冷静で涼やかなリトの声も、快い。だが。
「ちゃんと眠って、ちゃんと食事をして、ダリオさんの言うことをちゃんと聞いていたら、ちゃんと元気になるから、ね」
うとうととし始めたエリカの耳に響いた、リトの声に、エリカは再び跳ね起き、エリカに背を向けたリトの左腕をぎゅっと掴んだ。
「エリカ?」
掴んだリトの腕は、エリカの頬よりも熱い。
「どこへ、行くの?」
その熱に、既に答えを知っている質問を、エリカはした。
「平原に、戻るんでしょ? ……私も、連れて行って!」
次期の帝である摂政皇太子テオが持っていた誤解が解け、『黒剣隊』の隊員達の身の安全は確保された。だからこそ、リトは、今度こそ、……自分の責務を果たそうとするだろう。直感のままのエリカの言葉に、リトは再びエリカの方を向き、ただ静かに、微笑んだ。
「連れて行くわけには、いかないんだ」
そしてエリカを諭すように、言葉を紡ぐ。
「あそこでは、私は君を守ることができない」
「守らなくていい」
そのリトの言葉を遮り、エリカはリトを掴む手に力を込めた。
「私が、あなたを守る」
「えっ?」
「だから、私はあなたと一緒に行く。どこにでも、どこまでも」
決然としたエリカの言葉に、リトの頬が、月明かりでも分かるほどに赤くなる。そして。
「ありがとう」
微笑んだリトが、エリカの腕を掴んで強く引く。いつの間にか、エリカの身体は、リトの腕の中にあった。美人だと、常に思っていた、リトの顔が、エリカの目と鼻の先にある。そのことに初めて気付き、エリカは胸の鼓動を止めることができなかった。
リトの唇が、エリカの唇に重なる。
月明かりだけが、二人の前途を祝福していた。
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