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九十九冒険譚
二振りの剣
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金属の匂いが、つんと鼻を突く。むずむずする鼻先を右手で軽く押さえながら、九七一は目を細め、不快そうに辺りを見回した。
今、九七一が歩いているのは、天楚市の南西部に位置する職人達の町。その中でも最も騒がしい部類に入るであろう鍛冶師や金属細工師達の工房が集う通りを、そこにある工房の一つに荷物を運ぶ用があるという禎理の後ろについて歩いていた。あまり大きくない通りを少し動くだけで、金や銀、鉄や銅などの金属臭が、活気に満ちた空気に乗って運ばれてくる。石畳の地面を蹴ると、天楚市の他の通りとは明らかに違う、日の光にきらきらと輝く砂埃が舞い上がった。
〈……嫌だな、こんなところは〉
普通の人々ならなんでもない鍛冶の音や金属臭が九七一の神経を荒々しく逆撫でする。犬型の魔物だから、たとえ人型を取っていても音や匂いは普通の人間より強く感じてしまう。そのことは九七一自身よく理解していた。だが、ここまで強いと、自分の能力がかえって嫌になる。それに、九七一自身、金属に対してはかなりのいけ好かない感情を持っていた。だから、本当は、こんな所には来たくはなかったのだが。
「大丈夫? 九……じゃないや、千早」
前を歩いていた禎理の声に、はっと我に返る。
「三叉亭で待っていたほうが良かったんじゃないの?」
顔色が悪いと言う禎理の言葉に、九七一は慌てて首を横に振った。今日は禎理の護衛で来ているのだから、こんなことで挫けてはいけない。
「護衛って、ここは天楚市だよ。昼間なんだし、危ないことなんて起きないよ」
休暇を取ると必ず魔界から地上界にやって来て、禎理にくっついて移動する九七一に、禎理はいつもそう言って笑う。だが、それでもやはり護衛が必要だと感じてしまうのは、禎理が自分に無頓着だから。この危なっかしい人間は、大切だと思うものの為なら自分の身なんて全く省みない。それを悲しむ者も存在するというのに。
「どうしたの、千早」
再び、人型変身時の自分の名前を呼ぶ禎理の声にはっとする。見ると、とある建物の前で、禎理が自分に向かって手招きをしていた。
「こっちだよ」
禎理の前には、下り階段がほの暗い大口を開けている。この階段の先に、禎理が背中の荷物――中身は銀細工だと九七一の鼻が告げていた――を届けるという冒険者が居るらしい。
「分かった」
暗闇をものともせずに階段を降りてゆく禎理に内心冷や冷やしながら、九七一もその後から階段を降りて行く。降りた先にあったのは、やはり薄暗い土間。
「……やっと来たか」
その奥の方、燃え盛る炉の傍に、小柄でがっしりとした人影が見えた。
あれが禎理の言っていたヴァルガという茶人族の冒険者だろう。そう見当をつけてから、禎理がその茶人に話しかけるのを横目に、狭い地下室をぐるりと見回す。この地下室にも、火と金属の匂いが充満している。ヴァルガは冒険者であると同時に、手先が器用なことで知られる茶人族の中でも卓越した金属加工技術を持つ鍛冶師であるらしいから、この空間の臭いは妥当なもの、なのだろう。しかし、火は魔界で慣れてはいるが、金属の匂いは全く駄目だ。これなら、やはり外で待っていたほうが良かった。いや、今からでも遅くはない、外に出てしまおう。そう思い、九七一が階段の方に足を向けた、丁度その時。
「……おや?」
九七一の視界に、変わった光が映る。ここは地下室だから、反射するような光は何処にも無いはず、なのに。不思議さと好奇心から、九七一はその光の方へと近づいた。
「……これか」
がらくたが集まった山の中から、目的の物を拾い上げる。赤く光を発するそれは、九七一が腰に下げて丁度良いくらいの長さを持つ剣。その軽さからすると、おそらく、大昔にこの大陸を支配していたと云われている『嶺家一族』が作成した特殊金属『ポリノミアル』で出来ているのだろう。九七一はそう見当をつけた。剣が収まっている鞘に細工された細い赤金色の模様が、光が差さない空間できらきらと光っていたのだ。
〈なんだ〉
原因が分かれば、大した事はない。金属が苦手な九七一は、さっさとその剣を手放そうと剣を掴んでいた手を開いた。
だが。
〈……抜いてみたい〉
自分の心の奥底から出てきた感情に、正直戸惑う。金属は嫌いなはずなのに、この感情は何だ?
「少しなら、大丈夫だよな」
誰にともなく小声でそう断ると、九七一は剣の柄と鞘に手を掛け、一気に剣を鞘から抜いた。
冷たい色をした刀身が、九七一の瞳を射る。
と。
「……あ」
九七一の脳裏に、黒い帳が舞い降りる。しまった。だがそう思った時にはもう遅い。自分の身体が自分の意思に反し、禎理に冷たい目を向けるのを、九七一は止めることができなかった。
「……千早?」
金属音に気付き、顔を上げる。九七一の方を見た禎理はすぐに、彼の様子が先程までとは違って見えることに気付いた。一体、どうしたのだろうか? 禎理がそこまで考えた、丁度その時。
「……うわっ!」
いきなり、九七一が目の前に立つ。その腕から発せられた勢いのある剣の切っ先を、禎理は反射的に躱した。しかし、息つく暇も無く次々と、間髪入れずに剣が襲ってくる。その俊敏かつ鋭い剣捌きは、絶対に九七一のそれではない。第一、金属製の物が嫌いな九七一は、剣なんて持ったことも無いのだ。何が何だか分からないまま、禎理は狭い工房中を後ずさりで逃げる他なかった。
その時。
「禎理、こっち」
いきなり腕が横に引っ張られる。
「儂の後ろへ隠れるんじゃ!」
いつの間にか、禎理の身体は小柄な茶人の後ろにあった。
だが。剣が襲ってくる状態のままではヴァルガの方が危険だ。小柄な禎理の胸より低い位置にある茶人族のぼさぼさの頭から九七一の方へ視線を移し、大急ぎで思考する。何とかしなくては。でも、どうやって? 暴れる九七一が動く度に光る切っ先に考えがまとまらないまま、禎理は腰の短剣を抜くと、ヴァルガの陰から飛び出そうと身構えた。
だが。
「大人しくしておれ」
背を向けたままのヴァルガの声が禎理を静止する。
「あの剣は、儂を襲いはせぬ」
ヴァルガの言う通り、襲う者を見失った剣の切っ先は虚空を悪戯に舞い、何故かこちらには向いてこない。そして、次の瞬間。急に、九七一の背が倍に伸びる。飛び上がったのだ。禎理がそう理解する前に、九七一の身体は地下室の天窓を突き破って外に飛び出してしまっていた。
「くわぁ、しまったぁ~!」
大きな叫び声を上げながら、頭を抱えるヴァルガ。その横で、禎理はただ呆然と、先刻まで九七一が居た空間を見つめていた。何が何だか分からない。だが、ただ一つ言える事がある。あの、剣を禎理に向けた九七一は、絶対に、いつもの九七一ではなかった。
「一体、どういうことですか?」
だから禎理は、頭を抱えたままのヴァルガに、そう、訊ねる。
「……『呪われた剣』に取り込まれちまったんだ、あいつは」
返ってきた答えは、禎理を愕然とさせるには十分だった。
なんと、いうことだ。
ヴァルガの話によると。
九七一が手にしたあの剣は、その昔、マース大陸で一番数が多い陸人を憎むとある茶人の鍛冶師が、古代嶺家人から密かに教えられた技術と自らの怨念を込めて作り出したものらしい。世間に出すと災いを引き起こすその剣は、代々、事情を知る茶人の長の一人が用心に用心を重ねて保管していたのだが、茶人族の人口が減り続けている昨今の情勢からさすがに預かりきれなくなり、何とか壊す方法が見つけられないかとヴァルガの祖父に預けられた物。古代の特殊金属である『ポリノミアル』を作る技術も、それを溶かす技術でさえも今は失われてしまっている。だから、これまでずっと、あの剣は、この工房内で半ばほったらかしの状態になっていたのだという。
「……その『呪い』とは、一体何ですか?」
悪い予感を胸に、恐る恐る問う。
一拍置いて、呻くような言葉が返ってきた。
「『陸人を殺しつくす』。そういう呪いだと、祖父から聞いた」
と、すると。こんな所でヴァルガの話を聞いている場合ではないことに、禎理はやっと気が付いた。ヴァルガと話している間にも、罪の無い天楚市民があの剣の餌食になっているかもしれない。
それに、九七一の身体のことも心配だ。金属が苦手で、たまに金属アレルギーを起こす九七一が、あの剣をずっと握っていたらどうなるか。しかも、自分が無辜の民を傷つけていることを、一番悲しむのはきっと九七一だ。
禎理は大急ぎでヴァルガの工房を飛び出すと、九七一が去って行った方向の見当をつけて石畳の通りを猛スピードで走り出した。
しかしながら。
禎理が天楚市内をくまなく探し回ったにも拘らず、九七一を見つけることはできなかった。そして、幸い、と言って良いのか、黒服の男に人が切られたという情報も、禎理の耳には全く入って来ない。
「……本当に、誰も襲われても切られてもないんですね」
情報の大家、冒険者宿三叉亭の主人六徳に念を押すように聞いても、返ってくるのはいつも同じ答え。
「ああ。それは確かだ」
最近は血生臭い事件がめっきり減っているからな、と、事情を知らない六徳はいとも簡単にそう言ってのける。しかしそんな軽い言葉も、今の禎理にとっては大切かつ安心する言葉だった。おそらく、九七一の魔物としての力が、剣の呪いを押さえているのだろう。禎理はそう、推測していた。だとしても、やはりできるだけ早く九七一を見つけ出し、その苦痛を解きたい。
だが、しかし。九七一を見つけたところで、剣の呪いを解く方法を、禎理は知らなかった。ヴァルガに聞いても知らないの一点張りで――もっとも、知っていれば剣はとっくの昔に処分されているはずだ――どうにもならない。
だが、それでも、何とかして九七一を助けたいと切に思う。
たとえ、その為に自分が傷ついても。
そんなある日。
「九七一は何処?」
九七一を探して天楚の路地を歩いていた禎理の前に、いきなり、きつい感じのする声と共にほっそりと背の高い女の人が現れる。驚く禎理の目の前で、切り揃えられた青銀色の髪が静かに揺れた。
この人、は。
「百七、さん?」
禎理はゆっくりと、その女の人の名前を口にした。
この人なら知っている。九七一と同じ魔界の近衛隊『エミリプ』に属する百七という女の人だ。魔界の魔王夫妻が禎理の目の前に現れて以来、彼女とも何度か会っている。九七一の先輩である彼女には、今の九七一の状態を話す必要があるだろう。そう考えた禎理は、百七を人通りの無い路地に案内し、今までのことを全て話した。少しでも、九七一を探すヒントが得られることを期待して。
「……そう、なの」
冷たい瞳で禎理を見つめながらその話を聞いていた百七は、頷いた後で思いがけない言葉を口にした。
「その剣の鞘の色、覚えてないかしら」
「鞘の、色?」
予想もしていなかった質問に正直面食らう。訝しみつつも、禎理は覚えている限りのことを百七に話した。あの鞘の材質は、確か、皮を鞣したもの、で。
「黒色で、細い赤金色の流水紋様が、入っていた」
「そう」
禎理の言葉に、百七は一瞬だけ沈痛な表情を浮かべた。
だが。
「あなたはもう拘わらないで」
「何故!」
再びの思いがけない言葉に、思わず当惑の言葉を口にする。
「あなたには関係無いから」
その禎理に降ってきたのは、百七の理不尽な言葉。
「九七一は俺の仲間だ!」
関係無い? そんなことは、絶対に無い。震える声で、百七にそう、叩き付ける。だが、禎理の言葉が聞こえなかったかのように、百七は踵を返して去って行った。
「ちょ、ちょっと、待って!」
禎理の言葉は、虚空に消えた。
しかしながら。
誰に何を言われようとも、そう簡単に自分の信念を変えないのが、禎理の禎理たる所以である。だから、その夜も、禎理は九七一を探して天楚中を歩き回って、いた。
〈今日も、駄目かな〉
誰も襲われていないことに安堵する気持ちと、九七一のことが心配でたまらない気持ちとが交錯して、思わず溜息が出る。
と、その時。ふと、金属音を耳にして、禎理は思わず立ち止まった。……まさか。
〈九七一、か?〉
そう考えるより速く、禎理の足は音の方向に走り出していた。
〈……いた!〉
やはり、いた。煌々とした月明かりの下で、黒服の男が、小柄な人影と死闘を演じているのが、禎理の目にもはっきりと見えた。黒服の男の腰に有るのは、赤金色の光を放つ剣の鞘。やはり、九七一だ。そして、九七一の力任せの剣を鉄の手甲一つで止めているのは。
「百七、さん?」
その青銀色の髪の持ち主は、百七以外にありえない。
何故、百七さんが、ここに? 疑問が禎理の頭を掠める。しかし、百七の劣勢は、明らか。禎理は腰の短剣を抜くと、疑問を振り切るように頭を振ってからすばやく二人の間に割って入った。
月明かりに映る九七一の形相は、少し見ない間に明らかに変化していた。血の気を失った顔、腫れあがった手の甲。そのあまりの変わりように、禎理の短剣は一瞬だけ、その動きを止めた。その一瞬の隙を突かれる。気が付くと、剣の切っ先が禎理の目の前に、あった。
「うわっ!」
慌てて身を捻る。だが、その拍子に、禎理の身体はバランスを崩し、背中から地面に落ちてしまった。その禎理の胸に、切っ先が真っ直ぐ降りてくる。これまでか。禎理は思わず唇を噛み締めた。
だが。必殺の切っ先は、禎理の胸直前で止まる。
「う……止めろ……」
苦しそうな九七一の声が、禎理の耳に響いた。
「九、七一……?」
まだ、九七一は完全に剣に支配されていない。危機は脱していないというのに、禎理の心に安堵感が広がる。
と、その時。
「光と矢の数!」
百七の呪文と共に、溢れるほどの光が九七一の胸を突く。その光線で、九七一が道の向こうにまで吹っ飛ぶのを、禎理は確かに見た。
「やったか?」
その禎理を飛び越えて、百七が九七一の方へと向かう。
だが。
「……我が同胞、我が敵、今こそ滅ぼさん!」
明らかに九七一のものではない、重苦しい声が辺りに響く。次の瞬間、百七に、地面に広がる闇が襲い掛かった。
「なっ!」
粘ついた闇が、あっという間に百七を包む。
「百七さん!」
禎理は大急ぎで跳ね起きると、百七を包んだ闇の中へと飛び込んだ。
「百七さん、何処?」
手探りで百七を探す禎理の手に、冷たいものが当たる。握ってみると、微かな痛みが禎理の手を痺れさせた。
〈……剣?〉
何故こんなところに剣があるのか、その理由は分からない。しかし、これで闇を切り裂くことができれば。禎理は手探りで剣の柄を見つけると、その柄をしっかりと握り大きく腕を振った。
忽ちにして、闇が晴れる。だが、月明かりの下にいるのは、何故か禎理のみ。
「……あれ?」
九七一は? 百七さん、は? 思わず、辺りを見回す。しかし、何処をどう見ても、そこにいるのは禎理一人。九七一も、百七でさえも、ここには居ない。
「な、何で?」
予期せぬ事態に戸惑う禎理。そんな禎理の傍には、青銀色の光を放つ剣の鞘がぽつんと一つ、置かれていた。
「……鞘?」
その鞘を目にして初めて、禎理は自分が暗闇で見つけた剣を握ったままであるのに気がついた。禎理の腰に下げるには長過ぎる細身のそれは、九七一が手にしていたものと寸分違わぬ形をしている。この剣の持ち主は、もしかして。
「これは、百七さんの、剣?」
禎理がそう呟いた、丁度その時。
「……え?」
百七の声が、確かに、聞こえた気が、した。しかもかなり近くで。
「百七さん!」
禎理は思わず叫んだ。
「何処に、いるんですか?」
「……ここ」
微かに聞こえてきた声にあっとなる。その声は確かに、禎理の右手から聞こえてきている。と、すると。右手に掴んだままの剣をまじまじと見つめる。百七が刃物系の魔物であることは九七一から聞いて知ってはいたが、まさかこんな立派な剣の魔物だったとは。
「とりあえず、鞘に収めてくれない、禎理」
そんな禎理の驚きには全く構わず、百七はいつも通りの口調でそう禎理に指示する。言われた通り、禎理は傍に落ちていた鞘を拾うと、百七の原型をその中へ収めた。月明かりに、鞘を曝す。九七一が持っていた剣の鞘と同じ流水の紋様が、青銀色で流麗に描かれていた。
「話は、帰ってからするわ」
禎理の内心を見透かしたのか、百七が力無く呟く声が聞こえる。
百七の剣を抱えたまま、禎理は自分の下宿先まで戻った。
「……あなたの推察どおり、私は、あの剣の姉妹として作られた」
禎理の下宿先に帰り着くや否や、百七は剣型のまま堰を切ったように話し始めた。
九七一に取り付いた『呪われた剣』は元々、愛する妻を陸人の手で無残に殺された茶人の鍛冶師が、陸人の絶滅を願って作成したもの。しかし、そんな鍛冶師の執念を哀しく見守っていた人物がいた。
「その人、その鍛冶師の妹さんだったんだけど、この人も鍛冶の腕前が良かったの」
癒されることのない双子の兄の心が新たな過ちを犯さないようにと、妹が心を込めて作ったのが、兄の剣と同じ型の剣。その剣に宿った人格が、百七。
「だから私には、あの剣を抑える使命がある」
その方法も知っていると、百七は禎理に言った。
しかしながら。
「私の存在を知ったからには、あの剣は必ず私を滅ぼしに来るわね」
もはや決してしまった運命を、百七が呟く。
「でも、私には人型を取る力がない」
問題は、誰が九七一から剣を奪うか。例え百七が人型を取れたとしても、その力が無いことは、先ほどの戦いで証明済みである。そしてもちろん、禎理にも。
「俺が、百七の剣を使えば、何とかなるかもしれない」
ゆっくりと、そう呟く。
「無理よ」
だが、禎理の決意は百七によってあっさりと否定されてしまった。
「あなたも見たでしょ、あの力」
確かに、今の九七一の力は相当のものだ。勝てる保証は、万に一つくらいか。しかしそれでも禎理は、九七一を助けたかった。それが、自分の命を掛けた戦いであるとしても。
「俺が、九七一を助ける」
禎理はそう、きっぱりと言い切った。
「……で、何でこんなところに居るわけ、禎理?」
禎理の背中で百七の呆れ声が響く。
百七が呆れるのも尤もだ。禎理と百七は今、天楚市からかなり離れた丘の上にいるのだから。
「ここなら、九七一が襲って来ても誰にも迷惑をかけない」
そんな百七に対して、はっきりとした声で理由を話す。
百七の話から、九七一は百七の居るところに現れる。それが、禎理の推測。百七が人通りの多い街中にいると、九七一との戦いに無関係な人間を大勢巻き込んでしまう。禎理としてはそれだけは避けたかったし、無関係な人を巻き添えにしてしまったら九七一の心も傷ついてしまうだろう。そう思ったからこそ、人が殆どいない北風吹く初冬の丘の上まで寒さを押してやってきたのだ。
「あなたって、本当に馬鹿ね」
禎理の言葉を聞いて、百七が呆れ声を出す。
「そんなに、誰も傷つけたくないわけ?」
百七の言葉に、禎理はただ黙って頷いた。禎理の心の奥底にある何かが、自分以外の者が傷つくのを許さない。
だが。
「甘いわね」
冷静な百七の言葉が、禎理の心に厳しく響いた。
「それであなたが死んじゃったら、結局、守れるものも守れないわ」
そうかもしれない。百七の言葉に心が揺れる。でも。それでも、俺は。
「……あなたじゃなくって、他の人に頼んだ方が良かったかもしれない」
突き放したような百七の呆れ声が、禎理の態度で更にきつくなる。
「この期に及んで、『誰も傷つけたくない』なんて、馬鹿みたいでやってられない」
「別に、構わないよ」
例え百七が何をしようとも、自分は自分なりの方法で九七一を助け出す。その決意だけは、誰にも変えられない。
「ほんっと、甘いわね」
甘すぎるわ。もう少し『冷たさ』を持たないと冒険者としてやっていけないわよ。百七の批判は止まるところを知らないように禎理には思えた。
だが。
「でも、あなたの言葉を聴いていると、本当に誰も傷つけずに九七一を助けることができそうな気がする」
不思議よね、と百七が静かに呟く。
突然のその言葉が、禎理には本当に嬉しかった。
しかしながら。日が沈んでも結局、九七一は禎理と百七の前に現れなかった。
「まあ、仕方がないわね」
明日もあるわよ、と、禎理の背中で呟く百七。
「そう、だね」
内心ではできるだけ早く九七一を剣の呪いから解放したいと思っていたが、一日中寒い戸外でじっとしていた所為かかなり疲れている。禎理は百七の言葉に首を縦に振って家路についた。
と。
〈……あ〉
背後に、何かが、居る。そう感じた瞬間、天楚市の広場に向かって走る。昨日と同じく、月明かりが通りという通りをまんべんなく照らしていた。
「さあ、来い!」
日没が過ぎて人通りの絶えた、だだっ広いだけの広場に着く。禎理はくるりと振り返り、後を追って来た九七一と正対した。月明かりだけでも、九七一の様子が昨日より酷くなっているのが分かる。早く、どうにかしなくては!
「百七さん、よろしく!」
百七の剣を勢い良く背中から引き抜き、同じく『呪われた剣』を鞘から抜き放った九七一に飛び掛かる。刃と刃が触れ合い、金属音が辺りに響き渡る。数合打ち合ったところで、力だけでは九七一に勝てないことを禎理は敏感に感じ取った。何より、小柄な禎理と長身の九七一では体格にかなりの差がある。体格が違えば、その身体から引き出される力も当然違う。九七一の身体から有効に繰り出される力に、禎理の剣は確実に翻弄されていた。
九七一に勝つ為には速さで勝負するしかない。禎理は、無理矢理打ち合った刃を離すと、九七一が不利になるようにその脇に回り込んだ。だが、速さという点でも、元が黒犬の魔物である九七一に勝つことは難しい。九七一より優位な位置に立とうとしても、何故か不利な位置に追い込まれてしまっている。この点でも、九七一に勝つことができない。禎理の背中に冷や汗が流れた。
それに、禎理は短剣しか扱ったことがない。武術を習った道場でも、長剣の勝負ではいつも禎理が押されていた。九七一はこれまで剣を使ったことがないのだから言い訳にはならないが、それでも、勝手が違う所為で押され気味なのは確かだ。そして更に。九七一を傷つけたくないという気持ちが、禎理の剣先を確かに鈍らせて、いた。
「何をしている、禎理!」
そんな禎理を、百七が叱咤する。でも、やっぱり。禎理の気持ちが、押され気味の剣を更に引っ込ませる。その隙を、九七一が見逃さない筈がなかった。
「えっ!」
九七一の持つ剣の切っ先が、真っ直ぐに禎理の胸に入る。慌てて右に避けたが、それでもその刃は、禎理の左肩をざっくりと深く切り裂いた。
「禎理!」
百七の叫び声が辺りに響く。これは、……まずい。それだけは禎理も確かに感じていた。
禎理を襲った切っ先は、更に速度を増して向かってくる。やはり、駄目か。禎理の心を諦めが通り過ぎた、丁度その時。
「……や、やめろ……」
低い声と共に、切っ先が静止する。
「やめろ……禎理を、傷、つける、な……」
その声は確かに、九七一のもの、だった。
「九七一!」
思わず叫ぶ。九七一が、剣の邪悪な力を押さえ込もうとしている。はっきりとそう、確信する。
だが。
「う、うおーっ!」
獣じみた叫び声と共に、切っ先が再び動き出す。魔物である九七一の力でも、剣の力を抑えきれなくなっているようだ。だとしたら、ここで止めないと、被害が禎理一人では済まなくなる。こうなったら。禎理の決心と同時に、九七一の剣が禎理の左脇腹を掠める。痛みを感じる間も無く、禎理は傷ついた左腕でその剣を抱え込むように押さえると、九七一がはっとする隙に、剣の柄を持った右拳をその無防備に晒された首筋に力いっぱい叩き込んだ。
九七一の手から、剣が外れる。そしてそのまま、九七一の身体は石畳の上に長々と横たわった。
「……やった」
大きく息を吐く。
禎理の脇腹で、九七一が持っていた剣が、微かに震えた。
「さて」
その剣を、ゆっくりと引き抜く。すぐに服に広がった染みが、傷の深さを物語っていた。しかし、傷の手当てをする前に、やることがある。相乗された左半身の痛みに歯を食いしばりながら、禎理は背中につけていた青銀色の剣の鞘をそっと外した。その鞘に、九七一が持っていた剣を差し込む。そうすれば、剣の呪いは封印される。百七は確かにそう、言っていた。
「これで、いいのかな……?」
しかし、百七にそれを確かめる前に、目の前が真っ暗になる。
冷たい石畳が、その疲れた身体を優しく抱き留めた。
暖かい感覚に、そっと目を開ける。
ふかふかのベッドに上に、禎理はいた。
「目覚めた、禎理?」
禎理の傍にいたのは、赤金色に輝く髪を肩の上で切り揃えた女の人。その顔かたちは何となく見たことがあるような気がするのだが、彼女なら髪の色が違うはずだ。
「もしかして、百七さん?」
首を傾げながら、やっとの思いでそれだけ訊ねる。
「そう」
禎理の問いに、百七はそっけない口調でそう答えた。
「そしてここは私達エミリプ隊の客間」
あの後、倒れた禎理と九七一を、何とか回復した百七の法力でここまで運んできたらしい。全く、後始末まで考慮に入れて体力使ってよね。そう説教する百七の声を禎理は嬉しく聞いていた。誰も傷つけずに、剣を封印できた。そのことが、禎理の心を満足させていた。
「そういえば、九七一は?」
「ここに居るぜ」
禎理が問うより早く、百七の反対側から元気な声が上がる。首を動かすと、包帯だらけの黒犬の姿が、確かにあった。
「助けてくれて、ありがとよ」
唯一包帯が巻かれていない鼻先を、禎理の額にくっつける。温かく濡れたその感覚が、禎理を心底ほっとさせた。
「……そういえば、百七さん、その、髪」
百七のほうに向き直り、そう問う。
「ああ、これ」
しかし問わずとも、その髪の色があの剣の鞘の色であることは、すぐに分かった。
「気に入ってはいないんだけどね、ま、仕方無いでしょ」
「確かに、似合ってないよな」
禎理の耳元で、九七一が囁く。その、いつもの九七一の行動が、禎理にはとても嬉しく感じられた。
自分なりの方法で、当事者以外の誰も巻き込むことなく、事件を解決に導くことができた。その安堵感が、禎理を再び暖かい闇の中へと引き込んで、いった。
今、九七一が歩いているのは、天楚市の南西部に位置する職人達の町。その中でも最も騒がしい部類に入るであろう鍛冶師や金属細工師達の工房が集う通りを、そこにある工房の一つに荷物を運ぶ用があるという禎理の後ろについて歩いていた。あまり大きくない通りを少し動くだけで、金や銀、鉄や銅などの金属臭が、活気に満ちた空気に乗って運ばれてくる。石畳の地面を蹴ると、天楚市の他の通りとは明らかに違う、日の光にきらきらと輝く砂埃が舞い上がった。
〈……嫌だな、こんなところは〉
普通の人々ならなんでもない鍛冶の音や金属臭が九七一の神経を荒々しく逆撫でする。犬型の魔物だから、たとえ人型を取っていても音や匂いは普通の人間より強く感じてしまう。そのことは九七一自身よく理解していた。だが、ここまで強いと、自分の能力がかえって嫌になる。それに、九七一自身、金属に対してはかなりのいけ好かない感情を持っていた。だから、本当は、こんな所には来たくはなかったのだが。
「大丈夫? 九……じゃないや、千早」
前を歩いていた禎理の声に、はっと我に返る。
「三叉亭で待っていたほうが良かったんじゃないの?」
顔色が悪いと言う禎理の言葉に、九七一は慌てて首を横に振った。今日は禎理の護衛で来ているのだから、こんなことで挫けてはいけない。
「護衛って、ここは天楚市だよ。昼間なんだし、危ないことなんて起きないよ」
休暇を取ると必ず魔界から地上界にやって来て、禎理にくっついて移動する九七一に、禎理はいつもそう言って笑う。だが、それでもやはり護衛が必要だと感じてしまうのは、禎理が自分に無頓着だから。この危なっかしい人間は、大切だと思うものの為なら自分の身なんて全く省みない。それを悲しむ者も存在するというのに。
「どうしたの、千早」
再び、人型変身時の自分の名前を呼ぶ禎理の声にはっとする。見ると、とある建物の前で、禎理が自分に向かって手招きをしていた。
「こっちだよ」
禎理の前には、下り階段がほの暗い大口を開けている。この階段の先に、禎理が背中の荷物――中身は銀細工だと九七一の鼻が告げていた――を届けるという冒険者が居るらしい。
「分かった」
暗闇をものともせずに階段を降りてゆく禎理に内心冷や冷やしながら、九七一もその後から階段を降りて行く。降りた先にあったのは、やはり薄暗い土間。
「……やっと来たか」
その奥の方、燃え盛る炉の傍に、小柄でがっしりとした人影が見えた。
あれが禎理の言っていたヴァルガという茶人族の冒険者だろう。そう見当をつけてから、禎理がその茶人に話しかけるのを横目に、狭い地下室をぐるりと見回す。この地下室にも、火と金属の匂いが充満している。ヴァルガは冒険者であると同時に、手先が器用なことで知られる茶人族の中でも卓越した金属加工技術を持つ鍛冶師であるらしいから、この空間の臭いは妥当なもの、なのだろう。しかし、火は魔界で慣れてはいるが、金属の匂いは全く駄目だ。これなら、やはり外で待っていたほうが良かった。いや、今からでも遅くはない、外に出てしまおう。そう思い、九七一が階段の方に足を向けた、丁度その時。
「……おや?」
九七一の視界に、変わった光が映る。ここは地下室だから、反射するような光は何処にも無いはず、なのに。不思議さと好奇心から、九七一はその光の方へと近づいた。
「……これか」
がらくたが集まった山の中から、目的の物を拾い上げる。赤く光を発するそれは、九七一が腰に下げて丁度良いくらいの長さを持つ剣。その軽さからすると、おそらく、大昔にこの大陸を支配していたと云われている『嶺家一族』が作成した特殊金属『ポリノミアル』で出来ているのだろう。九七一はそう見当をつけた。剣が収まっている鞘に細工された細い赤金色の模様が、光が差さない空間できらきらと光っていたのだ。
〈なんだ〉
原因が分かれば、大した事はない。金属が苦手な九七一は、さっさとその剣を手放そうと剣を掴んでいた手を開いた。
だが。
〈……抜いてみたい〉
自分の心の奥底から出てきた感情に、正直戸惑う。金属は嫌いなはずなのに、この感情は何だ?
「少しなら、大丈夫だよな」
誰にともなく小声でそう断ると、九七一は剣の柄と鞘に手を掛け、一気に剣を鞘から抜いた。
冷たい色をした刀身が、九七一の瞳を射る。
と。
「……あ」
九七一の脳裏に、黒い帳が舞い降りる。しまった。だがそう思った時にはもう遅い。自分の身体が自分の意思に反し、禎理に冷たい目を向けるのを、九七一は止めることができなかった。
「……千早?」
金属音に気付き、顔を上げる。九七一の方を見た禎理はすぐに、彼の様子が先程までとは違って見えることに気付いた。一体、どうしたのだろうか? 禎理がそこまで考えた、丁度その時。
「……うわっ!」
いきなり、九七一が目の前に立つ。その腕から発せられた勢いのある剣の切っ先を、禎理は反射的に躱した。しかし、息つく暇も無く次々と、間髪入れずに剣が襲ってくる。その俊敏かつ鋭い剣捌きは、絶対に九七一のそれではない。第一、金属製の物が嫌いな九七一は、剣なんて持ったことも無いのだ。何が何だか分からないまま、禎理は狭い工房中を後ずさりで逃げる他なかった。
その時。
「禎理、こっち」
いきなり腕が横に引っ張られる。
「儂の後ろへ隠れるんじゃ!」
いつの間にか、禎理の身体は小柄な茶人の後ろにあった。
だが。剣が襲ってくる状態のままではヴァルガの方が危険だ。小柄な禎理の胸より低い位置にある茶人族のぼさぼさの頭から九七一の方へ視線を移し、大急ぎで思考する。何とかしなくては。でも、どうやって? 暴れる九七一が動く度に光る切っ先に考えがまとまらないまま、禎理は腰の短剣を抜くと、ヴァルガの陰から飛び出そうと身構えた。
だが。
「大人しくしておれ」
背を向けたままのヴァルガの声が禎理を静止する。
「あの剣は、儂を襲いはせぬ」
ヴァルガの言う通り、襲う者を見失った剣の切っ先は虚空を悪戯に舞い、何故かこちらには向いてこない。そして、次の瞬間。急に、九七一の背が倍に伸びる。飛び上がったのだ。禎理がそう理解する前に、九七一の身体は地下室の天窓を突き破って外に飛び出してしまっていた。
「くわぁ、しまったぁ~!」
大きな叫び声を上げながら、頭を抱えるヴァルガ。その横で、禎理はただ呆然と、先刻まで九七一が居た空間を見つめていた。何が何だか分からない。だが、ただ一つ言える事がある。あの、剣を禎理に向けた九七一は、絶対に、いつもの九七一ではなかった。
「一体、どういうことですか?」
だから禎理は、頭を抱えたままのヴァルガに、そう、訊ねる。
「……『呪われた剣』に取り込まれちまったんだ、あいつは」
返ってきた答えは、禎理を愕然とさせるには十分だった。
なんと、いうことだ。
ヴァルガの話によると。
九七一が手にしたあの剣は、その昔、マース大陸で一番数が多い陸人を憎むとある茶人の鍛冶師が、古代嶺家人から密かに教えられた技術と自らの怨念を込めて作り出したものらしい。世間に出すと災いを引き起こすその剣は、代々、事情を知る茶人の長の一人が用心に用心を重ねて保管していたのだが、茶人族の人口が減り続けている昨今の情勢からさすがに預かりきれなくなり、何とか壊す方法が見つけられないかとヴァルガの祖父に預けられた物。古代の特殊金属である『ポリノミアル』を作る技術も、それを溶かす技術でさえも今は失われてしまっている。だから、これまでずっと、あの剣は、この工房内で半ばほったらかしの状態になっていたのだという。
「……その『呪い』とは、一体何ですか?」
悪い予感を胸に、恐る恐る問う。
一拍置いて、呻くような言葉が返ってきた。
「『陸人を殺しつくす』。そういう呪いだと、祖父から聞いた」
と、すると。こんな所でヴァルガの話を聞いている場合ではないことに、禎理はやっと気が付いた。ヴァルガと話している間にも、罪の無い天楚市民があの剣の餌食になっているかもしれない。
それに、九七一の身体のことも心配だ。金属が苦手で、たまに金属アレルギーを起こす九七一が、あの剣をずっと握っていたらどうなるか。しかも、自分が無辜の民を傷つけていることを、一番悲しむのはきっと九七一だ。
禎理は大急ぎでヴァルガの工房を飛び出すと、九七一が去って行った方向の見当をつけて石畳の通りを猛スピードで走り出した。
しかしながら。
禎理が天楚市内をくまなく探し回ったにも拘らず、九七一を見つけることはできなかった。そして、幸い、と言って良いのか、黒服の男に人が切られたという情報も、禎理の耳には全く入って来ない。
「……本当に、誰も襲われても切られてもないんですね」
情報の大家、冒険者宿三叉亭の主人六徳に念を押すように聞いても、返ってくるのはいつも同じ答え。
「ああ。それは確かだ」
最近は血生臭い事件がめっきり減っているからな、と、事情を知らない六徳はいとも簡単にそう言ってのける。しかしそんな軽い言葉も、今の禎理にとっては大切かつ安心する言葉だった。おそらく、九七一の魔物としての力が、剣の呪いを押さえているのだろう。禎理はそう、推測していた。だとしても、やはりできるだけ早く九七一を見つけ出し、その苦痛を解きたい。
だが、しかし。九七一を見つけたところで、剣の呪いを解く方法を、禎理は知らなかった。ヴァルガに聞いても知らないの一点張りで――もっとも、知っていれば剣はとっくの昔に処分されているはずだ――どうにもならない。
だが、それでも、何とかして九七一を助けたいと切に思う。
たとえ、その為に自分が傷ついても。
そんなある日。
「九七一は何処?」
九七一を探して天楚の路地を歩いていた禎理の前に、いきなり、きつい感じのする声と共にほっそりと背の高い女の人が現れる。驚く禎理の目の前で、切り揃えられた青銀色の髪が静かに揺れた。
この人、は。
「百七、さん?」
禎理はゆっくりと、その女の人の名前を口にした。
この人なら知っている。九七一と同じ魔界の近衛隊『エミリプ』に属する百七という女の人だ。魔界の魔王夫妻が禎理の目の前に現れて以来、彼女とも何度か会っている。九七一の先輩である彼女には、今の九七一の状態を話す必要があるだろう。そう考えた禎理は、百七を人通りの無い路地に案内し、今までのことを全て話した。少しでも、九七一を探すヒントが得られることを期待して。
「……そう、なの」
冷たい瞳で禎理を見つめながらその話を聞いていた百七は、頷いた後で思いがけない言葉を口にした。
「その剣の鞘の色、覚えてないかしら」
「鞘の、色?」
予想もしていなかった質問に正直面食らう。訝しみつつも、禎理は覚えている限りのことを百七に話した。あの鞘の材質は、確か、皮を鞣したもの、で。
「黒色で、細い赤金色の流水紋様が、入っていた」
「そう」
禎理の言葉に、百七は一瞬だけ沈痛な表情を浮かべた。
だが。
「あなたはもう拘わらないで」
「何故!」
再びの思いがけない言葉に、思わず当惑の言葉を口にする。
「あなたには関係無いから」
その禎理に降ってきたのは、百七の理不尽な言葉。
「九七一は俺の仲間だ!」
関係無い? そんなことは、絶対に無い。震える声で、百七にそう、叩き付ける。だが、禎理の言葉が聞こえなかったかのように、百七は踵を返して去って行った。
「ちょ、ちょっと、待って!」
禎理の言葉は、虚空に消えた。
しかしながら。
誰に何を言われようとも、そう簡単に自分の信念を変えないのが、禎理の禎理たる所以である。だから、その夜も、禎理は九七一を探して天楚中を歩き回って、いた。
〈今日も、駄目かな〉
誰も襲われていないことに安堵する気持ちと、九七一のことが心配でたまらない気持ちとが交錯して、思わず溜息が出る。
と、その時。ふと、金属音を耳にして、禎理は思わず立ち止まった。……まさか。
〈九七一、か?〉
そう考えるより速く、禎理の足は音の方向に走り出していた。
〈……いた!〉
やはり、いた。煌々とした月明かりの下で、黒服の男が、小柄な人影と死闘を演じているのが、禎理の目にもはっきりと見えた。黒服の男の腰に有るのは、赤金色の光を放つ剣の鞘。やはり、九七一だ。そして、九七一の力任せの剣を鉄の手甲一つで止めているのは。
「百七、さん?」
その青銀色の髪の持ち主は、百七以外にありえない。
何故、百七さんが、ここに? 疑問が禎理の頭を掠める。しかし、百七の劣勢は、明らか。禎理は腰の短剣を抜くと、疑問を振り切るように頭を振ってからすばやく二人の間に割って入った。
月明かりに映る九七一の形相は、少し見ない間に明らかに変化していた。血の気を失った顔、腫れあがった手の甲。そのあまりの変わりように、禎理の短剣は一瞬だけ、その動きを止めた。その一瞬の隙を突かれる。気が付くと、剣の切っ先が禎理の目の前に、あった。
「うわっ!」
慌てて身を捻る。だが、その拍子に、禎理の身体はバランスを崩し、背中から地面に落ちてしまった。その禎理の胸に、切っ先が真っ直ぐ降りてくる。これまでか。禎理は思わず唇を噛み締めた。
だが。必殺の切っ先は、禎理の胸直前で止まる。
「う……止めろ……」
苦しそうな九七一の声が、禎理の耳に響いた。
「九、七一……?」
まだ、九七一は完全に剣に支配されていない。危機は脱していないというのに、禎理の心に安堵感が広がる。
と、その時。
「光と矢の数!」
百七の呪文と共に、溢れるほどの光が九七一の胸を突く。その光線で、九七一が道の向こうにまで吹っ飛ぶのを、禎理は確かに見た。
「やったか?」
その禎理を飛び越えて、百七が九七一の方へと向かう。
だが。
「……我が同胞、我が敵、今こそ滅ぼさん!」
明らかに九七一のものではない、重苦しい声が辺りに響く。次の瞬間、百七に、地面に広がる闇が襲い掛かった。
「なっ!」
粘ついた闇が、あっという間に百七を包む。
「百七さん!」
禎理は大急ぎで跳ね起きると、百七を包んだ闇の中へと飛び込んだ。
「百七さん、何処?」
手探りで百七を探す禎理の手に、冷たいものが当たる。握ってみると、微かな痛みが禎理の手を痺れさせた。
〈……剣?〉
何故こんなところに剣があるのか、その理由は分からない。しかし、これで闇を切り裂くことができれば。禎理は手探りで剣の柄を見つけると、その柄をしっかりと握り大きく腕を振った。
忽ちにして、闇が晴れる。だが、月明かりの下にいるのは、何故か禎理のみ。
「……あれ?」
九七一は? 百七さん、は? 思わず、辺りを見回す。しかし、何処をどう見ても、そこにいるのは禎理一人。九七一も、百七でさえも、ここには居ない。
「な、何で?」
予期せぬ事態に戸惑う禎理。そんな禎理の傍には、青銀色の光を放つ剣の鞘がぽつんと一つ、置かれていた。
「……鞘?」
その鞘を目にして初めて、禎理は自分が暗闇で見つけた剣を握ったままであるのに気がついた。禎理の腰に下げるには長過ぎる細身のそれは、九七一が手にしていたものと寸分違わぬ形をしている。この剣の持ち主は、もしかして。
「これは、百七さんの、剣?」
禎理がそう呟いた、丁度その時。
「……え?」
百七の声が、確かに、聞こえた気が、した。しかもかなり近くで。
「百七さん!」
禎理は思わず叫んだ。
「何処に、いるんですか?」
「……ここ」
微かに聞こえてきた声にあっとなる。その声は確かに、禎理の右手から聞こえてきている。と、すると。右手に掴んだままの剣をまじまじと見つめる。百七が刃物系の魔物であることは九七一から聞いて知ってはいたが、まさかこんな立派な剣の魔物だったとは。
「とりあえず、鞘に収めてくれない、禎理」
そんな禎理の驚きには全く構わず、百七はいつも通りの口調でそう禎理に指示する。言われた通り、禎理は傍に落ちていた鞘を拾うと、百七の原型をその中へ収めた。月明かりに、鞘を曝す。九七一が持っていた剣の鞘と同じ流水の紋様が、青銀色で流麗に描かれていた。
「話は、帰ってからするわ」
禎理の内心を見透かしたのか、百七が力無く呟く声が聞こえる。
百七の剣を抱えたまま、禎理は自分の下宿先まで戻った。
「……あなたの推察どおり、私は、あの剣の姉妹として作られた」
禎理の下宿先に帰り着くや否や、百七は剣型のまま堰を切ったように話し始めた。
九七一に取り付いた『呪われた剣』は元々、愛する妻を陸人の手で無残に殺された茶人の鍛冶師が、陸人の絶滅を願って作成したもの。しかし、そんな鍛冶師の執念を哀しく見守っていた人物がいた。
「その人、その鍛冶師の妹さんだったんだけど、この人も鍛冶の腕前が良かったの」
癒されることのない双子の兄の心が新たな過ちを犯さないようにと、妹が心を込めて作ったのが、兄の剣と同じ型の剣。その剣に宿った人格が、百七。
「だから私には、あの剣を抑える使命がある」
その方法も知っていると、百七は禎理に言った。
しかしながら。
「私の存在を知ったからには、あの剣は必ず私を滅ぼしに来るわね」
もはや決してしまった運命を、百七が呟く。
「でも、私には人型を取る力がない」
問題は、誰が九七一から剣を奪うか。例え百七が人型を取れたとしても、その力が無いことは、先ほどの戦いで証明済みである。そしてもちろん、禎理にも。
「俺が、百七の剣を使えば、何とかなるかもしれない」
ゆっくりと、そう呟く。
「無理よ」
だが、禎理の決意は百七によってあっさりと否定されてしまった。
「あなたも見たでしょ、あの力」
確かに、今の九七一の力は相当のものだ。勝てる保証は、万に一つくらいか。しかしそれでも禎理は、九七一を助けたかった。それが、自分の命を掛けた戦いであるとしても。
「俺が、九七一を助ける」
禎理はそう、きっぱりと言い切った。
「……で、何でこんなところに居るわけ、禎理?」
禎理の背中で百七の呆れ声が響く。
百七が呆れるのも尤もだ。禎理と百七は今、天楚市からかなり離れた丘の上にいるのだから。
「ここなら、九七一が襲って来ても誰にも迷惑をかけない」
そんな百七に対して、はっきりとした声で理由を話す。
百七の話から、九七一は百七の居るところに現れる。それが、禎理の推測。百七が人通りの多い街中にいると、九七一との戦いに無関係な人間を大勢巻き込んでしまう。禎理としてはそれだけは避けたかったし、無関係な人を巻き添えにしてしまったら九七一の心も傷ついてしまうだろう。そう思ったからこそ、人が殆どいない北風吹く初冬の丘の上まで寒さを押してやってきたのだ。
「あなたって、本当に馬鹿ね」
禎理の言葉を聞いて、百七が呆れ声を出す。
「そんなに、誰も傷つけたくないわけ?」
百七の言葉に、禎理はただ黙って頷いた。禎理の心の奥底にある何かが、自分以外の者が傷つくのを許さない。
だが。
「甘いわね」
冷静な百七の言葉が、禎理の心に厳しく響いた。
「それであなたが死んじゃったら、結局、守れるものも守れないわ」
そうかもしれない。百七の言葉に心が揺れる。でも。それでも、俺は。
「……あなたじゃなくって、他の人に頼んだ方が良かったかもしれない」
突き放したような百七の呆れ声が、禎理の態度で更にきつくなる。
「この期に及んで、『誰も傷つけたくない』なんて、馬鹿みたいでやってられない」
「別に、構わないよ」
例え百七が何をしようとも、自分は自分なりの方法で九七一を助け出す。その決意だけは、誰にも変えられない。
「ほんっと、甘いわね」
甘すぎるわ。もう少し『冷たさ』を持たないと冒険者としてやっていけないわよ。百七の批判は止まるところを知らないように禎理には思えた。
だが。
「でも、あなたの言葉を聴いていると、本当に誰も傷つけずに九七一を助けることができそうな気がする」
不思議よね、と百七が静かに呟く。
突然のその言葉が、禎理には本当に嬉しかった。
しかしながら。日が沈んでも結局、九七一は禎理と百七の前に現れなかった。
「まあ、仕方がないわね」
明日もあるわよ、と、禎理の背中で呟く百七。
「そう、だね」
内心ではできるだけ早く九七一を剣の呪いから解放したいと思っていたが、一日中寒い戸外でじっとしていた所為かかなり疲れている。禎理は百七の言葉に首を縦に振って家路についた。
と。
〈……あ〉
背後に、何かが、居る。そう感じた瞬間、天楚市の広場に向かって走る。昨日と同じく、月明かりが通りという通りをまんべんなく照らしていた。
「さあ、来い!」
日没が過ぎて人通りの絶えた、だだっ広いだけの広場に着く。禎理はくるりと振り返り、後を追って来た九七一と正対した。月明かりだけでも、九七一の様子が昨日より酷くなっているのが分かる。早く、どうにかしなくては!
「百七さん、よろしく!」
百七の剣を勢い良く背中から引き抜き、同じく『呪われた剣』を鞘から抜き放った九七一に飛び掛かる。刃と刃が触れ合い、金属音が辺りに響き渡る。数合打ち合ったところで、力だけでは九七一に勝てないことを禎理は敏感に感じ取った。何より、小柄な禎理と長身の九七一では体格にかなりの差がある。体格が違えば、その身体から引き出される力も当然違う。九七一の身体から有効に繰り出される力に、禎理の剣は確実に翻弄されていた。
九七一に勝つ為には速さで勝負するしかない。禎理は、無理矢理打ち合った刃を離すと、九七一が不利になるようにその脇に回り込んだ。だが、速さという点でも、元が黒犬の魔物である九七一に勝つことは難しい。九七一より優位な位置に立とうとしても、何故か不利な位置に追い込まれてしまっている。この点でも、九七一に勝つことができない。禎理の背中に冷や汗が流れた。
それに、禎理は短剣しか扱ったことがない。武術を習った道場でも、長剣の勝負ではいつも禎理が押されていた。九七一はこれまで剣を使ったことがないのだから言い訳にはならないが、それでも、勝手が違う所為で押され気味なのは確かだ。そして更に。九七一を傷つけたくないという気持ちが、禎理の剣先を確かに鈍らせて、いた。
「何をしている、禎理!」
そんな禎理を、百七が叱咤する。でも、やっぱり。禎理の気持ちが、押され気味の剣を更に引っ込ませる。その隙を、九七一が見逃さない筈がなかった。
「えっ!」
九七一の持つ剣の切っ先が、真っ直ぐに禎理の胸に入る。慌てて右に避けたが、それでもその刃は、禎理の左肩をざっくりと深く切り裂いた。
「禎理!」
百七の叫び声が辺りに響く。これは、……まずい。それだけは禎理も確かに感じていた。
禎理を襲った切っ先は、更に速度を増して向かってくる。やはり、駄目か。禎理の心を諦めが通り過ぎた、丁度その時。
「……や、やめろ……」
低い声と共に、切っ先が静止する。
「やめろ……禎理を、傷、つける、な……」
その声は確かに、九七一のもの、だった。
「九七一!」
思わず叫ぶ。九七一が、剣の邪悪な力を押さえ込もうとしている。はっきりとそう、確信する。
だが。
「う、うおーっ!」
獣じみた叫び声と共に、切っ先が再び動き出す。魔物である九七一の力でも、剣の力を抑えきれなくなっているようだ。だとしたら、ここで止めないと、被害が禎理一人では済まなくなる。こうなったら。禎理の決心と同時に、九七一の剣が禎理の左脇腹を掠める。痛みを感じる間も無く、禎理は傷ついた左腕でその剣を抱え込むように押さえると、九七一がはっとする隙に、剣の柄を持った右拳をその無防備に晒された首筋に力いっぱい叩き込んだ。
九七一の手から、剣が外れる。そしてそのまま、九七一の身体は石畳の上に長々と横たわった。
「……やった」
大きく息を吐く。
禎理の脇腹で、九七一が持っていた剣が、微かに震えた。
「さて」
その剣を、ゆっくりと引き抜く。すぐに服に広がった染みが、傷の深さを物語っていた。しかし、傷の手当てをする前に、やることがある。相乗された左半身の痛みに歯を食いしばりながら、禎理は背中につけていた青銀色の剣の鞘をそっと外した。その鞘に、九七一が持っていた剣を差し込む。そうすれば、剣の呪いは封印される。百七は確かにそう、言っていた。
「これで、いいのかな……?」
しかし、百七にそれを確かめる前に、目の前が真っ暗になる。
冷たい石畳が、その疲れた身体を優しく抱き留めた。
暖かい感覚に、そっと目を開ける。
ふかふかのベッドに上に、禎理はいた。
「目覚めた、禎理?」
禎理の傍にいたのは、赤金色に輝く髪を肩の上で切り揃えた女の人。その顔かたちは何となく見たことがあるような気がするのだが、彼女なら髪の色が違うはずだ。
「もしかして、百七さん?」
首を傾げながら、やっとの思いでそれだけ訊ねる。
「そう」
禎理の問いに、百七はそっけない口調でそう答えた。
「そしてここは私達エミリプ隊の客間」
あの後、倒れた禎理と九七一を、何とか回復した百七の法力でここまで運んできたらしい。全く、後始末まで考慮に入れて体力使ってよね。そう説教する百七の声を禎理は嬉しく聞いていた。誰も傷つけずに、剣を封印できた。そのことが、禎理の心を満足させていた。
「そういえば、九七一は?」
「ここに居るぜ」
禎理が問うより早く、百七の反対側から元気な声が上がる。首を動かすと、包帯だらけの黒犬の姿が、確かにあった。
「助けてくれて、ありがとよ」
唯一包帯が巻かれていない鼻先を、禎理の額にくっつける。温かく濡れたその感覚が、禎理を心底ほっとさせた。
「……そういえば、百七さん、その、髪」
百七のほうに向き直り、そう問う。
「ああ、これ」
しかし問わずとも、その髪の色があの剣の鞘の色であることは、すぐに分かった。
「気に入ってはいないんだけどね、ま、仕方無いでしょ」
「確かに、似合ってないよな」
禎理の耳元で、九七一が囁く。その、いつもの九七一の行動が、禎理にはとても嬉しく感じられた。
自分なりの方法で、当事者以外の誰も巻き込むことなく、事件を解決に導くことができた。その安堵感が、禎理を再び暖かい闇の中へと引き込んで、いった。
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