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第1章
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しおりを挟む王都の王城下の貴族街と市民街の間、一流店や大きな商会の大店が立ち並ぶその通りの後ろ。
少し入り組んだ道の行き止まり。
よほどの用がない限り人は入ってこないだろうその中に一軒の店があった。
扉のところには小さな看板が掲げられているが、いまいち目立たない。
「今日もぼちぼちやりますかねぇ。」
藤花悠理、異世界に飛ばされるという不運な男の営む店だ。
働いて働いて働いて、働きまくって貯めた資金を元に夢だったカフェをオープンさせるところまできた。
いよいよ明日オープンで、最終確認のために仕込みや準備をしていたところ、バキバキとした嫌な音が聞こえ、天井を見上げたら天井に穴が開いていたところまでは覚えている。
目が覚めたとき、俺は床に寝っ転がっていて、天井は特に穴なんて開いていなかった。
白昼夢でも見ていたのかと思い、買い忘れていたものを買いに行こうと店の扉を開ければ、そこには見慣れない景色が広がっていた。
元々は道路に面した目立つところに店舗を構えていたのだ。
なのに今目の前に広がっているのは一本の小道とその先に見える四角い光だけ。
恐る恐るその道の先を覗きに行けば、大きな通りとその通路に面して並ぶ店たち。
でも明らかに日本の景色じゃなくて、車もなければコンクリートの道でもない。
外国にしては来ている服はどこか古めかしく感じる。
いや、夢の中なのだろうと頬を叩いたり、腕をつねってみたら痛くて、現実なんだと認識した。
やっと、やっと、夢だったカフェを開こうとしたところにこれかと男泣きした。
ひとしきり泣いて、これから先どうしようかととりあえずコーヒーでも飲もうかとキッチンに行けば、見慣れない木箱が置いてあった。
なんだこれ?と箱を開ければ、手紙と鍵の束と革の鞄が入っていた。
手紙は俺をここに送り込んだ人かららしく、この世界のこと、勝手に改良された家のこと、鍵の説明……諸々とあとはメンゴ!ガンバ!って締めくくりだけ。
思わず手紙を握り潰してしまった俺は悪くない。
手紙を読んだせいで、神の悪戯で異世界に飛ばされて、もう日本に戻れないこともわかってしまってある意味もう割り切ってしまった。
「まぁ、これは良かったかな。」
家電製品は軒並み見た目は変わっていたけれど、機能は変わっていなかった。
中には地球にいた頃より機能が上がっているものまであった。
この世界は電力はなく、魔力や魔法で動いているのに使うことができたのは少し理解が追いつかなかったが、異世界だからって理由でとりあえず納得することにした。
驚いたといえばこの革の鞄。
この中身はどんなものでも保管できるうえに入れたものはそのときから劣化せず、鞄を落としたり、無くしたりしても自分のところに帰って来るし、自分以外は物を取り出すことはできないらしい。
そのせいかカフェにあったはずの食糧庫はなくなり、その分事務室が広くなって事務室に食品棚がふたつ置かれているだけになっていた。
2階の居住スペースはバスルームにトイレ、寝室と書斎。
余っている部屋が2つ。
日本で購入したときより、一回り全てが広くなっている。
それにバスタブが猫足バスタブになっていたり、冷蔵庫が木製になっていたりと、この世界に馴染むようなデザインに変更されていた。
その日は何が売っているのか、近所にはどんな店があるのか、何が必要になるのか、など市場調査で全てが終わったのだった。
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