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しおりを挟む夏の暑さと緊張とで一歩一歩坂を登る度にじんわりと汗をかく。
ザッ…ザッ…ザッ…
鼓動が大きくなるのを感じながら丘の頂上に着けば、ふたりで夜空を眺めたときと同じ場所で、ひとりの男性がこちらに背を向けてあの日と同じ澄んだ群青にダイヤモンドを散りばめた夜空を見上げていた。
蒸し暑い夜なのに、ここだけは切り取ったように空気が澄んでいる。
「……リュカさん。」
息を吐くように空気に溶けた僕の声を拾ったリュカさんの振り向いたその顔はどこか泣きそうだった。
初めて見るその表情に手を伸ばしたくて、一歩一歩確実に、距離を縮める。
「……リュカさん「ごめんなさい。」」
呼びかけに返ってきたのは、謝罪。
「貴方を守ると私は誓いました。
誠意を見せると誓いました。
でも私は貴方を守れなかったっ!
昨日、貴方の家に義兄が行ったと報告がありました。
すぐ駆けつけようと思ったけれど、陽さんのメールを思い出して踏みとどまったんです。
ここで会ってしまえば、貴方のメールに籠った気持ちを無視してしまう気がして……。
でもやっぱり駆けつければよかったんじゃないかと……!
……いえ、すみません。
こんなのただの言い訳ですね……。」
血を吐くかのような苦しい声に僕はと言えば安堵していた。
……その謝罪が僕の想いへの謝罪ではなかったから。
「……僕はリュカさんに守ってもらいたいと思ったことはないんです。
僕はΩだけど、"守られる"側じゃなくていつも"守る"側だったから。
それに僕は嬉しかったです。
僕のメールの約束を守ってくれて。
だから今、僕がこれから言うことへの謝罪じゃなくて猛烈に安堵しています。」
リュカさんの表情はまるで迷子になってしまったこどものようだ。
……どこがサイボーグなんだろう。
こんなにもこの人は表情豊かなのに。
レイさんがわからなくて僕がわかっている。
それが嬉しくてたまらない。
嬉しい気持ちも今から言うことを考えれば一気に吹っ飛ぶ。
あぁ、手も足も震える。
頑張れよ、僕。
よし。
リュカさんをまっすぐ見つめる。
「リュカ=フラヴィオ=イオリ=ルグゼンブルクさん。
僕と結婚前提にお付き合いしてください。
僕も貴方を守りたい。
リュカさんと理人と幸せになりたい。
死ぬまでの日々を貴方の隣で過ごしていきたい。」
告白と同時に差し出したのはプロテクターに刻まれたのと同じピンクとオレンジが混ざった一輪のバラ。
この一輪にすべて想いを込めた。
リュカさんにふさわしいとか、ふさわしくないとか考えず、僕の想いを表してくれる一輪のバラ。
あれだけ迷って迷って花束を作れなかったけれど、でもリュカさんを見ていないレイさんと話して、僕はこうした。
だって一輪のバラは"私にはあなたしかいない"って意味だから。
替えのきくモノのように見ているレイさんをいまだに許せていないらしい。
受け取ってくれるだろうか。
待たせすぎてしまっただろうか。
静かな時は永遠に続くかのように感じた。
が、どちらともわからない吐息が聞こえて、崩れる。
「……っもちろん!
一生かけて貴方を幸せにします!」
「う、わっ!」
花を差し出した手を引っ張られてそのままリュカさんの腕の中に閉じ込められた。
リュカさんから漂うだいすきな香りが僕を包む。
しばらくそうしていたが、ふとどんな顔をしているんだろう、と上を見たらとろけるくらい甘く優しい目をしたリュカさんが僕を見ていた。
なんだか胸が苦しい……。
でもその苦しさがむずがゆくて、こそばゆくて、ちょっぴり恥ずかしい。
淡いきもち抱かれながら、温かい涙が一粒、落ちた。
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