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第壱譚

0000:山小屋の男をたぶらかそうとした雪女は、三児の母となる

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 コンコンコン


 ガチャッ



「……はい、……こんな夜更けに一体、どうなされました?」


「夜分遅くにすみません。……ずっと雪山から降りられなくて、遭難してしまいました。……申し訳ないのですが、今晩、ここに泊めてもらえないでしょうか?(きゅるるん)」


「こんな大吹雪の真夜中に、外を歩いていたのですか⁉ そんな薄着をして、……さぞや身体が凍えたでしょう。 ……さあ、早く中へ入って暖まってください!(赤面しながら大慌て)」


「ありがとうございます。(にんまり)」



 雪が降り積もるニホン帝国のとある山奥に、ときどき特徴的な女性が出没する。

 青白い肌に、真っ黒で美しい艶やかな髪の毛。白い薄着の着物一枚きりを着て、色白な裸足で雪の上を歩いている魅惑の女性。……その女性に会うと、生きたまま精気を取られて、死んでしまうらしい。


 ニホン帝国では彼女らを、と呼んでいる。


 そして、今夜、とある山小屋の戸を叩いた女は、紛れもなく凡庸的な雪女であった。



 ◇  ◇  ◇



「……ヤマトさん、今夜はここに泊めてくださってありがとうございます。(微笑)」


「いえいえ、狭くて殺風景な小屋で申し訳ないですが、しっかり暖まってくださいね。(にこにこ)」


「……私は雪の中を渡り歩く使命があるので、明日の夜明けにはここを出なければなりません。(もの悲しそう)……こんな私を助けてくださったヤマトさんに、お礼がしたいのですが、何か私に出来ることはありませんか?(ズイッとヤマトに近寄る)」


「えっ、……いや、いいですよ、ゆきさん。大したことじゃないんで。(顔真っ赤)」


「でも、ヤマトさんに喜んでほしいのです! なんでもしますから‼(ヤマトの膝におかれた手に触れて、色仕掛けする)」


「え、えーと。……じゃあ、添い寝してくれないかな? 勿論、やましいことはしないよ‼(顔茹で蛸状態)」


「……お安い御用ですわ。(にやり)」



 山小屋に一人で住む素朴な男、ヤマトは、かなり簡単に、雪女ゆきの毒牙にひっかかるのであった。



 ◇  ◇  ◇



 ――六年後――



「おかあしゃま、ごはん、ひとりでたべりゅお!」


「そ、そうね、ふゆは偉いわね!(汗)」


「母さん、ぼくもひとりでたべれるよ‼」


「あらあら、アキオは完食できてすごいじゃない!(汗)」


「あーあー、うー、お!(まま、ご飯くれ)」


「な、なつ、今からご飯あげるからね!(汗)」



 なんと、雪女のゆきは、なぜだか三児の母となっていて、青年ヤマトの山小屋から出られない状況に陥っていたのであった!(汗)



「(な、なんでなの~⁉)」



 と、そこへ、山小屋の主人のご帰宅である。


 ガチャガチャッ



「ゆきちゃん、ただいま‼」


「や、ヤマトさん、お帰りなさい。(汗)」


「今日も疲れたよー。……おっ、みんな仲良く晩御飯食べてるな。(にこっ)」


「「「おかえりなさい!(満面の笑み)」」」


「ただいまー! 今日も、ゆきちゃんのご苦労様‼(我が子三人を可愛がる)」


「おとうしゃま、今日もね、おかあしゃまが川からにげようとしていたから、あたしがとめてあげたんだよ!(やや興奮ぎみに)」


「ふゆ、ありがとな!」


「父さん、僕も、母さんが崖から飛び降りようとしてたからね、急いでロープで捕縛したよ!(キリッ)」


「アキオ、さすが俺の息子だ!」


「あー、うー、うお!(ちち、ままを束縛するから、まま逃げようとするんじゃないか?)」


「なつ、よくわからんけど、元気だな!」


「……ヤマトさん、ご飯の用意できましたから、先に食べてください。」


「ゆきちゃん、ありがとう。……ちょっといいかな?(にこやかな圧)」


「は、はいなのです。(ガクブル)」



 ゆきは、いい感じに夕餉を出して乗り切ろうとしたのだが、にこにこしているヤマトはそれを許すはずもなく…………。ゆきは、機嫌の良いように見えるヤマトに手を引かれて、夫婦のお部屋へと連行されていくのであった。



 ◇  ◇  ◇



「ゆきちゃんが足らないよー!」


「や、ヤマトさん!(お顔真っ赤)」



 夫婦のお部屋に入るなり、ヤマトはゆきに後ろから抱きついて、スンスンとゆきの匂いを嗅ぎまくる。



「(スンスン)……他の男どもに会ったりはしていないみたいだね。(ドス黒い笑み)」


「し、してないですよ! 子育てに家事に、忙しいんですからね!(大慌て)」


「……でも、逃げようとしてたんでしょ?(上目遣いで圧)」


「……ちょ、ちょっと気晴らしに散歩してただけなのですわ。(滝のような汗)」


「ふーん。……まあ、今日も逃げないでいてくれたから、許してあげる。(にぱっ)」


「(よ、よかったー。怖かったー。)」


「……それで、提案があるんだけどさ、……四人目、どうかな?(腕の力は緩めずに)」


「――――っ! ……む、無理ですわ! これ以上増えたら、手が回らなくなりますよ!(ガクブル)」


「……でも、前にね、アキオが『父さん、おとうとがほしい。(うるうる)』って、寂しがってたよ。」


「――――っ‼(脳内妄想してグサッとくる)」


「ゆきちゃんは、俺たちの子、嫌いなの?(不安)」


「…………だ、大好きに決まっているじゃないですか!(気恥ずかしげに顔をそらす)」


「そっか。(ほわほわ)」


「可愛すぎて可愛すぎて仕方がないのに、これ以上増えたら、もう、私、一族に戻れませんわ!(泣)」


「戻らなくていいよ。……俺が、ゆきちゃんと子どもたちを守るから。(真剣)」


「だって、……いつか、雪女のが私を見つけ出して、子どもたちを始末してしまうかもしれないのに。……勿論、あなたもなのよ。(涙)」


「大丈夫、俺は簡単にヤラれたりはしないよ。……ゆきちゃんも経験済みでしょ?」


「そうですけど……。(不安)」


 そうなのである。雪女のゆきは、雪女一族に属しており、以前は、厳しい掟のもと、雪山を流浪していたのであった。

 その厳しい掟とは、『若い人間の青年から、エネルギーを吸い取ること』、『人間との交際及び結婚の禁止、子を成すことも禁止』、『吸い取ったエネルギーは、全て、一族の神殿に捧げる』という、謎すぎるものであるのだが、ゆきは、ヤマトに出会ってから、それらを全て破っている。

 現在、ゆきは一族から指名手配されており、見つかり次第、処刑されるのではないかと、ゆき自身が怯えているのであった。



「……ゆきちゃん、最悪の場合、この国から出る選択肢もあるからね。心配しなくても大丈夫だよ。(優しい囁き)」


「この国を出るのですか?(困り眉)」


「うん。ランドット王国のがね、今、アデル皇国で何でも屋(?)みたいなことをやってるらしいから、彼に相談するのもいいかなって思っているんだ。(にこっ)」


「で、でも、……住み慣れたお家を離れるのは、イヤでしょう?」


「(きょとん)…………あはは! ……確かにここは気に入ってるけど、もともと、体温が高過ぎて常温だとしんどいから雪山にいるだけで、俺は、全然大丈夫だよ。……ゆきちゃんに抱きついていたら、冷たいから快適だしね。(にんまり)」


「も、もう、ヤマトさんったら!(赤面)」


「というとこで、四人目、いいよね?(有無を言わせない圧)」


「ど、どうなっても、知りませんからね!(プイッとそっぽを向く)」


「これからもっとにぎやかになりそうだなー。(優しい微笑み)」



 雪山の、隙間風が入り込む小さな小屋の一室で、とある男女が仲睦まじく抱き合うのであった――。



 ――これは、大好きな家族から逃げようとする雪女と、最愛の雪女を逃すつもりのない、とある男のお話。――
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