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最終章 あなたより先に死なない
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その後。
典子さんの旦那さんが浮気をしており、しかもその女性に貢ぐために会社のお金まで使い込んでいたのが発覚。
マスコミ報道されるほどの夫婦喧嘩へと発展した。
さらに当然ながら祖父からも私の件で烈火のごとくお叱りを受けており、半ば一族から追い出された。
宣利さんは〝ちょっとくらいの嫌がらせ〟と言っていたが、これがちょっと?
でも、本当にやろうとしていたことからしたら、ちょっとなのかもしれない……。
不運に見舞われた結婚式から、二年が経った。
子供――琳汰朗はかなりの早産だったのでその後の発育が心配だったが、問題なく大きくなり無事に二歳になる。
尽力くださったドクターや看護師さんたちには頭が下がる思いだ。
しかし、どうしても子供の名前に私の字を入れたかったって、宣利さんの愛が重い。
でも、好きなんだけれど。
「かーりん」
準備を済ませたところで宣利さんが控え室に顔を出す。
「琳汰朗は?」
「お義母さんが面倒見てくれてる。
みんなに可愛い、可愛い言われて得意満面になってたよ」
「あの子は……」
私の口からため息が落ちていく。
琳汰朗はロボットなんて呼ばれていた宣利さんの子供かと疑いたくなるほど、周囲に愛嬌を振りまく。
おかげでその愛くるしい顔立ちもあって、天使かと大人気だ。
でも、それが本来の宣利さんだったんじゃないかと思うんだよね。
琳汰朗の育児に宣利さんの祖父母と両親には口を挟ませていない。
祖父は大事な跡取りだと早速英才教育をしようとしてきたが、宣利さんがシャットダウンした。
『琳汰朗は僕たちの子供ですが、跡取りではありません。
未来は自由に選ばせる。
後を継ぎたいといえば継がせますが』
初節句の日、うるさい祖父にきっぱりとそう言い切った宣利さんは格好よくて、惚れ直した。
「今日のドレスも綺麗だね。
また、求婚していい?」
ちゅっと宣利さんが唇を重ねてくる。
今度は時間がたっぷりあるから、ドレスはフルオーダーした。
形は前回と同じスリムAラインだが、スカート部分にオーガンジーを重ねバックのリボンがティアードスカートのような雰囲気になっている。
大人っぽさの中にも甘さがあり、お気に入りだ。
「何度求婚するつもりなんですか?」
おかしくてつい、笑ってしまう。
「んー、何度でも?
僕と結婚してくれてありがとう」
ちゅっとまた、唇が重なる。
結婚して何年経とうと、宣利さんの甘さは変わらない。
時間になり、父と一緒に中庭に出る。
秋薔薇が咲き乱れ、私たちを祝福するかのように空は澄み渡っている。
今日はあの日のやり直し結婚式だ。
父に腕を取られ、敷かれている赤絨毯の上を進んでいく。
その先では琳汰朗を抱いた宣利さんが待っていた。
今日も神父に扮したスタッフの前にふたりプラスひとり並び、式が始まる。
「倉森花琳を妻とし、永遠に愛することを誓いますか」
「はい、誓います」
宣利さんの声はあの日と同じ……さらに強い決意で溢れている。
「倉森宣利を夫とし、永遠に愛することを誓いますか」
「はい、誓います」
私を深く、深く愛してくれている宣利さんを、私も愛する。
この気持ちは死ぬまで、変わらない。
「では、誓いのキスを」
タイミングを計り、スタッフが合図を出してくる。
「うわーっ!」
唇を重ねた瞬間、歓声が上がった。
今回も成功のようだ。
唇が離れ、子供と三人そろって空を見上げる。
そこにはあの日と同じで、ブルーインパルスの軌跡がハートを矢で貫いていた。
琳汰朗は大喜びで手を叩いている。
「なあ。
二人目、欲しくないか」
空を見上げたまま、宣利さんがぽつりと呟く。
「いいですね」
そっと、彼の手を取って掴む。
繋いだ手が、幸せそうに揺れた。
【終】
典子さんの旦那さんが浮気をしており、しかもその女性に貢ぐために会社のお金まで使い込んでいたのが発覚。
マスコミ報道されるほどの夫婦喧嘩へと発展した。
さらに当然ながら祖父からも私の件で烈火のごとくお叱りを受けており、半ば一族から追い出された。
宣利さんは〝ちょっとくらいの嫌がらせ〟と言っていたが、これがちょっと?
でも、本当にやろうとしていたことからしたら、ちょっとなのかもしれない……。
不運に見舞われた結婚式から、二年が経った。
子供――琳汰朗はかなりの早産だったのでその後の発育が心配だったが、問題なく大きくなり無事に二歳になる。
尽力くださったドクターや看護師さんたちには頭が下がる思いだ。
しかし、どうしても子供の名前に私の字を入れたかったって、宣利さんの愛が重い。
でも、好きなんだけれど。
「かーりん」
準備を済ませたところで宣利さんが控え室に顔を出す。
「琳汰朗は?」
「お義母さんが面倒見てくれてる。
みんなに可愛い、可愛い言われて得意満面になってたよ」
「あの子は……」
私の口からため息が落ちていく。
琳汰朗はロボットなんて呼ばれていた宣利さんの子供かと疑いたくなるほど、周囲に愛嬌を振りまく。
おかげでその愛くるしい顔立ちもあって、天使かと大人気だ。
でも、それが本来の宣利さんだったんじゃないかと思うんだよね。
琳汰朗の育児に宣利さんの祖父母と両親には口を挟ませていない。
祖父は大事な跡取りだと早速英才教育をしようとしてきたが、宣利さんがシャットダウンした。
『琳汰朗は僕たちの子供ですが、跡取りではありません。
未来は自由に選ばせる。
後を継ぎたいといえば継がせますが』
初節句の日、うるさい祖父にきっぱりとそう言い切った宣利さんは格好よくて、惚れ直した。
「今日のドレスも綺麗だね。
また、求婚していい?」
ちゅっと宣利さんが唇を重ねてくる。
今度は時間がたっぷりあるから、ドレスはフルオーダーした。
形は前回と同じスリムAラインだが、スカート部分にオーガンジーを重ねバックのリボンがティアードスカートのような雰囲気になっている。
大人っぽさの中にも甘さがあり、お気に入りだ。
「何度求婚するつもりなんですか?」
おかしくてつい、笑ってしまう。
「んー、何度でも?
僕と結婚してくれてありがとう」
ちゅっとまた、唇が重なる。
結婚して何年経とうと、宣利さんの甘さは変わらない。
時間になり、父と一緒に中庭に出る。
秋薔薇が咲き乱れ、私たちを祝福するかのように空は澄み渡っている。
今日はあの日のやり直し結婚式だ。
父に腕を取られ、敷かれている赤絨毯の上を進んでいく。
その先では琳汰朗を抱いた宣利さんが待っていた。
今日も神父に扮したスタッフの前にふたりプラスひとり並び、式が始まる。
「倉森花琳を妻とし、永遠に愛することを誓いますか」
「はい、誓います」
宣利さんの声はあの日と同じ……さらに強い決意で溢れている。
「倉森宣利を夫とし、永遠に愛することを誓いますか」
「はい、誓います」
私を深く、深く愛してくれている宣利さんを、私も愛する。
この気持ちは死ぬまで、変わらない。
「では、誓いのキスを」
タイミングを計り、スタッフが合図を出してくる。
「うわーっ!」
唇を重ねた瞬間、歓声が上がった。
今回も成功のようだ。
唇が離れ、子供と三人そろって空を見上げる。
そこにはあの日と同じで、ブルーインパルスの軌跡がハートを矢で貫いていた。
琳汰朗は大喜びで手を叩いている。
「なあ。
二人目、欲しくないか」
空を見上げたまま、宣利さんがぽつりと呟く。
「いいですね」
そっと、彼の手を取って掴む。
繋いだ手が、幸せそうに揺れた。
【終】
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