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第八章 零士さんを愛してる
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翌日、念のための検査をさらに受け、退院した。
「こんなに清華の頬が腫れるほど撲つなんて、鞠子のヤツめ」
零士さんが触れる頬はまだ派手に腫れている。
それでも、痛みは軽くなっただけマシだ。
零士さんはさっきから鞠子さんへ呪詛を吐いているが、私としては彼女の手の方が心配だ。
あのときは興奮していたから気づかなかったんだろうが、あんなに私を叩いて手を痛めていないだろうか。
「でも、零士さんと思わぬ時間ができたので……」
それについては彼女に感謝だ。
「清華は本当に優しいな」
零士さんの唇が私の額に触れる。
帰ってきてからは彼のお膝の上、めいっぱい甘やかされていた。
「あの、零士さん。
どうしてあそこがわかったんですか?」
メイドさんが鞠子さんからの迎えに異常を感じ、零士さんに報告していた。
しかし、どこに連れていかれたかまでは知らないはずだ。
「携帯のGPS?」
なぜに疑問形?
もし、居場所特定用のGPSがどこかに仕掛けられていたとしても、それで助かったのでついてはいまは聞かないでおこう。
「場所を特定するのに時間がかかってしまい、本当に悪かったと思っている」
「零士さんは悪くないですよ」
昨日もだが、零士さんが詫びる必要なんてどこにもない。
私をあんな目に遭わせた超本人のキツネ男が悪いんだし、こうなる可能性がゼロではないとわかっていながら行った私も悪い。
「私がわかっているのに、行ったりしたから」
「清華はわかっていても、もし本当に鞠子が窮地に立たされているんだったらと思うと、いても立ってもいられなかったんだろ?」
零士さんの言葉に、黙って頷いた。
「そういう甘い清華が俺は好きだ」
零士さんが私の額に口付けを落とす。
「それにその可能性があるのに無視していたら、俺はがっかりしていただろう」
冗談っぽく零士さんは言ったがその目は本気だったので、決断を間違わなくてよかった。
零士さんから顔中に口付けを落とされながら、甘い時間を過ごす。
……そう言えばあのとき、零士さんがあの人に重なったんだよね。
もしかして、零士さんが……あの人?
キスの合間にそっと、零士さんの顔を見る。
「ん?」
目があって、彼は眼鏡の影に笑い皺をのぞかせた。
その幸せそうな顔にそれでなくても熱い頬がさらに熱くなる。
……初めて会ったとき、どこかで見たことある気がしたし……。
そうだとしたら、いろいろ納得がいく。
「その。
……零士さんは昔、私を助けてくれた人ですか?」
じっと、零士さんの顔を見上げる。
そうだと思いたい、いやきっとそうに違いない。
「思い出したのか」
目尻を下げ、うっとりと彼の手が私の髪のひと束を取る。
「……はい」
零士さんが中学生のとき、私を助けてくれたお兄さん。
お見合いの日、機嫌が悪かったのはきっと、私が忘れていてはじめましてなんて挨拶したから。
初夜、私は拒んだのにも関わらず怒らず雰囲気が変わったのは、好きな人として語られたのが自分だったからに違いない。
「ずっと、清華と結婚できる日を待っていたんだ」
くるくると零士さんの指先が、私の髪を弄ぶ。
「あのあとから清華の父上に、清華の様子をときどき尋ねていた。
清華が夢を実現させるのが、楽しみだったんだ。
でも話を聞いているうちにだんだん、清華に惹かれていって……好きに、なっていた」
ちゅっと口付けしされ、離された髪がさらさらと落ちていく。
「清華を俺のものにしたい。
それで清華の自由が終わる直前に、父上に結婚を申し出たんだ。
……なのに清華が俺を、忘れているとはな」
ははっと嘲笑するように零士さんは笑いを落とした。
「ごめんなさい。
でも、零士さんも早く言ってくれればよかったのに」
「覚えているのが俺だけとか、悲しすぎるだろ」
拗ねているのか、零士さんは小さく口を尖らせた。
「それで。
俺は清華が好きだ。
愛している」
零士さんが熱い瞳で私を見つめる。
予想が確信に変わり、喜びが身体中を駆け巡っていった。
これほどまでの幸せがあっていいんだろうか。
「零士さん……」
好き。
零士さんが好き。
愛している。
こんなにも気持ちは溢れているのに、感情が昂ぶりすぎて言葉になって出てこない。
自然と両手が零士さんの顔を掴み、唇を重ねていた。
自分から彼の中に侵入し、舌を絡める。
一瞬、驚いたように固まった彼だったが、すぐに彼の方からも求めてきた。
「……ん……ふっ……」
熱のこもった甘い吐息が、息継ぎするたびに私の口からも零士さんの口からも零れる。
後ろあたまに回った彼の手が、私の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した。
「……」
唇が離れ、黙って見つめあう。
欲に濡れた瞳が、レンズの向こうから私を見ていた。
「……清華」
「……はい」
期待で胸が高鳴る。
ああ、私はこれで……。
「続きはまだおあずけだ」
「へ?」
わけがわかっていない私の髪を手ぐしで直し、零士さんが軽く唇を触れさせる。
「怪我に響くからな」
「……零士さんの意地悪」
こんなに盛り上がっていたのに、おあずけだなんてあんまりだよ……。
「こんなに清華の頬が腫れるほど撲つなんて、鞠子のヤツめ」
零士さんが触れる頬はまだ派手に腫れている。
それでも、痛みは軽くなっただけマシだ。
零士さんはさっきから鞠子さんへ呪詛を吐いているが、私としては彼女の手の方が心配だ。
あのときは興奮していたから気づかなかったんだろうが、あんなに私を叩いて手を痛めていないだろうか。
「でも、零士さんと思わぬ時間ができたので……」
それについては彼女に感謝だ。
「清華は本当に優しいな」
零士さんの唇が私の額に触れる。
帰ってきてからは彼のお膝の上、めいっぱい甘やかされていた。
「あの、零士さん。
どうしてあそこがわかったんですか?」
メイドさんが鞠子さんからの迎えに異常を感じ、零士さんに報告していた。
しかし、どこに連れていかれたかまでは知らないはずだ。
「携帯のGPS?」
なぜに疑問形?
もし、居場所特定用のGPSがどこかに仕掛けられていたとしても、それで助かったのでついてはいまは聞かないでおこう。
「場所を特定するのに時間がかかってしまい、本当に悪かったと思っている」
「零士さんは悪くないですよ」
昨日もだが、零士さんが詫びる必要なんてどこにもない。
私をあんな目に遭わせた超本人のキツネ男が悪いんだし、こうなる可能性がゼロではないとわかっていながら行った私も悪い。
「私がわかっているのに、行ったりしたから」
「清華はわかっていても、もし本当に鞠子が窮地に立たされているんだったらと思うと、いても立ってもいられなかったんだろ?」
零士さんの言葉に、黙って頷いた。
「そういう甘い清華が俺は好きだ」
零士さんが私の額に口付けを落とす。
「それにその可能性があるのに無視していたら、俺はがっかりしていただろう」
冗談っぽく零士さんは言ったがその目は本気だったので、決断を間違わなくてよかった。
零士さんから顔中に口付けを落とされながら、甘い時間を過ごす。
……そう言えばあのとき、零士さんがあの人に重なったんだよね。
もしかして、零士さんが……あの人?
キスの合間にそっと、零士さんの顔を見る。
「ん?」
目があって、彼は眼鏡の影に笑い皺をのぞかせた。
その幸せそうな顔にそれでなくても熱い頬がさらに熱くなる。
……初めて会ったとき、どこかで見たことある気がしたし……。
そうだとしたら、いろいろ納得がいく。
「その。
……零士さんは昔、私を助けてくれた人ですか?」
じっと、零士さんの顔を見上げる。
そうだと思いたい、いやきっとそうに違いない。
「思い出したのか」
目尻を下げ、うっとりと彼の手が私の髪のひと束を取る。
「……はい」
零士さんが中学生のとき、私を助けてくれたお兄さん。
お見合いの日、機嫌が悪かったのはきっと、私が忘れていてはじめましてなんて挨拶したから。
初夜、私は拒んだのにも関わらず怒らず雰囲気が変わったのは、好きな人として語られたのが自分だったからに違いない。
「ずっと、清華と結婚できる日を待っていたんだ」
くるくると零士さんの指先が、私の髪を弄ぶ。
「あのあとから清華の父上に、清華の様子をときどき尋ねていた。
清華が夢を実現させるのが、楽しみだったんだ。
でも話を聞いているうちにだんだん、清華に惹かれていって……好きに、なっていた」
ちゅっと口付けしされ、離された髪がさらさらと落ちていく。
「清華を俺のものにしたい。
それで清華の自由が終わる直前に、父上に結婚を申し出たんだ。
……なのに清華が俺を、忘れているとはな」
ははっと嘲笑するように零士さんは笑いを落とした。
「ごめんなさい。
でも、零士さんも早く言ってくれればよかったのに」
「覚えているのが俺だけとか、悲しすぎるだろ」
拗ねているのか、零士さんは小さく口を尖らせた。
「それで。
俺は清華が好きだ。
愛している」
零士さんが熱い瞳で私を見つめる。
予想が確信に変わり、喜びが身体中を駆け巡っていった。
これほどまでの幸せがあっていいんだろうか。
「零士さん……」
好き。
零士さんが好き。
愛している。
こんなにも気持ちは溢れているのに、感情が昂ぶりすぎて言葉になって出てこない。
自然と両手が零士さんの顔を掴み、唇を重ねていた。
自分から彼の中に侵入し、舌を絡める。
一瞬、驚いたように固まった彼だったが、すぐに彼の方からも求めてきた。
「……ん……ふっ……」
熱のこもった甘い吐息が、息継ぎするたびに私の口からも零士さんの口からも零れる。
後ろあたまに回った彼の手が、私の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した。
「……」
唇が離れ、黙って見つめあう。
欲に濡れた瞳が、レンズの向こうから私を見ていた。
「……清華」
「……はい」
期待で胸が高鳴る。
ああ、私はこれで……。
「続きはまだおあずけだ」
「へ?」
わけがわかっていない私の髪を手ぐしで直し、零士さんが軽く唇を触れさせる。
「怪我に響くからな」
「……零士さんの意地悪」
こんなに盛り上がっていたのに、おあずけだなんてあんまりだよ……。
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