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第4章 極悪上司と妻の想い出
1.極悪上司からのお願い
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運動会の翌日、休憩室で京塚主任を見つけたけれど、一瞬、躊躇した。
しかし、このところ毎日のように一緒に食べているのに、急に避けたら不審に思われるわけで。
「……お疲れ様です」
仕方なく、その前に座った。
「お疲れ」
京塚主任の前には、カップ麺にコンビニで買ったであろうおにぎりとサラダが置いてあった。
「コンビニ、珍しいですね」
「さすがに昨日、疲れてるからな。
もう年かなー」
わざとらしく、肩をこきこきと彼が鳴らす。
「年かなーって、まだ三十二じゃないですか」
笑いながらエコバッグの中から、コンビニで買ったサラダパスタとおにぎりを取り出した。
「オマエはまだ若いからわからないかもしれないが、三十になった途端、がたーっ!と体力が落ちるのよ。
ほんと、びっくりするくらい一気に」
はぁーっ、と大きなため息が彼の口から落ちていったが、そんなものなのかな。
でも昨日、運動会であれだけ動いたりしていればそりゃ、疲れるだろう。
私ですら今日はお弁当作る気力がなくてコンビニにしたんだし。
「もう最近、全力で杏里と遊んだ翌日は死んでるからな……」
ふっ、と彼が遠い目をする。
しかしながら杏里ちゃんに振り回されている京塚主任を想像したら、微笑ましくてつい笑いが漏れる。
「……笑うことねーだろうが」
「あ、いえ、微笑ましいな、と思っただけで」
彼が不機嫌になって、慌てて理由を説明した。
「でも昨日はありがとな。
杏里も喜んでくれたし、助かった」
京塚主任はそう言ってくれるが、杏里ちゃんの本当の気持ちになんて気づいていないんだろう。
「……いえ」
「杏里も星谷のこと、気に入ったみたいだし」
「えっと……」
なんでもないように京塚主任はラーメンを啜っているけれど、知らぬは親ばかり?
私めっちゃ、否定されたんですけど……。
「それで、じゃないが。
星谷に頼みがあるんだ」
言葉を切って、彼が箸を置く。
「もうすぐ、杏里の誕生日なんだ。
去年もこんな具合でまともに祝ってやれなかったし、今年はごちそうを作ってお祝いしてやりたいんだ」
眼鏡の奥から、京塚主任は私を真っ直ぐに見ている。
彼の頼みなら、ききたい。
けれど私は、杏里ちゃんから嫌われていて。
「……ダメ、か」
返事を躊躇っていたら、少しだけ淋しそうに彼の目が伏せられる。
その顔に、つい。
「ダメじゃないです!
最高の誕生会にしてあげましょうね!」
思いっきり首を横に振り、承知の返事をしてしまっていた。
「ありがとな、星名」
……京塚主任からは感謝されたが、早まってしまった気がしないでもない。
若干の後悔と共に仕事をしていたら、西山さんに声をかけられた。
「さっきいった得意先の近くに、おいしいケーキ屋があるんだ。
よかったら」
ぽりぽりと照れくさそうに頬を掻きながら、紙袋が差し出される。
それを、受け取っていいのか迷った。
「えっと。
……ありがとう、ございます」
「うん」
一応、手を出す。
彼はその上に紙袋を置いた。
「またいいお店、探しておくからさ。
期待してて」
「あ、はい……」
笑顔を貼り付けて彼に返事をする。
これは、間違っているとわかっていながら。
「……西山」
「ハ、ハイッ!」
私の背後からドスのきいた声が聞こえてきて、西山さんが棒立ちになった。
「また開発部の木下から、西山さんが無茶な納期言ってくるんですー、僕たちを殺す気ですか? ……とか、泣きつかれたんだが。
どういうことだ?」
「ひぃっ」
短く、西山さんが悲鳴を上げる。
私は背中に、ツンドラ並みの冷気を受けていた。
「お客様の意向は確かに大事だが、開発の人間に無理させて潰れたら、元も子もないだろーが。
ちっとは、考えろ」
「スミマセン、スミマセン、先方に納期伸ばせないか確認します!」
ペコペコとあたまを下げていたかと思ったら、西山さんが消えた。
「スーリールカンパニーの、西山です。
……」
声が聞こえてきて見た方向では、すでに席に着いた西山さんが電話をかけていた。
「ったく、よぅ……」
悪態をつき、京塚主任が次の書類を手に取る。
毎回、西山さんと話していたら京塚主任がなにかと言ってくるけど……ただの偶然?
あー、でも、西山さんはミスが多いから、きっとそれで、だよね。
「……で。
どうしよ、これ」
開けた紙袋の中には、クッキーのミニパックが入っていた。
京塚主任を好きになれば当然、杏里ちゃんとも向き合わなきゃいけない。
でも、それ以前に。
――私は西山さんにはっきりと、気持ちにはお応えできないと伝えなきゃいけないのだ。
しかし、このところ毎日のように一緒に食べているのに、急に避けたら不審に思われるわけで。
「……お疲れ様です」
仕方なく、その前に座った。
「お疲れ」
京塚主任の前には、カップ麺にコンビニで買ったであろうおにぎりとサラダが置いてあった。
「コンビニ、珍しいですね」
「さすがに昨日、疲れてるからな。
もう年かなー」
わざとらしく、肩をこきこきと彼が鳴らす。
「年かなーって、まだ三十二じゃないですか」
笑いながらエコバッグの中から、コンビニで買ったサラダパスタとおにぎりを取り出した。
「オマエはまだ若いからわからないかもしれないが、三十になった途端、がたーっ!と体力が落ちるのよ。
ほんと、びっくりするくらい一気に」
はぁーっ、と大きなため息が彼の口から落ちていったが、そんなものなのかな。
でも昨日、運動会であれだけ動いたりしていればそりゃ、疲れるだろう。
私ですら今日はお弁当作る気力がなくてコンビニにしたんだし。
「もう最近、全力で杏里と遊んだ翌日は死んでるからな……」
ふっ、と彼が遠い目をする。
しかしながら杏里ちゃんに振り回されている京塚主任を想像したら、微笑ましくてつい笑いが漏れる。
「……笑うことねーだろうが」
「あ、いえ、微笑ましいな、と思っただけで」
彼が不機嫌になって、慌てて理由を説明した。
「でも昨日はありがとな。
杏里も喜んでくれたし、助かった」
京塚主任はそう言ってくれるが、杏里ちゃんの本当の気持ちになんて気づいていないんだろう。
「……いえ」
「杏里も星谷のこと、気に入ったみたいだし」
「えっと……」
なんでもないように京塚主任はラーメンを啜っているけれど、知らぬは親ばかり?
私めっちゃ、否定されたんですけど……。
「それで、じゃないが。
星谷に頼みがあるんだ」
言葉を切って、彼が箸を置く。
「もうすぐ、杏里の誕生日なんだ。
去年もこんな具合でまともに祝ってやれなかったし、今年はごちそうを作ってお祝いしてやりたいんだ」
眼鏡の奥から、京塚主任は私を真っ直ぐに見ている。
彼の頼みなら、ききたい。
けれど私は、杏里ちゃんから嫌われていて。
「……ダメ、か」
返事を躊躇っていたら、少しだけ淋しそうに彼の目が伏せられる。
その顔に、つい。
「ダメじゃないです!
最高の誕生会にしてあげましょうね!」
思いっきり首を横に振り、承知の返事をしてしまっていた。
「ありがとな、星名」
……京塚主任からは感謝されたが、早まってしまった気がしないでもない。
若干の後悔と共に仕事をしていたら、西山さんに声をかけられた。
「さっきいった得意先の近くに、おいしいケーキ屋があるんだ。
よかったら」
ぽりぽりと照れくさそうに頬を掻きながら、紙袋が差し出される。
それを、受け取っていいのか迷った。
「えっと。
……ありがとう、ございます」
「うん」
一応、手を出す。
彼はその上に紙袋を置いた。
「またいいお店、探しておくからさ。
期待してて」
「あ、はい……」
笑顔を貼り付けて彼に返事をする。
これは、間違っているとわかっていながら。
「……西山」
「ハ、ハイッ!」
私の背後からドスのきいた声が聞こえてきて、西山さんが棒立ちになった。
「また開発部の木下から、西山さんが無茶な納期言ってくるんですー、僕たちを殺す気ですか? ……とか、泣きつかれたんだが。
どういうことだ?」
「ひぃっ」
短く、西山さんが悲鳴を上げる。
私は背中に、ツンドラ並みの冷気を受けていた。
「お客様の意向は確かに大事だが、開発の人間に無理させて潰れたら、元も子もないだろーが。
ちっとは、考えろ」
「スミマセン、スミマセン、先方に納期伸ばせないか確認します!」
ペコペコとあたまを下げていたかと思ったら、西山さんが消えた。
「スーリールカンパニーの、西山です。
……」
声が聞こえてきて見た方向では、すでに席に着いた西山さんが電話をかけていた。
「ったく、よぅ……」
悪態をつき、京塚主任が次の書類を手に取る。
毎回、西山さんと話していたら京塚主任がなにかと言ってくるけど……ただの偶然?
あー、でも、西山さんはミスが多いから、きっとそれで、だよね。
「……で。
どうしよ、これ」
開けた紙袋の中には、クッキーのミニパックが入っていた。
京塚主任を好きになれば当然、杏里ちゃんとも向き合わなきゃいけない。
でも、それ以前に。
――私は西山さんにはっきりと、気持ちにはお応えできないと伝えなきゃいけないのだ。
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