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第2章 家族or恋愛対象?

6.心配という名の束縛

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車の中で、春熙は無言だった。
さらに運転が荒い。

「その。
……ごめんなさい」

「それはなにに対して謝ってるの?」

「あの」

なにに対して?
父と春熙の反対を押し切って飲み会に参加するのが、そんなに悪いことなんだろうか。

なにも言えなくなって俯いた。
自分でも理由なんてわからない涙がじわじわと浮いてくる。
とうとうこぼれ落ちそうになって慌てて鼻をすすり、化粧が落ちるのも気にせずにぐいっと力一杯拭った。

「……はぁーっ」

あきれるように春熙が息を吐き出し、またじわじわと涙が出てくる。

「別に怒っているわけじゃないよ。
ただ、心配しているだけ。
わかるでしょ?」

「……はい」

小さい子を諭すように、春熙は話してくる。

「愛乃にまたなにかあったら、お義父さんは悲しむよ。
僕だってあんな気が狂いそうな思い、もうしたくない」

「……はい、ごめんなさい」

ぽたぽたと落ちてくる涙が情けなくて、さらにまた涙が出てくる。
泣いている私に春熙は困ったように笑った。

「わかったんならいいよ。
そうだ、今日はちょっと怖い思いさせちゃったから、お詫びにごはん食べに連れていってあげる。
お腹空いてるでしょ?
どこがいい?
それとも、明日は午前中、予定入ってなかったはずだから、半休にしてホテルでゆっくりしようか」

「……うん」

赤信号で車を止め、春熙が私の顔をのぞき込んでくる。

「まだいじけてるの?
機嫌直して」

涙を拭う親指がくすぐったい。
ちゅっと口づけしたタイミングで信号が青に変わり、春熙は慌てて車を出した。

「それでどうする?」

「……焼き肉食べたい」

「愛乃はほんと、それが好きだね」

「うん」

上機嫌で車を運転する春熙に笑って返しながら、心の中でまた、春熙には絶対に逆らわないと固く誓い直した。

――あのとき。

私のトラウマになったのは、私に危害を加えた人たちじゃなく、――春熙だ。
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