呟くのは宣伝だけじゃありません!~仕事も恋もTwitterで!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第4章 私が叶えたい恋ってなんだろう……?

2.いつまでも私が黙って聞いているとか思ったら大間違いだ!

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「こんな感じかな……?」

携帯からクラウド保存した写真を呼びだし、パソコンで確認する。
あえて携帯で撮ったのは、その方が手作り感が出ていいかなと思ったから。

「うん、いいんじゃないかな」

少しだけ加工した写真を貼り付け、ツイート申請書を作る。
内容はバレンタインに触れない。
あくまでもラベルメーカーでこんな使い方もできますよ、だし、こんなシーンでこういう文房具があると便利じゃないですか、という提案だ。
画像がどことなくバレンタインっぽいのはただの偶然。

「よし、と」

できあがった申請書を手に大石課長の下へ急ぐ。

「お願いします!」

「あ、ああ……」

私の勢いに若干のけぞり気味で大石課長はそれを受け取った。

緊張で喉かカラカラに乾いてくる。
さっきせっかく乾いた脇汗も、またじっとりと掻いてきていた。

「……仕方ない。
企画どおり、ただの商品宣伝だしな」

はぁーっとため息をつき、大石課長はぺたりと判をついた。

「ありがとうございます!」

うきうきと席に戻り、早速ツイートをはじめる。

【弊社のラベルメーカー、リボンにも印字できるんです。
オリジナルのリボンを作ってこんなラッピング、いかがですか】

商品リンクと、リボンを目立つように撮った写真を目一杯四枚、貼り付ける。

「なかなかいい感じじゃないかな」

なーんて自画自賛。
次のツイートまで時間をおいて別の仕事をしている間に、RTがカウントされた。

「あ、ミツミさんがRTしてくれてる……」

援護射撃?
つい顔がにやついてしまう。
それを皮切りに、次々にいいねとRTが付いていった。
さすが、フォロワー五十万越えの力。

「そろそろ次、と……」

【家の鍵ってよく迷子になりませんか?
しょっちゅう鍵を探している彼にこんなプレゼントはいかがでしょう?
もちろん、鍵以外にも使えます】

鍵につけておけば携帯のアプリから音を鳴らして教えてくれる便利グッズの商品説明とイメージ画像を今度は貼り付けた。
Bluetoothトラッカーなので接続範囲はもちろん、最後に接続した場所をアプリが記録していてくれるのである程度の見当が付いたりとかなり便利。
私も鍵につけているし。
なのに会社は出したっきり、あまり売り込まないのは惜しいと思う。

そのまま、また時間を空けるのに別の仕事をしていたら、SMOOTHさんから引用RTが付いた。

【できあがったお菓子にこんなオリジナルラッピング、素敵ですね】

「ええーっ、SMOOTHさん!?」

思わず大きな声を出してしまい、大石課長から睨まれる。

「ス、スミマセン……」

こほんと小さく咳払いし、椅子に座り直す。

「これって、これってさ……」

フォロワーの数がいつもにもなく動いている。
まあ、大石課長に言わせれば、その増えたフォロワーサマが全員、お買い上げくださったのか、だけど。

「それなりの成果が期待できそう……?」

続けて、計画どおりにいくつかツイートした。
リプにも欲しいだとかいうのがちょいちょい付いている。
どこで買えるのか、とのリプを見てちょっと手が止まった。

「どこ……?」

普通はこんなもの、どこで売っているかなんて気にしない。
さらに手に取ってもらうためにはそういうアナウンスも必要だ。

大急ぎで取扱店舗を調べ、ツイート申請書を作る。

「大至急でお願いします!」

「あ、ああ……」

気圧され気味に受け取り、大石課長はちょっとだけ目を通してすぐに判を押した。
もっとも、取扱店舗のアナウンスだけだから、問題なんてないだろうけど。

さっきの、商品紹介ツイートに代表的な取扱店舗の案内をぶら下げる。
自社通販サイトも忘れずに。

「これでうちを知ってくれる人が増えたらいいなー」

まあ、あまり期待はできないけど。
でもそういうものだっていうのはわかっている。
仮にバズったとしても、Twitterという狭い世界だけのこと。
世の中のほとんどの人には関係がない。

仕事を続けていたら、ミツミさんの引用RTが付いていた。

【僕、スマホがよく迷子になるから、これ欲しいかも。
お願い、カイザージムさん♡】

「図々しいぞ!」

思わず画面にツッコんだ私に罪はない。
なにがお願い、だ!
速攻でリプしたいところが、抑えて申請書を書く。
いつもは面倒くさいと思っている申請書だけど、こういうときは少し冷静になれるからいいかも。

内容を考えていたら、さらにそれにSMOOTHさんからリプが付く。

【オレもよく、スマホを迷子にして困るので、欲しいです。
お願い、カイザージムさん♡】

「だから。
お願いすればもらえると思うなよ!」

「伊深、さっきからうるせぇ!」

びしっ、と画面を指さしたところで、大石課長に怒鳴られた。

「……スミマセン」

ううっ、やってしまった……。
顔が熱くて上げられない。
でもミツミさんとSMOOTHさんが悪いんだよ?
ふたりしてこんなこと言ってくるから。

さっきまで打った文章を消して、ポチポチと打ち直す。

「……お願いします」

俯き気味に申請書を差し出す。

「今度は至急じゃないのか」

さっきまでの勢いはなく、弱々しい私の姿に大石課長は意外そうだ。

「他企業さんへの返信なので、できれば早くお願いしたく……」

「そこ入れとけ」

横柄に決済箱を指さされたがそれに反論する元気もなく、そこに申請書を入れた。

「よろしくお願いします……」

とぼとぼと自分の席に戻る。
さっき思わず騒いでしまったのが悔やまれる。
あれは完全に私が悪いから、おとなしくするしかない。

「伊深ぁ」

再び椅子に座って五分もたたないうちに、あきらかに不機嫌なのを隠さない大石課長の声に呼ばれた。

「は、はい!」

慌てて、その前に立つ。

「他の企業というのはこうやって、商品をねだってくるもんなのかぁ?」

パン、パン、と手にしたファイルで彼は机を叩いた。

「あの……」

申請書にはどういうツイートに対しての返信なのかも書かなきゃいけないから当然、ミツミさんとSMOOTHさんのツイートも書いてある。

「戸辺から伊深に任せる代わりに、できるだけ自由に、便宜を図ってくれって約束させられたけどなぁ。
そしたらお前、どんどん図に乗って仕事サボって散歩だろ」

「……」

まだあれを言うんだ。
悔しくて俯いた下できつく唇を噛んだ。

「さらにはオトモダチから商品ください?
はぁ?
Twitterってただの仲良しごっこか?
気楽なもんだな、お前も、他の企業も」

口の中へ僅かに血の味が広がってくる。
それぐらい噛んで堪えないと、涙が出てきそうだったから。

「うちはよその企業と違って真面目に仕事をしてるんだ。
よそはよそ、……」

「お言葉ですが!」

黙って耐えて彼の話を甘んじて受けるのが正解だとわかっていた。
大石課長の方針と私のやりたいことが違っていて、それを責められるのはいい。
だって私がそれだけ、彼を納得させられていないということだから。
でも、他企業を馬鹿にする彼の発言になにかが、キレた。

「宣伝戦略としては間違っていません。
他企業のTwitter担当に商品を送り、モニターしていただき、さらにはツイートしていただくことで得られる宣伝効果はすでに証明されています」

「いや、だから……」

突然、雄弁に語りはじめた私に、大石課長は若干、呆気にとられているが知ったもんか。
口は止まらずに次々に言葉を吐き出していく。

「だいたい、大石課長は冗談とそうでないものの区別もつかないんですか?
彼らだってこれでもらえるだなんて本気で思っていないですよ。
彼らとしてはそれくらい欲しいもの、として宣伝に協力してくださっているだけで」

「あ、ああ……」

「だからこその私の返信が、【代金引換でお送りしますね♡】なわけで」

「も、もういい……」

大石課長はもう止めて欲しそうだが、いったん動きだした私の口はノンストップだ。

「そもそもですね……」

 永遠、滝島さんの課題で得た知識を吐き出し続けた。
大石課長は珍しく、なにも言わずに黙って聞いている。
それがさらに私の口を滑らかにした。

「確かにTwitterという限られた世界のことではありますが、テレビや新聞を観ない人たちには確実な効果があります。
ですので……」

「もうわかった!」

まだまだ話すつもりだったのに唐突に止められ、ムッとして口を閉じる。

「わかったから、席に戻れ……」

ブルブル震えて差し出された申請書を仕方なく受け取った。

「わかりました」

私が背中を向けると、なぜか大石課長ははぁーっと大きなため息をついた。

席に戻り、申請書どおりに返信する。
大石課長にTwitter運用について語りまくっていたせいか、終業時間が迫っていた。

「今日は充実した日を過ごした気がする!」

バレンタインネタにも一応乗れた。
いつもなら嫌み恫喝で私を黙らせる大石課長に反論できた。
なんていい日だ!
これもやっぱり、滝島さんのおかげ?
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