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霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第4章 私が叶えたい恋ってなんだろう……?

1.バレンタインには乗った方がいい

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恋叶こいかなロードの日か。
えらく甘い日だな。
まあ、今日も明日も伊深には関係ないだろうがな!」

申請書に判をつきながら愉快そうにがはがは笑う、大石課長を素知らぬ顔で受け流す。

――だから、バレンタインに義理チョコのひとつももらえないんだって。

とか、本当は言ってやりたいけど。

席に戻り、今日のツイートを開始した。

【2月13日木曜日、今日は豊後高田市ぶんごたかだし恋叶ロードの日です。
恋が叶ったあかつきには、こんなフォトフレームに写真を飾るのはいかがでしょうか】

今日は系列会社の、ウェディングフォトフレームのリンクを貼り付ける。

「恋叶ロード、か」

私が叶えたい恋ってなんだろう。
やっぱり、英人とのよりを戻したい?
それとも……。

浮かんできた顔を慌てて打ち消す。
けれど上げた顔はモニターに貼り付けたイケてる男子付箋と目があった。

「うっ。
だから、違うし」

そんなこと、あるはずがないのだ。
しかし、今日が十三日ということは明日は十四日。

――バレンタインデー。

バレンタインデーはあまり好きじゃない。
だって、自分の誕生日だから。
プレゼントはもらえたよ?
バレンタインのついでのチョコが。
そんなの、嬉しいはずがない。

それはいまは置いておいて。
滝島さんに渡すべき……なのか。

「お世話になってるしなー」

お礼チョコを渡すべきだというのはわかっている。
でもなぜか、そこに別な意味を見いだしてしまいそうな自分に気づき、もうバレンタインは明日に迫っているというのに買えずにいた。

大石課長に怒られない程度にTLをチェックしながら仕事をする。
会社のアカウントはもちろん、企業さんとその関連しかフォローしていないから、TLはほとんどそれだ。

【バレンタインにチョコじゃなくて和菓子はいかがですかー?】

ちゃっかりそうやって、自社商品を勧めてくる三阪屋さんはさすがだ。

【明日のバレンタイン用にチョコレート菓子のレシピ、貼っておきますね】

SMOOTHさんの自社家電を使って作るレシピはなんか、女子力高そう。

【みなさーん、簡単にチョコレートが作れる道具、たくさんありますよー】

美味しそうな使用見本の写真一杯なのは、玩具メーカーのフクトミーさん。

【ローカロリーでしっとりサクサクの、ハートのスコーンの作り方です!
よかったら参考にしてください!】

健康企業のミツミさんですら、乗ってきている。
こんなイベントに乗らない方がおかしい。
少し前からどこの企業も、この手のネタのツイートをしている。

うちにもラッピング用のリボンにオリジナルの印字ができるラベルメーカーとか、ちょっとしたプレゼントに最適な文房具とか、焼きドーナツやワッフルができる調理家電だってあるのだ。
お勧めしたい、お勧めしたい、が。

「……ねぇ」

戻ってきた申請書には×印ばかり。
どうして、自社商品をお勧めしてはいけない?
ちなみに理由は、
「うちはそんなことで浮かれるような企業じゃない。イメージが悪くなる」
だ、そうだ。
全く意味がわからない。

「でも、バレンタインと結びつけなきゃいいんだよね……」

ちょっと考えてキーボードを叩く。
一気に企画書を作り上げ、超特急で大石課長に提出した。

「お願いします!」

「そこに置いとけば……」

「いますぐ!
いますぐ目を通してください!」

もうバレンタインは明日に迫っている。
いまさらな気がしないでもない。
でも、しないよりはまし。

「……わかった」

しぶしぶなのを隠さずに大石課長が企画書に目を通すのを待っていた。
空調が効きすぎなのか、脇にじっとり汗を掻いてくる。

「……まあいいだろう。
商品部には話を通しておいてやる」

「ありがとうございます!」

勢いよくあたまを下げ、席に戻って携帯と鞄を掴む。

「どこに行く気だ!?」

「宣材写真を撮るのに足りないもの、買ってきます!」

そのまま私は会社を飛び出した。

店舗を回り、バレンタインっぽいお菓子を買う。
イメージでネクタイやなんか欲しいところだが……これは誰か捕まえて借りよう。

会社に戻り、商品部へ行く。

「すみません、商品見本を貸してください」

「ああ、はい。
聞いています……」

対応してくれた女性社員から、目的のラベルメーカーと文房具を借りた。

「あ、カートリッジもください。
買います」

「はい」

出されたテープカートリッジから、イメージに合いそうなものを何点か選ぶ。
品番を控えるのも忘れずに。

「じゃあ、借りていきまーす」

次に向かったのは社内の撮影スタジオ。
きちんと取りたいときはちゃんとしたスタジオを借りてプロカメラマンに頼むが、こんなふうにちょっとしたもののときは社内スタジオを使って自分たちで撮る。

「さてと」

買ってきたものをテーブルに広げ、もう一度あたまの中でプランを練った。
時間はあまりない。
さっさとやってしまおう。
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