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第1章 襲った償いは秘密の結婚でした!?
1.気ままなひとり暮らし――ただし、監視付き
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「オレさー、翠ちゃんみたいなおしとやかな女性、大好き」
「……そう、ですか」
笑みを貼り付け、適当に相槌を打つ。
会って一時間もたっていないのにどうしてそんなことがわかるのだろう。
どうせ合コンだっていうのに白ブラウスにパステルのフレアスカート、それにカーディガンなんておとなしいスタイルで判断しているんだろうけど。
「うん。
最近の自己主張の激しい女性、苦手なんだよねー。
やっぱり女性は控えめでなきゃ」
「は、はぁ……」
「あー、それって女性蔑視ー」
突然、それまで別の男と話していた女性が話に入ってくる。
「いや、別にそういうわけじゃ……」
歯切れ悪く言いながら、男性は挽回に必死になっていた。
……話し合わせるの、難しい。
心の中でため息をつき、テーブルの上のカプレーゼを口に運ぶ。
頼み込んで連れてきてもらった合コンだけれど、この人なら、って人はいない。
それ以前に、話を続けるのが難しかった。
気に入ってくださるのは嬉しいが、勝手に向こうの理想を押しつけられる。
いくら誰でもよくてもそれはきつい。
いや、選り好みをしている場合でないのはわかっている。
「美月さんって実はお嬢様?
なんかそんな感じがする」
今度は違う男性がにっこりと私に笑いかけてきた。
「あ、いえ。
ごくごく普通の、家です……」
ただ、男性避けに中高大と女子校だったけれど。
決して、お嬢様などではない。
……いや、就職するまでは箱入り娘だっただけに、完全否定はできないが。
「ふーん。
じゃあ……」
「翠!」
突然、息を切らした同年代の男が登場し、その場が水を打ったかのように静まりかえる。
「帰るぞ!」
「えっ、は、離して!
お兄ちゃん!」
男――兄は私の腕を掴み、無理矢理立たせようとした。
「美月さん、それ、誰……?」
おそるおそる、私をここへ連れてきてくれた西村さんが声をかけてくる。
「あ、兄なの」
「ああ、例の……」
私の答えに彼女は曖昧に笑った。
「帰るぞ、翠!」
「わかったから、離して!」
なおも腕を引っ張る兄の手を、振り払う。
「ごめんなさい、今日は帰ります。
お騒がせしてすみませんでした」
あたまを下げて、苛ついて待っている兄と共に店を出た。
「なんでお兄ちゃんがこんなところにいるのよ!」
私の腕を掴んだまま、兄は街の中を歩いていく。
「なんでって翠が合コンなんて行くからだろ」
「だからなんで知ってんの!?」
「翠のことならなんでもわかるに決まってんだろ」
なんでもって?
そうですね、私のことで知らないことなんてなにもない。
もう何度、こうやって合コンを阻止されただろう。
だからみんな、頼んでもなかなか私を連れていってくれないのだ。
「盗聴器はどこ?
それとも、GPS?」
ぴたっと足を止め、兄がくるりと振り返った。
「言うわけないだろ、バカか!」
「さいっ、てい!」
私たちの兄妹喧嘩を、道行く人は何事かと見ている。
きっと、痴話喧嘩かなにかと思っているに違いない。
「離して!
ひとりで帰るから!」
けれど兄の手は離れない。
通りかかったタクシーを停めて、その中に私を押し込んだ。
「お前、そんなに見合いが嫌か」
はぁーっ、と兄の口からため息が落ちる。
「……嫌」
嫌だから、自分で結婚相手を探したくて、苦手な合コンに参加している。
もっとも、毎回こうやって兄に邪魔されるけれど。
「合コンで適当な相手と付き合ったりするより、親父が厳選した相手と見合いして結婚する方がよっぽど幸せになれると思うけどな」
「……」
兄の言うことは正しい。
わかっている、しかし私は、恋愛くらい自分の好きにしたいのだ。
タクシーは私の住んでいるマンションの前で停まった。
「日曜、実家だからな。
十時に迎えにくる」
「……」
「忘れるなよ」
黙っていたら兄は念押しし、そのままタクシーで帰っていった。
オートロックを解除し、エレベーターで七階へ上がる。
四戸並んだ一番奥の角部屋が私の部屋だ。
「もう嫌になる……」
靴を乱雑に脱ぎ捨て、寝室のベッドへバタンと倒れ込む。
都営地下鉄の駅まで徒歩三分、都心にある職場最寄り駅まで乗り換え無しで二十分。
そんな恵まれた立地でさらに、オートロック、監視カメラ完備の1LDKのマンションは、百貨店総務部勤務のしがない一事務員の私には分不相応だ。
なのにどうしてこんなところに住んでいるのかって、兄のマンションからほど近く、父と兄の条件にあうのがここだったから。
当然、私には出せない家賃だから、半分は父が負担している。
「早く完全独立したい……」
しばらく寝転んでいたら気持ちも持ち直してきたので、ごそごそと部屋を漁る。
兄が私の部屋に盗聴器を仕掛けるなんて日常茶飯事、なので家でも気が抜けない。
「あった、やっぱり……」
今回はこの間もらったバッグの底が二重になっており、そこに仕掛けてあった。
プレゼントの類いは特に警戒しなきゃいけないのに、迂闊だった自分に腹が立つ。
しかもずっと欲しかったバッグだったので、このところ持ち歩いていただけに。
「ほんと、いい加減にしてほしい……」
でもこれは、兄と父の愛なのだ。
生まれて二十六年、積み重ねられた重い重い愛に私は潰れそうだとそろそろ気付いてほしい。
「さて。
少しでも進めておこう」
お風呂に入って気分も共にさっぱりし、パソコンの前に座る。
私はいわゆる、Web作家、という奴だ。
ちまちまと恋愛小説を書いては、サイトに投稿していた。
いつか、自分の本が出せたらいいと夢見ながら。
残念ながら出すコンテスト、出すコンテスト、全戦全敗だけど。
「……そう、ですか」
笑みを貼り付け、適当に相槌を打つ。
会って一時間もたっていないのにどうしてそんなことがわかるのだろう。
どうせ合コンだっていうのに白ブラウスにパステルのフレアスカート、それにカーディガンなんておとなしいスタイルで判断しているんだろうけど。
「うん。
最近の自己主張の激しい女性、苦手なんだよねー。
やっぱり女性は控えめでなきゃ」
「は、はぁ……」
「あー、それって女性蔑視ー」
突然、それまで別の男と話していた女性が話に入ってくる。
「いや、別にそういうわけじゃ……」
歯切れ悪く言いながら、男性は挽回に必死になっていた。
……話し合わせるの、難しい。
心の中でため息をつき、テーブルの上のカプレーゼを口に運ぶ。
頼み込んで連れてきてもらった合コンだけれど、この人なら、って人はいない。
それ以前に、話を続けるのが難しかった。
気に入ってくださるのは嬉しいが、勝手に向こうの理想を押しつけられる。
いくら誰でもよくてもそれはきつい。
いや、選り好みをしている場合でないのはわかっている。
「美月さんって実はお嬢様?
なんかそんな感じがする」
今度は違う男性がにっこりと私に笑いかけてきた。
「あ、いえ。
ごくごく普通の、家です……」
ただ、男性避けに中高大と女子校だったけれど。
決して、お嬢様などではない。
……いや、就職するまでは箱入り娘だっただけに、完全否定はできないが。
「ふーん。
じゃあ……」
「翠!」
突然、息を切らした同年代の男が登場し、その場が水を打ったかのように静まりかえる。
「帰るぞ!」
「えっ、は、離して!
お兄ちゃん!」
男――兄は私の腕を掴み、無理矢理立たせようとした。
「美月さん、それ、誰……?」
おそるおそる、私をここへ連れてきてくれた西村さんが声をかけてくる。
「あ、兄なの」
「ああ、例の……」
私の答えに彼女は曖昧に笑った。
「帰るぞ、翠!」
「わかったから、離して!」
なおも腕を引っ張る兄の手を、振り払う。
「ごめんなさい、今日は帰ります。
お騒がせしてすみませんでした」
あたまを下げて、苛ついて待っている兄と共に店を出た。
「なんでお兄ちゃんがこんなところにいるのよ!」
私の腕を掴んだまま、兄は街の中を歩いていく。
「なんでって翠が合コンなんて行くからだろ」
「だからなんで知ってんの!?」
「翠のことならなんでもわかるに決まってんだろ」
なんでもって?
そうですね、私のことで知らないことなんてなにもない。
もう何度、こうやって合コンを阻止されただろう。
だからみんな、頼んでもなかなか私を連れていってくれないのだ。
「盗聴器はどこ?
それとも、GPS?」
ぴたっと足を止め、兄がくるりと振り返った。
「言うわけないだろ、バカか!」
「さいっ、てい!」
私たちの兄妹喧嘩を、道行く人は何事かと見ている。
きっと、痴話喧嘩かなにかと思っているに違いない。
「離して!
ひとりで帰るから!」
けれど兄の手は離れない。
通りかかったタクシーを停めて、その中に私を押し込んだ。
「お前、そんなに見合いが嫌か」
はぁーっ、と兄の口からため息が落ちる。
「……嫌」
嫌だから、自分で結婚相手を探したくて、苦手な合コンに参加している。
もっとも、毎回こうやって兄に邪魔されるけれど。
「合コンで適当な相手と付き合ったりするより、親父が厳選した相手と見合いして結婚する方がよっぽど幸せになれると思うけどな」
「……」
兄の言うことは正しい。
わかっている、しかし私は、恋愛くらい自分の好きにしたいのだ。
タクシーは私の住んでいるマンションの前で停まった。
「日曜、実家だからな。
十時に迎えにくる」
「……」
「忘れるなよ」
黙っていたら兄は念押しし、そのままタクシーで帰っていった。
オートロックを解除し、エレベーターで七階へ上がる。
四戸並んだ一番奥の角部屋が私の部屋だ。
「もう嫌になる……」
靴を乱雑に脱ぎ捨て、寝室のベッドへバタンと倒れ込む。
都営地下鉄の駅まで徒歩三分、都心にある職場最寄り駅まで乗り換え無しで二十分。
そんな恵まれた立地でさらに、オートロック、監視カメラ完備の1LDKのマンションは、百貨店総務部勤務のしがない一事務員の私には分不相応だ。
なのにどうしてこんなところに住んでいるのかって、兄のマンションからほど近く、父と兄の条件にあうのがここだったから。
当然、私には出せない家賃だから、半分は父が負担している。
「早く完全独立したい……」
しばらく寝転んでいたら気持ちも持ち直してきたので、ごそごそと部屋を漁る。
兄が私の部屋に盗聴器を仕掛けるなんて日常茶飯事、なので家でも気が抜けない。
「あった、やっぱり……」
今回はこの間もらったバッグの底が二重になっており、そこに仕掛けてあった。
プレゼントの類いは特に警戒しなきゃいけないのに、迂闊だった自分に腹が立つ。
しかもずっと欲しかったバッグだったので、このところ持ち歩いていただけに。
「ほんと、いい加減にしてほしい……」
でもこれは、兄と父の愛なのだ。
生まれて二十六年、積み重ねられた重い重い愛に私は潰れそうだとそろそろ気付いてほしい。
「さて。
少しでも進めておこう」
お風呂に入って気分も共にさっぱりし、パソコンの前に座る。
私はいわゆる、Web作家、という奴だ。
ちまちまと恋愛小説を書いては、サイトに投稿していた。
いつか、自分の本が出せたらいいと夢見ながら。
残念ながら出すコンテスト、出すコンテスト、全戦全敗だけど。
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