極秘蜜愛結婚~俺様御曹司のトップシークレットは私!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第1章 襲った償いは秘密の結婚でした!?

2.蔭木課長

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朝は少し早く出社する。
通勤ラッシュを避けたいから。
それにまだ誰も来ていない、会社が好きだ。
誰もいないそこは静謐な感じがして、ピンと背筋が伸びる。
他の人が来る前に、コピー機やなんかの電源を入れて回った。
静かだったそこへ急にウィーンと機械が目を覚ました音が響くのがまた、好きだったりする。
あとはポットをセットし、お茶を淹れる。
飲んでいる間にぼちぼちとみんなが出社してきた。

「おはよう」

倉下くらした部長が挨拶をしながら席に着き、反対に私は席を立つ。
給湯室でお茶を淹れ、倉下部長に出した。

「ありがとう」

「いえ」

目尻を下げて笑う、このイケオジという言葉がぴったりな彼が、私は大好きだ。

「美月くんのお茶が飲めるのもあと少しか」

しみじみと言われ、胸に淋しさが満ちていく。
倉下部長は家の都合で、今月いっぱいでの退職が決まっていた。

「最後までしっかり、淹れさせていただきます」

「うん、よろしく頼むよ」

彼の柔らかい笑みに、ぽっと頬が熱くなる。
無自覚、なんだろうけど部長は私を惑わせた。

「おはよう」

「おはようございます」

そのうち私の、隣の席の中尾なかおさんも出てきた。

「昨日の合コンはどうだった?
いい男はいた?」

準備をしながら中尾さんが訊いてくる。
彼女はもう社会人の息子さんがふたりいる肝っ玉母さんで、私は入社当時から随分お世話になっていた。

「聞いてくださいよー。
また兄が邪魔しにきて」

「ああ、あのお兄さんはもう、病気だねー」

中尾さんは他人事で面白がっていればいいが、私はそういうわけにはいかないのだ。

「反対に、お兄さんに相手を紹介したらいいんじゃない?
そう、悪い見た目でもないんだし」

「そうですね……」

考えなかったわけじゃない。
それに学生時代、兄のことを知った人から紹介してくれと頼まれたこともある。
しかしあの重度のシスコンのせいで、マッハで振られたとなれば……もう、どうすることもできない。

いつもどおり仕事は進んでいく。
お昼休みは外に出て、ちょっとしたお菓子を買って戻った。
今日も同じシフトだと聞いていたので、西村さんを探す。
西村さんは私が働く『三和さんわ百貨店』に入っているショップの店員だ。

「その、昨日はすみませんでした。
せっかく連れていってくれたのに」

ようやく見つけた彼女にあたまを下げ、買ってきたお菓子を差し出す。

「え、こんなの別によかったのに……」

「いえ、迷惑をかけて顔に泥を塗ってしまったので」

「じゃあ……」

さらに押しつけたら、彼女は戸惑いながらも受け取ってくれた。

「あれが噂のお兄さん?
美月さんも大変だね」

西村さんは苦笑いしているけど、それしかできないのだろう。

「困った兄で、本当にすみません……」

「悪いけど、もう頼まれても無理だから。
ごめんね?」

すまなさそうに詫びられたが、悪いのは彼女じゃなく兄だ。

「いえ、こちらこそすみませんでした」

もう一度あたまを下げ、昼休みも残り時間が僅かだったので職場へ戻る。
きっともう、この界隈には私を合コンへ連れていってくれる人などいないだろう。

……詰んだな。

このまま、父の望む人間とお見合いして結婚するしかないんだろうか。

「きゃー、蔭木かげき課長よ」

午後遅く、そこかしこから小さく悲鳴が聞こえてきた。
ドアに群がり、女性たちは廊下を覗いている。
本部の蔭木課長がこちらへ来たらしい。

「パンダが来たね」

にやっと、可笑しそうに中尾さんが笑う。
パンダとは言い得て妙だ。
それくらい、彼には女性が群がるから。

「美月さん、応接室にお茶いいかな。
四つ」

「わかりました」

少しして男性社員が声をかけてきた。
総務課には私と中尾さんの他に数人の女性がいるが、お茶を頼まれるのはたいてい私だ。
何度か中尾さんが文句を言ってくれたが、いまだにあとを絶たない。
おとなしそうな見た目から、頼みやすいとでも思っているのだろう。

「お茶くらい自分で淹れてもバチは当たりませんよ、と」

本部ではすでに、男性社員もお茶出しをするらしい。
けれど店舗の方ではいまだに、旧態依然としたところがある。

「失礼します」

指定された会議室では、蔭木課長とその婚約者である音成おとなりさん、あとは商品課長と高級ブランドショップ、『Reiレイ』の店長が話していた。
音成さんは『三和さんわ百貨店』のご令嬢、蔭木課長は菱井百貨店の御曹司で、同じグループ会社のこのふたりの結婚は非常に大事な政略結婚なのだ。

「だからー、私はこの限定のが友達のとあわせて五枚欲しいの。
どうにかして」

「そう言われましても……」

店長はしきりに、額の汗を拭いている。
ちらりと見えた画像は、今週日曜にRei各店限定三十着販売される、Tシャツだった。
Reiは『菱井三和ホールディングス』傘下の百貨店ではここしか入っていなく、しかも六分の一を要求されれば店長も堪ったもんじゃないだろう。

「ああ、ありがとう」

蔭木課長が爽やかに笑った口もとから白い歯が零れた。
涼やかな目もとを黒メタルスクエアの眼鏡が引き立てる。
彼がお礼を言うなんて意外すぎて、思わず顔を見つめていた。

紘太朗こうたろうからも言ってー」

音成さんの声で我に返った。
媚びるように彼女が蔭木課長にしなだれかかる。

「あまりわがままを言うものじゃないといつも言ってるだろ」

「だってー、欲しいものは欲しいんだもん。
あー、喉渇いた」

私がテーブルに置いたお茶碗を彼女が取る。
でも口に運ぶ間もなく、ガツン!と乱雑に茶托へ戻した。
おかげでお茶が盛大に零れる。

「熱い!」

お茶のかかった手を、大袈裟に音成さんが振った。

「だ、大丈夫ですか!?」

「そ、そこの君!
なにか冷やすものを、早く!」

「は、はい!」

商品課長の声が飛び、慌てて応接室を出て給湯室へと戻る。
適当な袋に氷を詰めて即席氷嚢を作り、また応接室へと向かった。

「見てー、紘太朗。
こんな赤くなっちゃったー。
痛いー」

そこでは青い顔の商品課長と店長を無視して、薄らと赤くなった手を音成さんが蔭木課長へ見せつけていた。

「遅くなり申し訳ありません。
よろしければこちらをどうぞ」

「わざわざありがとう。
……ほら、これで冷やせ」

私からタオルと即席氷嚢を受け取り、蔭木課長は音成さんの手に押しつけた。

「えー、だいたいそこの女が、気が利かないからー」

じろっ、と音成さんに睨み上げられ、思わずびくりと背中が揺れた。

「あとでなんか買ってやるから我慢しろ。
……もう下がっていいぞ」

「し、失礼しました!」

蔭木課長から退室を促され、勢いよくあたまを下げて部屋を出た。
音成さんのわがままは有名だ。
蔭木課長がそれに甘いのも。
けれど私には関係のないことだとこのときは思っていた。
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