極秘蜜愛結婚~俺様御曹司のトップシークレットは私!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第3章 嫌じゃ、ない

5.誠意のカード

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キッチンから聞こえる、なにかを焼く音で目が覚めた。

「おはよ。
顔、洗ってこい」

ちらっとだけ私を見て、蔭木課長は引き続き調理をしている。
私もかまわずに洗面所で顔を洗った。

「いただきます」

今日も向き合って朝食を食べる。
昨日と同じで旅館の朝ごはんのようなメニューが並んでいた。
朝からこんなものが食べられるってだけで満足なので、いろんなことは忘れることにする。

「じゃ、いってらっしゃい」

今日は蔭木課長の方からキスされた。
しかも休みだからか、手を振って見送られる始末。

「いったいなんなんだろ、あれ?」

まあ、いいや。
今日は家に帰るはずだし、そうなると今晩はひとり!
ゆっくり過ごせるはず!

――なーんて思ったのは十時間ほど前。

なぜか蔭木課長はまだ、私の家にいた。

「どうした、マズかったか?」

眼鏡の下で眉をひそめ、心配そうに訊いてくるが、そうじゃないのだ。

「いえ……」

曖昧に笑って酢豚をつつく。
テーブルの上には酢豚に餃子、チャーハンに玉子スープと中華メニューがのっていた。
というか、帰ってきたらできていた。

「なら、いいが」

ぐびぐびと彼が缶から直接、ビールを流し込む。
リビングの隅には今朝と同じく、スーツケースが鎮座していた。

「あのー、帰るんじゃなかったんですか……?」

そのはず、なのだ。
なのになんでまだ、ここにいるの?

「帰ったぞ、一度。
んで、明日からの出張の準備をしてきた」

当たり前のように蔭木課長は摘まんだ餃子をぽいっ、と口へ放り込んだ。

「ええっと、ですね……」

「ん?」

にぱっ、と実にいい顔で彼が笑う。
本当、私に話しかけられるだけで嬉しくてたまんない、って顔で見てくるんだよねー。
それで私も、その顔になにも言えなくなっちゃったり。

「……美味しいですね、この餃子。
どこの、ですか?」

結局、やっぱりそれ以上はツッコめなくて、話を変えた。

「やったな、翠に褒められた。
それは俺の手作りだ」

「……へ?」

箸で摘まんでいる餃子をしげしげと眺めてしまう。
こんなに美味しく、完璧に包まれた餃子が、蔭木課長の手作り?

「全部俺が作ったぞ。
言っただろ、料理が趣味だって」

ええ、聞いていましたが。
でもこんなのまでできるなんて思わないじゃないですか。

「もしかして日頃から作ってるんですか?」

「普段は忙しいから外食で済ませてるな。
でも本当は作るのが好きなんだ。
特に食べさせる相手がいると」

ビールを口に運ぼうとしたが空だったのか、ぐしゃりと缶を潰す。

「自分で作ったメシをひとりで食うのは、味気ないからな」

それはわかる。
自分のために作るのは面倒くさくて、店で割引になっているお弁当を買って帰ることも多いから。

「でも、音成さんがいるじゃないですか。
音成さんに作ってあげたら」

「はっ」

吐き捨てるように笑い椅子を立った蔭木課長は、冷蔵庫からビールを出して戻ってきた。
言っておくが私はビールなど買わないので、買ってきて入れたのだろう。

「誰があいつのために作るかよ。
わがまま、横暴。
あいつの尻拭いがなけりゃ、俺の仕事もかなり楽になるてーの」

本当に忌々しげに顔をしかめ、彼がビールを呷る。
いつも音成さんを甘やかせているという認識だっただけに、意外だった。

「そもそも、俺の手料理なんかあいつが喜ぶわけねーだろ。
反対に鼻で笑って即ゴミ箱行きだ」

まさか、そこまで……とは思ったが、想像してみたらあまりにもしっくりきた。
しかも、きっと彼女を誰よりも知っているであろう人の言葉だけに。

「こんなに美味しい料理、食べないで捨てちゃうのはもったいないです」

この夕食もだけど、ここ二日間の朝食だって、美味しかった。
普段、そんなに食べない私が、完食したほどだ。

「翠はちゃんと、美味しいって食ってくれるからな。
それだけで俺は満足だ」

眼鏡の下で目尻が下がり、蔭木課長の目がゆるいアーチを描く。
それを見ていたら、きゅん、と胸が甘い音を立てた。
ああ、私はきっと、この人を好きになりはじめている。

片付けは食洗機がやってくれた。
ええ、私が仕事に行っている間に買って設置までしてくださっていましたとも。

食後は蔭木課長がコーヒーを淹れてくれた。
うちにはなかったはずの、器具で。

……うん。

帰ってきてから、なんとなく気付いていた。
あちこちに見慣れないものが急に増えているな、って。
同居はしない、と言っていたはずなのに、この人はここに棲む気なんだろうか……?

「盗聴器はもうないと思うぞ。
これでもしあったら、翠のお兄さんはその道のプロだ」

コーヒーを飲みながら、どこで買ったのか、ごつい機械がなにも反応していないところを私に見せてくれた。
その道とは? と一瞬、思ったけれど、どのみち兄がプロであるわけがないのでこれで安心、かな。

「あと、これ」

さりげなく差し出されたのは、クレジットカードだった。
しかも――ブラック。

「遠慮なく使っていいからな。
服でも宝石でもバッグでも、好きなもの買え。
報告もいらん」

本当に本物なのか、失礼ながら何度も裏表確認してしまった。
そんな私を蔭木課長はおかしそうに見ている。
カードにはしっかり、【Midori Kageki】と名前が入っていた。

「ありがとうございます。
……でも」

テーブルの上を、彼の方へとカードを滑らせる。

「何度も言いますがこんなもの、いただくわけにはいかないので」

「ああ、わかってる」

戻されたカードを、蔭木課長は私の方へと押し戻した。

「翠が俺の金を当てにしない、いい女だっていうのはわかってる。
でもこれはお守りみたいなもんだ。
なんかあったときは容赦なく使え。
これは、そのためのカードだ」

じっと、目の前のカードを見つめる。
なにかって、そんなことがあるんだろうか。
けれどレンズの向こうから私を見ている彼の目はどこまでも真剣だ。
これは、彼なりの誠意の形。
なら。

「……わかりました。
お受け取りします」

すっ、とさらに少しだけ、自分の方へとカードを引き寄せた。

「うん。
ああ、もちろん、なにもなくても使っていいからな!」

「うわっ!」

いきなり抱きつかれたうえに、あたまの上にあごを擦りつけられた。
なんだかそういうのが可愛いなー、なんて思ったのは内緒にしておく。
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