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第5章 婚約者とか言わないで!
8.少しの不安と楽しいこと
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「あー、もう、腹一杯……」
しばらくぶりに過ごす、蔭木さんの腕の中は安心する。
しかも、あんなことがあったあとだと。
「翠のメシは旨いから、つい食べ過ぎるんだよな……」
残ったら明日に回そう、と思っていたジャガイモのグラタンを彼は完食してしまった。
それほどまでに美味しかったのだと、嬉しくなってしまう。
「今日、翠の店に行ったついでに、直接國方と話してきた」
その名前に、つい身体をびくんと震わせてしまう。
「俺の女かって訊かれたから、そうだって答えておいた。
だから絶対に、手を出すなって」
「いいんですか」
見上げた彼は眠そうに、ぼーっと前を見ていた。
「ん?
だって、事実だろ。
俺は翠のものだし、翠は俺のものだ」
確認するかのように、胸もとからネックレスを引っ張りだす。
見せつけるように蔭木さんは、そこに通っている結婚指環に口付けを落とした。
「でも、音成さんにバレたら……」
「あいつはそんなことだけは絶対しない。
俺を陥れるためならなんだってするが、そのせいで他の人間が巻き込まれることだけは絶対にしないから」
蔭木さんはずっと、引き出した指環を揺らして見ている。
これはもしかして、國方マネージャーを信頼しているってことなんだろうか。
「香にこの話をすれば確実に翠が不幸になる。
だから絶対に、國方はそんなことをしない」
とうとう彼は私の首からネックレスを外し、指環を抜き取った。
私の左手薬指にそれを嵌め、自分の指環もネックレスから外して着けた。
「翠は一生、俺の妻だ」
私の左手に、彼の左手が重ねられる。
「俺は一生、翠の夫だ」
大きな手がぎゅっと私の手を包み込む。
「小さな手だな」
小さな私の手は、彼の手の中にすっぽりと収まってしまっていた。
「あたまも」
ちゅっ、と額に口付けが落とされる。
「顔も」
ちゅっ、と今度は唇に。
「身体も、小さい」
空いた右手が、私を抱き締める。
――痛いくらいに。
「小さな翠を俺の中に閉じ込めてしまえたらいいのに」
「蔭木、さん?」
いつもと彼の様子が違い、心の中に曇り空が広がっていく。
「なんでもない。
明日から旅行だろ。
もう寝よう」
もしかして、國方マネージャーからなにか言われたんだろうか。
それとも、音成さん?
もしくは社長から?
「なにかあったんですか」
「なんでもない。
ほら、寝るぞ」
「きゃっ!」
いきなり、彼から抱き上げられて慌ててその首に抱きつく。
私をベッドに降ろし、彼も一緒に入ってきた。
「おやすみ、翠」
「……おやすみなさい」
口付けのあと、ヘッドボードに彼が眼鏡を置き、電気が消される。
もそりと動いて、彼の腕に抱きついた。
「……翠?」
「……ダメ、ですか」
「……いい」
今度は彼が寝返りを打ち、空いた手で抱き寄せてくる。
「やっぱり、翠と一緒なのが一番落ち着く……」
言葉は次第に消えていき、気付いたときにはすーすーと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「お疲れ、ですもんね」
少しだけ動いてまた、彼へと身体を寄せる。
「私も蔭木さんと一緒なのが一番落ち着きます……」
ことん、と胸に額を付け、目を閉じた。
明日は、彼が楽しみにしていた旅行だ。
その間はせめて、不安なことを忘れていよう……。
しばらくぶりに過ごす、蔭木さんの腕の中は安心する。
しかも、あんなことがあったあとだと。
「翠のメシは旨いから、つい食べ過ぎるんだよな……」
残ったら明日に回そう、と思っていたジャガイモのグラタンを彼は完食してしまった。
それほどまでに美味しかったのだと、嬉しくなってしまう。
「今日、翠の店に行ったついでに、直接國方と話してきた」
その名前に、つい身体をびくんと震わせてしまう。
「俺の女かって訊かれたから、そうだって答えておいた。
だから絶対に、手を出すなって」
「いいんですか」
見上げた彼は眠そうに、ぼーっと前を見ていた。
「ん?
だって、事実だろ。
俺は翠のものだし、翠は俺のものだ」
確認するかのように、胸もとからネックレスを引っ張りだす。
見せつけるように蔭木さんは、そこに通っている結婚指環に口付けを落とした。
「でも、音成さんにバレたら……」
「あいつはそんなことだけは絶対しない。
俺を陥れるためならなんだってするが、そのせいで他の人間が巻き込まれることだけは絶対にしないから」
蔭木さんはずっと、引き出した指環を揺らして見ている。
これはもしかして、國方マネージャーを信頼しているってことなんだろうか。
「香にこの話をすれば確実に翠が不幸になる。
だから絶対に、國方はそんなことをしない」
とうとう彼は私の首からネックレスを外し、指環を抜き取った。
私の左手薬指にそれを嵌め、自分の指環もネックレスから外して着けた。
「翠は一生、俺の妻だ」
私の左手に、彼の左手が重ねられる。
「俺は一生、翠の夫だ」
大きな手がぎゅっと私の手を包み込む。
「小さな手だな」
小さな私の手は、彼の手の中にすっぽりと収まってしまっていた。
「あたまも」
ちゅっ、と額に口付けが落とされる。
「顔も」
ちゅっ、と今度は唇に。
「身体も、小さい」
空いた右手が、私を抱き締める。
――痛いくらいに。
「小さな翠を俺の中に閉じ込めてしまえたらいいのに」
「蔭木、さん?」
いつもと彼の様子が違い、心の中に曇り空が広がっていく。
「なんでもない。
明日から旅行だろ。
もう寝よう」
もしかして、國方マネージャーからなにか言われたんだろうか。
それとも、音成さん?
もしくは社長から?
「なにかあったんですか」
「なんでもない。
ほら、寝るぞ」
「きゃっ!」
いきなり、彼から抱き上げられて慌ててその首に抱きつく。
私をベッドに降ろし、彼も一緒に入ってきた。
「おやすみ、翠」
「……おやすみなさい」
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もそりと動いて、彼の腕に抱きついた。
「……翠?」
「……ダメ、ですか」
「……いい」
今度は彼が寝返りを打ち、空いた手で抱き寄せてくる。
「やっぱり、翠と一緒なのが一番落ち着く……」
言葉は次第に消えていき、気付いたときにはすーすーと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「お疲れ、ですもんね」
少しだけ動いてまた、彼へと身体を寄せる。
「私も蔭木さんと一緒なのが一番落ち着きます……」
ことん、と胸に額を付け、目を閉じた。
明日は、彼が楽しみにしていた旅行だ。
その間はせめて、不安なことを忘れていよう……。
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