極秘蜜愛結婚~俺様御曹司のトップシークレットは私!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第5章 婚約者とか言わないで!

7それはNGワードです

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帰るときは中尾さんと一緒に通用口を出た。
また國方マネージャーがいたら、とビクビクしたが、今日はまだ仕事中らしい。

「じゃあ、お疲れ様でした」

「お疲れー」

逆方向へ歩いていく彼女と別れ、駅へと向かう。
地下鉄に揺られ、駅前のスーパーでジャガイモと生クリームを忘れずに買った。

「何時に帰ってくるんだろ」

今日のメニューはジャガイモのグラタンと、鶏モモのカレー焼き、あとはサラダに白菜とベーコンのスープにしようと決めた。

ぱぱっと下ごしらえを終わらせ、パソコンの電源を入れる。
携帯を見たら会議が入ったから少し遅くなる、とだけLINEが来ていた。

「早く帰ってこないかな」

今日は会社で会ったのに、それでも早く会いたい。
入力ソフトは立ち上げたものの、昨晩はソファーで寝たせいでぐっすり眠れていないのか、瞼が重くなっていく。

「寝ちゃ、ダメ……」

けれど瞼は重力に勝てず、完全に落ちた。

……誰か、私の髪を撫でている。
それが気持ちよくて、うとうととまどろみを繰り返す。

……まだ寝てたいけど、もう起きないと蔭木さんが帰ってきちゃう。

ゆっくりと瞼を開いたら、蔭木さんが見えた。

「ごめんなさい、LINE、気付かずに寝ちゃって……」

「ん?
眠いならこのまま寝てていいぞ」

起き上がった私を、彼が抱き寄せる。
そこで初めて、彼の視線の先に私のパソコンがあることに気付いた。
あそこには読み返してみようと開いた、自作が表示されているはずで。
なんでそれを彼が見ているの?

「なあ。
これ、翠が書いたのか?」

「ハ、ハイ。
ソウ、デス、ガ……」

全身をだらだらと変な汗が流れていく。
リアルの知り合いに読まれるだけでも恥ずかしいのに、よりにもよって蔭木さんに読まれるなんて!

「凄いな!」

「……へ?」

想像していたのとは違う言葉が出てきて、聞き間違いかと思った。

「俺、昔から文章書くのが苦手で、いまでも書類で苦労しているのに。
こんなにたくさん書いて、しかもちゃんと小説になってるの、凄いな!
尊敬する」

「……ありがとうございます」

褒め方がなんかズレている気がしないでもないが、そんなふうに驚かれるとなんだかくすぐったい。

「本は出てないのか?
書店に買いに行かないとな」

「あー……」

一般人としては、普通の反応だっていうのはわかっている。
でもそれ、一番傷つくワードなんですよ……。

「コンテストには応募してるんですが、全然ダメ、で。
書籍化なんて夢のまた夢なんです……」

先日応募したあれがダメなら、もう書籍化の夢をみるのはやめようと決めた。
趣味では書いていくけれど。

「……そうか。
残念だな」

申し訳なさそうに、みるみる蔭木さんが萎んでいく。
なんかそういうのは嫌だな。
蔭木さんはただ、純粋にそう思ってくれただけなのに。

「でも、こんなに頑張って書いているんだ、絶対すぐに本になる。
そしたらすぐに買いにいこう」

むちゅーっ、と熱烈にキスされた。
彼のためにも、そうなりたい。
ううん、絶対、そうなる。

「ちょっと待ってくださいね、ごはんの仕上げ、しちゃいますから」

「ん、先に風呂入ってくるからゆっくりでいいぞ」

着替えを持って蔭木さんが浴室へと消えていく。
半同棲状態だから、当然着替えも置いてある。
クローゼットの半分は彼のスーツだし。

オーブンを予熱して、グラタンと鶏モモを入れる。
バケットを切ってニンニクバターを準備し、オーブンの残り時間を見ながらスープを温めた。
オーブンが焼き上がりを告げ、焼き具合を確かめる。
ちょうどよさそうだったので取り出し、今度はトースターでバケットを焼いた。

「いい匂いがするな」

テーブルに全て並べた頃、蔭木さんがお風呂からあがってきた。

「ごちそうだな」

テーブルの上を見て、彼が眼鏡の下で目尻を下げる。

「いつもどおりですよ」

手間がかかる料理はなにひとつしていない。
ただ、ちょっとお皿の数が多く見えるだけ。

「いや。
翠の料理ってだけでごちそうだ」

「……大袈裟な」

蔭木さんは私が料理を作った日は、いつも喜んでくれる。
だからつい、張り切ってしまう。

「ワイン、開けるだろ」

と言いつつ、すでに彼の手は冷蔵庫の扉にかかっている。

「昨日、飲んだワインの残りがあるんで、それでいいですか」

「ん、わかった。
……って、モンラッシュ、開けなかったのか?」

飲みかけのワインとグラスをふたつ手に、蔭木さんはテーブルに着いた。

「だって……」

「飲んでいいって言っただろ」

蓋を開け、グラスに彼がワインを注いでくれる。

「きっと、特別な日のために取ってるんだろうと思って。
昨日はその日じゃないんで」

「翠は可愛いな!」

テーブルから身を乗り出してきた彼は、私の額へ口付けを落とした。

「とっておきといっても家に同じようなワインが一ケースはあるから、遠慮しないでよかったのに」

「え……」

忘れていたわけじゃない、彼は我がグループ会社トップの御曹司だと。
でも、経済感覚の違いに、ひさしぶりにくらっとした。

「いただきます」

手をあわせて、ふたりで遅い夕食を食べはじめる。

「これってジャガイモのグラタンか?」

「はい、お気に召していただけるといいんですけど」

お皿に取り分けたそれを、彼が食べるのをじっと見ていた。
自分では合格点が出たので出したのだけど……どうだろう?

「旨いな!」

一口食べた彼の顔がぱーっと輝く。

「ほんとですか?」

「旨い、旨い。
いままでフランスのあの店が一番旨いと思っていたが、翠の作った奴の方が旨い」

「そんな、言い過ぎですよ」

けれど、蔭木さんはぱくぱくと勢いよくそれを食べている。

「本当だって。
もうわざわざフランスまで行って食う必要がない」

きっと、贔屓目に見てそう感じているんだろうとは思うけれど。
こんなに喜んでくれるんなら作ってよかったな。
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