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最終章 もう秘密にしなくていいから
5.きっぱり言ってきたから
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「翠」
部屋に入ると同時に、また紘太朗さんから抱き締められた。
「翠の匂いがする……」
しかも私のあたまに鼻を付けてスーハーしているけど……。
「あの、紘太朗さん?」
「なに、翠?」
「臭く、ないですか……?」
散歩から帰ってきたばかりなのだ。
汗を掻いているし、臭いはず。
「翠はいつも、いい匂いだが?」
そんなはず、ないと思うんだけど……?
ふたりでソファーに座り、甘えるようにその胸に顔をうずめた。
「携帯通じないから、それだけ嫌われたんだと思ってました……」
「携帯?
ああ、家を出たとき充電切れてたんだ。
空港で充電はしたんだが、途端に香からかかってきて、面倒くさくなって電源切った。
向こうに着いて翠にかけたら繋がらなくて、焦った」
彼の手が私の髪を撫でてくれる。
それが、酷く安心できた。
「ここ、圏外なんですよ。
Wi-Fiもそういうサービスでないみたいで」
「そうなのか。
……帰国と同時に、あいつに呼び出された」
思わず顔を上げたら、僅かに笑みをたたえた瞳と目があった。
「翠は離婚届にサインした、俺もしろと言われたな」
私を見つめる目はなにも語らない。
私もただじっと、見つめ返した。
「だからきっぱり、言ってやった。
俺はお前と結婚しないって。
たとえ翠と別れることになっても、お前とだけは絶対に結婚しないとはっきり言ってきた」
「よかったんですか」
するり、と私の頬を撫でた彼の、眼鏡の奥で目が眩しそうに細められる。
「ああ。
いろいろ考えずに最初からこうすればよかったんだよな。
……あいつ、ヒステリー起こして引っ掻いてきて。
猿かっていうんだ」
思いだしたのか、手で傷に触れた彼の顔が歪んだ。
「痛い、ですよね」
「なに、名誉の負傷だ。
それに、翠が負った傷に比べたら、軽い」
ちゅっ、と額に触れる唇がくすぐったい。
「ぐちゃぐちゃのあれは、翠の意思じゃないと一目でわかった。
それでも不安で、翠のいなくなった家で結婚証明書、探したけどな。
破られてなくて、少しだけほっとした」
「……破ったり、しませんよ」
「……そうか」
とくん、とくん、と聞こえる、紘太朗さんの心臓の音は少し速い。
胸にいっぱい、彼の匂いを吸い込んだ。
「すまない、俺のせいでクビになったらしいな。
でもこれからはもう、働かずに翠の好きにしていいから。
家も早く引っ越そう」
「紘太朗さん」
「なんだ?」
真っ直ぐにレンズの向こうの、彼の目を見つめる。
彼も、視線を逸らさずに見つめ返してくれた。
「私、自立したいんです。
いままで働いているとはいえ、父の援助がないと生活できないのが嫌でした。
結婚したからといって、紘太朗さんのお金で遊んで暮らすのは、嫌」
「やっぱり翠は可愛いな!」
力一杯、紘太朗さんが私を抱き締めてくる。
「翠には本を出すという夢があるだろ?
これからはそれに全力で向かっていけばいい。
それに俺が支援するのは、甘えじゃないだろ?」
「そ、それは」
やはり、甘えというんじゃないのかな……?
でも、それが一番だとばかりに紘太朗さんは目をキラキラさせて私を見ている。
「翠の本が出て書店に並ぶのは、俺の夢でもあるからな」
「……本が出て印税が入ったら、恩返しさせていただきます」
「うん。
楽しみにしてる」
ちゅっ、と唇が軽く重なる。
結局私は、紘太朗さんに甘やかされるんだなー。
「……ところで。
翠、俺、臭くないか?」
「え?」
いまさらなことを訊かれ、顔を見上げていた。
「昨日は軽くシャワー浴びただけだし、今日も朝早くからあちこち行って汗、掻いてるし」
すん、と確かめるように彼は自分の袖を嗅いだ。
「臭くないですよ。
……紘太朗さんの匂い、好き、だから」
証明するかのようにまた、胸に顔をうずめる。
……うん。
紘太朗さんの匂い、好き。
いい匂いがする。
「そうか。
でも、やっぱり。
……一緒に風呂、入らないか」
彼の視線の先には、庭の露天風呂があった。
「……眼鏡がないと見えん」
ゆっくりとふたりでお湯に浸かる。
前回の旅行のときは風呂用の眼鏡を持ってきていたが、今回はないので不自由なようだ。
「顔を近づけないと翠の顔も見えん」
本当かな、というくらいまで顔が近づけられ、ちゅっ、とキスされた。
それは何度も何度も繰り返され、――とうとう。
「……翠」
掠れた声で呼んだ彼の手が私の顔を掴み、唇を割って深く侵入してくる。
コソ、カサ、と枯れ葉の落ちる音に、淫靡な吐息が混ざりだす。
「……なあ」
まだ調わぬ吐息で、すぐ近くにある彼の顔を見上げる。
「ここ、携帯が通じないんだよな。
ならしばらく、誰にも邪魔されずに翠を可愛がれるよな」
再び、彼の唇が重なる。
そして――。
部屋に入ると同時に、また紘太朗さんから抱き締められた。
「翠の匂いがする……」
しかも私のあたまに鼻を付けてスーハーしているけど……。
「あの、紘太朗さん?」
「なに、翠?」
「臭く、ないですか……?」
散歩から帰ってきたばかりなのだ。
汗を掻いているし、臭いはず。
「翠はいつも、いい匂いだが?」
そんなはず、ないと思うんだけど……?
ふたりでソファーに座り、甘えるようにその胸に顔をうずめた。
「携帯通じないから、それだけ嫌われたんだと思ってました……」
「携帯?
ああ、家を出たとき充電切れてたんだ。
空港で充電はしたんだが、途端に香からかかってきて、面倒くさくなって電源切った。
向こうに着いて翠にかけたら繋がらなくて、焦った」
彼の手が私の髪を撫でてくれる。
それが、酷く安心できた。
「ここ、圏外なんですよ。
Wi-Fiもそういうサービスでないみたいで」
「そうなのか。
……帰国と同時に、あいつに呼び出された」
思わず顔を上げたら、僅かに笑みをたたえた瞳と目があった。
「翠は離婚届にサインした、俺もしろと言われたな」
私を見つめる目はなにも語らない。
私もただじっと、見つめ返した。
「だからきっぱり、言ってやった。
俺はお前と結婚しないって。
たとえ翠と別れることになっても、お前とだけは絶対に結婚しないとはっきり言ってきた」
「よかったんですか」
するり、と私の頬を撫でた彼の、眼鏡の奥で目が眩しそうに細められる。
「ああ。
いろいろ考えずに最初からこうすればよかったんだよな。
……あいつ、ヒステリー起こして引っ掻いてきて。
猿かっていうんだ」
思いだしたのか、手で傷に触れた彼の顔が歪んだ。
「痛い、ですよね」
「なに、名誉の負傷だ。
それに、翠が負った傷に比べたら、軽い」
ちゅっ、と額に触れる唇がくすぐったい。
「ぐちゃぐちゃのあれは、翠の意思じゃないと一目でわかった。
それでも不安で、翠のいなくなった家で結婚証明書、探したけどな。
破られてなくて、少しだけほっとした」
「……破ったり、しませんよ」
「……そうか」
とくん、とくん、と聞こえる、紘太朗さんの心臓の音は少し速い。
胸にいっぱい、彼の匂いを吸い込んだ。
「すまない、俺のせいでクビになったらしいな。
でもこれからはもう、働かずに翠の好きにしていいから。
家も早く引っ越そう」
「紘太朗さん」
「なんだ?」
真っ直ぐにレンズの向こうの、彼の目を見つめる。
彼も、視線を逸らさずに見つめ返してくれた。
「私、自立したいんです。
いままで働いているとはいえ、父の援助がないと生活できないのが嫌でした。
結婚したからといって、紘太朗さんのお金で遊んで暮らすのは、嫌」
「やっぱり翠は可愛いな!」
力一杯、紘太朗さんが私を抱き締めてくる。
「翠には本を出すという夢があるだろ?
これからはそれに全力で向かっていけばいい。
それに俺が支援するのは、甘えじゃないだろ?」
「そ、それは」
やはり、甘えというんじゃないのかな……?
でも、それが一番だとばかりに紘太朗さんは目をキラキラさせて私を見ている。
「翠の本が出て書店に並ぶのは、俺の夢でもあるからな」
「……本が出て印税が入ったら、恩返しさせていただきます」
「うん。
楽しみにしてる」
ちゅっ、と唇が軽く重なる。
結局私は、紘太朗さんに甘やかされるんだなー。
「……ところで。
翠、俺、臭くないか?」
「え?」
いまさらなことを訊かれ、顔を見上げていた。
「昨日は軽くシャワー浴びただけだし、今日も朝早くからあちこち行って汗、掻いてるし」
すん、と確かめるように彼は自分の袖を嗅いだ。
「臭くないですよ。
……紘太朗さんの匂い、好き、だから」
証明するかのようにまた、胸に顔をうずめる。
……うん。
紘太朗さんの匂い、好き。
いい匂いがする。
「そうか。
でも、やっぱり。
……一緒に風呂、入らないか」
彼の視線の先には、庭の露天風呂があった。
「……眼鏡がないと見えん」
ゆっくりとふたりでお湯に浸かる。
前回の旅行のときは風呂用の眼鏡を持ってきていたが、今回はないので不自由なようだ。
「顔を近づけないと翠の顔も見えん」
本当かな、というくらいまで顔が近づけられ、ちゅっ、とキスされた。
それは何度も何度も繰り返され、――とうとう。
「……翠」
掠れた声で呼んだ彼の手が私の顔を掴み、唇を割って深く侵入してくる。
コソ、カサ、と枯れ葉の落ちる音に、淫靡な吐息が混ざりだす。
「……なあ」
まだ調わぬ吐息で、すぐ近くにある彼の顔を見上げる。
「ここ、携帯が通じないんだよな。
ならしばらく、誰にも邪魔されずに翠を可愛がれるよな」
再び、彼の唇が重なる。
そして――。
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