極秘蜜愛結婚~俺様御曹司のトップシークレットは私!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 もう秘密にしなくていいから

9.ジャガイモのグラタン

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総務に顔を出すと、すぐに中尾さんが気付いてくれた。

「美月ちゃん!
どこ、行ってたの!?」

私の顔を見て、中尾さんの目が真っ赤に充血していく。

「ご心配かけて、すみません。
その、倉下部長のところに」

「いいのよ、別に。
私こそごめんね、美月ちゃんが大変なのになにもしてあげられなくて」

ぎゅっと私の手を握る彼女の顔は、後悔でいっぱいだった。

「中尾さんのせいではないので」

手を握り返し、首を振る。

……もし。
あのとき、彼女に相談していたら、なにかが変わっていたかもしれない。
でも私は、そんなことすら思いつかなかった。

「蔭木課長と結婚したんだってね」

ちらっ、と私の後ろに黙って立っている紘太朗さんへ、彼女の視線が向く。

「……はい。
嘘をついたりしてすみません」

「いいのよ、いろいろ事情があったんだろうし。
おめでとう」

「ありがとうございます」

もっとなにかと、訊かれたり責められたりするんじゃないかと思っていた。
でも彼女は本当に、私の結婚を喜んでくれている。

「今度、お祝いのお食事会しましょ。
また、連絡する」

「はい、楽しみにしています」

「そのとき、全部訊かせてもらうからね」

私に向かって片目をつぶった彼女は情報通の顔をしていて、きっと根掘り葉掘り訊かれるんだろうなと予感させた。
でも、かなり心配させたんだし、それくらい話していい。

紘太朗さんはわざわざ、店の前でタクシーを拾ってくれた。

「会議、頑張ってください。
おいしい晩ごはん、用意して待ってます」

「ひさしぶりの翠のメシだもんな。
なるべく早く帰る」

人目も憚らずキスしてもらい、タクシーを出してもらう。

「晩ごはん、なんにしよ?」

何気なく携帯を見て、メールが届いているの気付いた。

「小説サイト、からだ」

読み進めるにつれ、身体に歓喜が満ちていく。
それでも信じられなくて、何度も何度も読み返した。

「紘太朗さんに連絡」

LINEを起こし、指を走らせかけたけれど止まる。

「直接、教えたいな」

きっと、そのほうがいい。
今日の晩ごはんはごちそうにしよう。

うきうき気分で晩ごはんを作り、紘太朗さんの帰りを待つ。

「ただいま」

「おかえりなさい」

帰ってきた紘太朗さんは、大きな花束を抱えていた。

「どうしたんですか、これ」

「ん?
なんでもないけど、翠にプレゼントしたかったから」

ちゅっ、とキスしてもらい、受け取った花束を抱えて一緒にリビングダイニングへ行く。

「今日はごちそうだな。
ひさしぶりのメシだからか?」

テーブルの上を見て、彼はまた私の唇へ口付けを落とした。

「それもなんですけど。
その。
……入賞した、って連絡もらって」

「……それって、翠の本が出るってことか」

みるみる彼の目が、そのレンズの幅と同じくらい見開かれていく。

「はい」

「よかったな!
いつ出るんだ!?
本屋に、買いに行かないとな!」

肩をぐらんぐらんと揺らされ、それにあわせて首も揺れる。

「まだ先ですよ。
いまから話を詰めるので」

「いや、それでもめでたい。
しまったな、ケーキくらい買ってくればよかった」

私よりも紘太朗さんが喜んでいて、直接言ってよかったな。

「作家の誕生に。
乾杯」

「……乾杯」

少し恥ずかしく、グラスを上げる。
今日こそ特別な日だろ、と紘太朗さんはモンラッシュを開けた。

「ジャガイモのグラタンじゃないか。
これが食いたかったんだよな」

紘太朗さんは大喜びでよそっているが、そういえば最後の手料理もこれだったと気付いた。

「あの、同じのが続いてごめんなさい」

「ん?
同じと言っても、もう何日空いたと思ってるんだ?
……うん、やっぱり翠の作るのが旨い」

紘太朗さんはご満悦みたいだし、ま、いいか。

「フランス行って、少しでも気分を切り替えようと思っていつもの店でこれを食べたんだ。
でも食いながら思いだすのは翠のことばかりで、俺はなんてことをしてしまったんだ、早く帰って翠にあやまりたいとばかり考えていた」

「紘太朗さん……」

「また、翠の作るジャガイモのグラタンが食べられてよかった」

目尻が下がり、眼鏡の影に笑い皺がのぞく。
私は彼のために、この先もずっとジャガイモのグラタンを作り続けよう。

食後、紘太朗さんの淹れてくれたコーヒーを飲みながらまったり過ごす。

「あいつとの話は完全になくなった。
もう姻戚関係を結ぶ程度じゃどうにもならない段階に来ているのだと、ようやく気付いたらしい」

「そう、ですか」

これから音成さんはどうなってしまうのだろう。
あの、わがまま女王様が、このまま普通に生活していけるだなんて思わない。

「それでもあいつがいるのに翠と結婚した俺にも責はあるからな。
翠に請求していた慰謝料とあわせてそれなりに払ってきた。
まあ、あの額でもあいつなら、一瞬で使い切ってしまうだろうが」

私の髪を一房取り、くるくると彼が指先で弄ぶ。
私に請求された慰謝料もかなりの額だったのだ。
それが一瞬、って。

「もっとも、あいつは彼氏何号かとハワイに行ってたけどな。
代理の兄が恐縮しきって断ってきたが、手切れ金だと置いてきた。
……悪かったか?」

なぜか、紘太朗さんが私の顔をのぞき込む。
ううん、と私は首を横に振った。

「音成さんにも、彼女を理解してくれる人が現れたらいいのに」

思うのだ、彼女のわがままは満たされない欲求の代わりなんじゃないかな、って。
きっとそれが満たされたら、落ち着くんじゃないだろうか。

「そうだな。
俺にとっての翠みたいな人間があいつにも現れるといいな」

ふっ、と淋しそうに笑った彼に、甘えるように寄りかかる。
でもこのとき、私たちは知らなかったのだ。
ハワイで彼女が、彼女のわがまますら笑って受け流してしまう、ダンディなおじさまと出会っていることに。

「翠。
……子作り、しようか」

私の耳もとで囁き、はむ、とそのまま食んでくる。

「あの」

「俺は早く子供が欲しい」

「……ん」

首筋を甘噛みされ、甘い吐息が漏れた。

「ほら、おいで」

立ち上がり、手を広げる彼には逆らえない。
そのまま結局――。
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