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第1章 結婚はファーストキスの相手と!?
1.ファーストキスは突然に
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……なんでこんなことになっているのかな。
鏡に映る私はいつも以上に暗い顔をしていた。
もし、私のいまの境遇を同じ会社の女性たちが知れば、我先に代わってくれと申し出てくるだろう。
なんていったってあの、社内一のモテ男で有名な彼と食事なんだから。
でも私は、ああいう人が苦手なのだ。
地味な私は地味に目立たずひっそりと。
それが、私の信条だ。
なので、代われるものならふたつ返事で代わりたい。
……このまま帰っちゃったらダメかな。
そんなことができるなら終業時間になった時点で、速攻で逃亡している。
できないからこそいま、ここにいるのだから。
「……早く戻らないと怪しまれるよね」
はぁーっ、とどこまでも憂鬱な群青色のため息をつき、化粧室を出る。
――いまから、さらにまさかの展開が待っているなんて知らずに。
その日、頼まれた会議室の片付けを終わらせて戻る途中、立ち話をしている男女に遭遇した。
「ねえ。
付き合ってとまではいわないから、食事くらい」
女性の方は秘書課の桐谷主任。
モデル並みのスタイルで、社内では美人で有名だ。
「なぜ僕が、君と一緒に食事になど行かねばならん?」
男性の方は営業統括本部の夏原課長。
こちらもモデル並みの高身長でイケメン、さらにはかけている細めの銀縁スクエア眼鏡が顔面偏差値を跳ね上がらせていて、社内のほとんどの女性が狙っているという話。
「だ、か、ら。
食事くらい、いいじゃない。
減るもんじゃあるまいし」
「減るね」
減るんだ、とか素直に納得していたら、レンズ越しに夏原課長と目があった。
手が伸びてきて私を引き寄せる。
なにが起こっているのかわからずにぽけっと彼の顔を見ていたら、眼鏡同士の当たるカツッと乾いた音と共に唇が――触れた。
「僕は彼女と結婚するから、他の女性とふたりで食事になんて行るはずがない」
「な、なにするんですかー!」
――ピタン。
反射的に手を振りあげ、思いっきり彼をビンタする。
が、勢いのわりに間抜けな音がした。
だって私と彼の身長差ではかろうじて指先が当たっただけだったから。
「……この僕を叩くなんていい度胸しているな」
「ひぃっ」
夏原課長からその眼鏡と同じくらい冷たい視線で見下ろされ、思わず悲鳴が漏れる。
でも悪いのは私じゃなく、彼のはずだ。
「だ、だって、いきなりキス、とか」
「なにか問題でもあるのか」
あるに決まっている。
だって私は――。
「ファ、ファーストキスだったのにー!」
「……ファーストキス?」
途端に、それまで高圧的に私を見下ろしていた彼の態度が一変した。
「へー、そうか」
軽く握った拳を口もとに、なにかを考えている夏原課長の唇は右の口端が僅かに持ち上がり、いかにも意地悪そうに見える。
「君は僕を叩いた。
この詫びはしなければいけない」
「え……」
その高い背を屈め、ぐいっと夏原課長が私に顔を近づけてくる。
そもそも私に叩かれたのは彼が一方的にキスをしてきたからで、なのになんで私が詫びを? などとあたまの中ではぐるぐる回っていた。
けれど二枚のレンズを挟んで彼に見つめられれば蛇に睨まれた蛙に等しく、口から出てくるわけがない。
「わかるよな?」
ぐいっとさらに、顔が近づいてくる。
さっきのことを思いだし、後ろに一歩下がっていた。
「あの……」
「わかるよな、と訊いている」
さらに夏原課長の顔が近づきまた一歩下がったものの、後ろはもう壁。
これ以上は逃げられない。
「……はい」
気持ちとは真反対な返事をした。
だってそれしか、私にはそれしか選べなかったから。
満足げに頷き、ようやく彼は私から顔を離してくれた。
「よし、仕事が終わったら僕のところまで来い。
わかったな」
「……」
「わかったな!?」
「は、はい!」
いまの状況にあたまが追いつかず、ぼーっとしていたら夏原課長の鋭い声が飛んだ。
つい、反射的に返事をする。
「よし、待ってるからな。
逃げたらどうなるか……わかるよな」
「は、はい!」
眼鏡の奥で、彼の目が切れそうなほど細くなった。
どうなるか想像するだけで、泣きそうだ。
「じゃあ、待ってるからな」
念押しするようにそう言い、夏原課長は去っていった。
彼がいなくなって辺りを見れば、いつの間にか桐谷主任もいなくなっている。
どうも、私たちが揉めて……というよりも一方的に夏原課長から脅されている間に退散してしまったようだ。
「ど、どうしよう……」
詫びってなにをさせられるのかな。
不安で不安で仕方なくて、このあとの仕事は全く手につかなかった……。
鏡に映る私はいつも以上に暗い顔をしていた。
もし、私のいまの境遇を同じ会社の女性たちが知れば、我先に代わってくれと申し出てくるだろう。
なんていったってあの、社内一のモテ男で有名な彼と食事なんだから。
でも私は、ああいう人が苦手なのだ。
地味な私は地味に目立たずひっそりと。
それが、私の信条だ。
なので、代われるものならふたつ返事で代わりたい。
……このまま帰っちゃったらダメかな。
そんなことができるなら終業時間になった時点で、速攻で逃亡している。
できないからこそいま、ここにいるのだから。
「……早く戻らないと怪しまれるよね」
はぁーっ、とどこまでも憂鬱な群青色のため息をつき、化粧室を出る。
――いまから、さらにまさかの展開が待っているなんて知らずに。
その日、頼まれた会議室の片付けを終わらせて戻る途中、立ち話をしている男女に遭遇した。
「ねえ。
付き合ってとまではいわないから、食事くらい」
女性の方は秘書課の桐谷主任。
モデル並みのスタイルで、社内では美人で有名だ。
「なぜ僕が、君と一緒に食事になど行かねばならん?」
男性の方は営業統括本部の夏原課長。
こちらもモデル並みの高身長でイケメン、さらにはかけている細めの銀縁スクエア眼鏡が顔面偏差値を跳ね上がらせていて、社内のほとんどの女性が狙っているという話。
「だ、か、ら。
食事くらい、いいじゃない。
減るもんじゃあるまいし」
「減るね」
減るんだ、とか素直に納得していたら、レンズ越しに夏原課長と目があった。
手が伸びてきて私を引き寄せる。
なにが起こっているのかわからずにぽけっと彼の顔を見ていたら、眼鏡同士の当たるカツッと乾いた音と共に唇が――触れた。
「僕は彼女と結婚するから、他の女性とふたりで食事になんて行るはずがない」
「な、なにするんですかー!」
――ピタン。
反射的に手を振りあげ、思いっきり彼をビンタする。
が、勢いのわりに間抜けな音がした。
だって私と彼の身長差ではかろうじて指先が当たっただけだったから。
「……この僕を叩くなんていい度胸しているな」
「ひぃっ」
夏原課長からその眼鏡と同じくらい冷たい視線で見下ろされ、思わず悲鳴が漏れる。
でも悪いのは私じゃなく、彼のはずだ。
「だ、だって、いきなりキス、とか」
「なにか問題でもあるのか」
あるに決まっている。
だって私は――。
「ファ、ファーストキスだったのにー!」
「……ファーストキス?」
途端に、それまで高圧的に私を見下ろしていた彼の態度が一変した。
「へー、そうか」
軽く握った拳を口もとに、なにかを考えている夏原課長の唇は右の口端が僅かに持ち上がり、いかにも意地悪そうに見える。
「君は僕を叩いた。
この詫びはしなければいけない」
「え……」
その高い背を屈め、ぐいっと夏原課長が私に顔を近づけてくる。
そもそも私に叩かれたのは彼が一方的にキスをしてきたからで、なのになんで私が詫びを? などとあたまの中ではぐるぐる回っていた。
けれど二枚のレンズを挟んで彼に見つめられれば蛇に睨まれた蛙に等しく、口から出てくるわけがない。
「わかるよな?」
ぐいっとさらに、顔が近づいてくる。
さっきのことを思いだし、後ろに一歩下がっていた。
「あの……」
「わかるよな、と訊いている」
さらに夏原課長の顔が近づきまた一歩下がったものの、後ろはもう壁。
これ以上は逃げられない。
「……はい」
気持ちとは真反対な返事をした。
だってそれしか、私にはそれしか選べなかったから。
満足げに頷き、ようやく彼は私から顔を離してくれた。
「よし、仕事が終わったら僕のところまで来い。
わかったな」
「……」
「わかったな!?」
「は、はい!」
いまの状況にあたまが追いつかず、ぼーっとしていたら夏原課長の鋭い声が飛んだ。
つい、反射的に返事をする。
「よし、待ってるからな。
逃げたらどうなるか……わかるよな」
「は、はい!」
眼鏡の奥で、彼の目が切れそうなほど細くなった。
どうなるか想像するだけで、泣きそうだ。
「じゃあ、待ってるからな」
念押しするようにそう言い、夏原課長は去っていった。
彼がいなくなって辺りを見れば、いつの間にか桐谷主任もいなくなっている。
どうも、私たちが揉めて……というよりも一方的に夏原課長から脅されている間に退散してしまったようだ。
「ど、どうしよう……」
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