蜜婚遊戯~ファーストキスから溺愛されています~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第1章 結婚はファーストキスの相手と!?

4.ファーストキスの責任とは?

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「どうした?」

戻ってきた私がよほど酷い顔でもしていたのか少し怪訝そうに夏原課長は訊いてくるけれど、そっくりそのまま、お返ししたいです。

席に戻ると同時に料理が出てきはじめる。
高級ホテルの最上階でフレンチ、しかも相手は夏原課長となれば会社の女性たちは大喜びなんだろうけれど。
私はといえばひたすら気が重くて、せっかくのフレンチも色褪せて見えた。

「そういえば、今日のあれがファーストキスだと言っていたが本当か」

「……はい」

心の中でため息をつき、ナイフとフォークを置く。
きっと、あんなことでもなければ死ぬまで取っておいたであろうファーストキスだけど、それでもこんな形で失うのはショックが大きい。

「ふーん、そうか」

それっきりやはり、夏原課長からの謝罪はない。
それどころかなぜか、愉しそうにニヤニヤ笑っている。

「なら、結婚するか」

「……はい?」

きっと、この時の私は思いっきり間抜けな顔をしていただろう。
間抜け顔選手権とかあったら、ぶっちぎりで優勝できるくらい。

「責任を取ろう」

「……はい?」

責任って、いったいなんの?

「ファーストキスだったんだろ?
なら僕が責任を取って結婚しよう」

「……はい?」

さっきから夏原課長がなにを言っているのかさっぱり理解できないんだけど……。
この人は日本語を話しているのですよね?

「そのー、たかがキスごときで結婚していただく必要はありませんので……」

「……たかが、だと?」

ぴくん、と眼鏡の下で彼の右眉が跳ね上がる。

「君にとってファーストキスとは、その程度のものなのか?」

「あの、いえ、そんなことは……」

なんで私が詫びなければいけないかわからないが、そうしないと彼は許してくれそうにない。

「大事なファーストキスだろ?
なら、その相手と結婚するべきだ」

「は、はぁ……」

そうなのかな。
そんなの、聞いたことがないけど。

「それともあれか、すでに将来を誓った相手がいる、と」

「いないですが……」

「それともいま現在、付き合っている相手がいる、と」

「いないですが……」

残念ながら私には現在過去未来、彼氏なんてものが存在しようがない。

「なら、どこにも問題はない」

満足げに夏原課長が頷く。
確かに相手がいなければ問題ないだろうけど。
そもそも、こんなことで結婚を決めてしまっていいのかな。

「それにイケメン、高収入の僕のどこに不満がある?」

確かに夏原課長は顔もスタイルもいい。
しかも日本五大総合商社のひとつ、『FoSフォスCompanyカンパニー』営業統括本部で課長をしている。
年は確か三十二って話だけどもうすぐ部長昇進って話だし、きっと私なんかが想像できないくらい給料ももらっているだろう。

「あの、でも」

「浮気もしない、家事は基本、ハウスキーパーがやってくれる、両親との仲も良好、僕の母に限ってありえないがもし、嫁姑問題が起きれば僕は全面的に君に味方する。
子育てだって積極的にやるつもりだ。
こんな優良物件、逃がしてどうする?」

確かに優良物件かも……とか感心している時点で、私の感覚はだいぶ麻痺してきていたと思う。

「さらにファーストキスの相手が夫とか、これ以上幸せなことはないと思うが?」

「そ、そうですね……」

確かに夏原課長は結婚相手として申し分ないどころか私にとって分不相応なくらいだし、それにだんだん、ファーストキスの相手と結婚するのがいい気がしてきた。

「なら、僕と結婚するよな」

さらに夏原課長がたたみかけてくる。
それに対して私は。

「そう、ですね」

もう、そう言うしかなかった。
それ以外の選択肢はどこにも用意されていなかったから。

「よし」

また満足げに頷き、夏原課長は眩しいものでも見るかのように目を細めて笑った。

こうして私は、あの夏原課長と結婚の約束をしてしまったわけだけど――。
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