蜜婚遊戯~ファーストキスから溺愛されています~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第2章 可愛いってからかってるんですか?

2.食べたいものはなんですか?

今日はコンパクトカー程度の大きさの外車だった。
どうも、仕事は黒のスポーツセダン、プライベートは白のスポーツカー、近所は水色のこの、コンパクトらしい。

「なにか食べたいものはありますか」

もし、フレンチのフルコースとか、懐石料理なんて言われたら困るけど。
でもいまはたいてい、クッキングパッドでなんとかなる。

「……カツ丼、はできるか?」

「できますけど……?」

一瞬、迷った間はなんだったのかな。
でも出てきたのは想像とは全く違い、いかにも一般男性が好きなもので驚いた。

「オムライスは?」

「大丈夫ですが……」

「焼きそばは?
たこ焼きは?
目玉焼きののったハンバーグは?
ナポリタンは?
それから……」

いきなり、マシンガンのように次々とはるくんが料理名を出してくる。

「あの!
それ全部を夕食に作るのは、ちょっと……」

「ああ、そうだな」

冷静になってくれたのはいいが、それっきり口を開かない。
私も訊くに訊けずに黙っていた。

「……今日はカツ丼でいい」

スーパーの建物が見えてきた頃、ようやくはるくんがぽつりと呟く。

「わかりました」

今日のメニューは決まったけど、さっきのはいったいなんだったんだろう……?

カートにカゴを乗せ、押そうとしたらはるくんに奪われた。

「貸せ」

ショッピングカートを押すはるくんは、意外にもよく似合っている。
おかげでここでもやっぱり、奥様方の目を奪っているけど。

「なにを買うんだ?」

「そうですね……」

野菜コーナーを回りながらあたまがくらくらしてきた。
だって、タマネギが一個で二百円もするんだよ!?
こだわりの有機栽培だからそうなるんだろうけど。
玉子だって一パック五百円とか。
高級住宅地にあるスーパーだからそうなるのはわかるけど、こんなところでお買い物とか心臓に悪すぎる。

無駄に心臓をドキドキさせながら買い物をしている私とは違い、はるくんは物珍しそうにあちこち見ていた。

「なあ。
同じ糸こんにゃくなのに、色がついているのとついてないのがあるのはなんでだ?
こんにゃくは色つきしかないのに」

そんなの、私だって考えたことがない。
答えを迷っているうちに、すぐにまたなにかを見つけて進んでいく。

「塩鯖と鯖はどう違うんだ?
塩がついているかいないかの差なら、自分で鯖を買って塩を振ればいいんじゃないか」

また答えに困ることを訊いてくる。
もっとも、私の答えなどどうでもいいようだけど。

明日の朝ごはんも買っておこうと、はるくんに訊いてみる。

「朝食はご飯派ですか、パン派ですか」

「雪花はどっちだ?」

どうして質問に質問で返してくるの?
私ははるくんに訊いているのに。

「……パンです」

「なら、パンでいい」

短くそれだけ答えて、はるくんはまた売り場を見て回っている。
〝で〟いいってなに?
ご飯がいいならご飯がいいって言えばいいのに。
でもパンでいいって言ったんだから、パンにするけど。

パンに塗るもの、と思って売り場にって見たら、そこで私は見つけてしまったのです。

――私が大好きな、レモンバター。

私の周りでは某輸入食品を主に扱うショップでしか取り扱いがなく、しかも毎日食べたら一週間程度で終わってしまう量しか入っていないのに、五百円もするもの。
当然、そんな贅沢はそうそう毎日できるわけじゃないので、特別なときにしか買わない。

それが、ここにあるのだ。
買いたい、けどここではさらに高くて六百円がついているそれをおいそれとはカゴに入れがたく。

「なに悩んでるんだ?」

黙って私が売り場を見つめ続けているものだから、はるくんは怪訝そうだ。

「ん?
レモンバター?」

私の視線の先にあるそれを、彼がひょいっと手に取る。

「これがどうかしたのか?」

「あの、それ凄く美味しくて、でも高いから、その、あの」

「六百円?
買えばいいだろ、これくらい」

ひょいひょいと売り場にあった三つ全部、はるくんはカゴに入れてしまった。

「欲しいものはなんでも買え?
さすがにヨットとか別荘とかは相談してほしいけど」

「はぁ……」

しれっとはるくんは言っているけれど。
ヨットとか別荘とか買うっていうのがわからない。
私はこのレモンバターですら、買うのを悩むのに。
でも大好きなレモンバターをこれから毎日食べられるってだけではるくんとの結婚を決めてよかった、なんて考えちゃった私は単純なのかな。
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