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第2章 可愛いってからかってるんですか?
6.一緒に出勤は勘弁してほしい……
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月曜日、電車の時間にあわせて家を出ようとしたら止められた。
「一緒に車で行けばいいだろ」
「えっと……」
いやだと言いたいが、あいにく私ははるくんに逆らうスキルを持ちあわせていない。
「……わかりました」
しぶしぶ、だけど車に乗る。
「朝は僕と一緒に出勤すればいい。
無理なときはタクシーを使え」
「あの……」
「痴漢に困ってるんだろ。
なら、無理に電車を使う必要はない」
瞬間、はるくんの顔を見上げていた。
けれど彼はなんでもない顔で真っ直ぐに前を見たまま運転している。
「……ありがとうございます」
なんではるくんが私がこの頃、痴漢に遭っているとか知っているんだろう。
ああそうか、私のことは調べたって言っていたよね。
それでもまた、痴漢に怯えながら満員電車に乗らなくていいのは助かる。
はるくんと一緒に通勤は、それはそれで問題があるけど。
会社の地下駐車場はほとんど人がいなかった。
それもそのはず、車通勤は上役たちと一部の仕事でも車を使う営業などの社員にしか許されていない。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、階段に向かおうとしたらはるくんがついてくる。
「なんで階段なんだ?」
「そのー、運動、です」
曖昧に笑って誤魔化してみる。
でも、眼鏡の奥から私を見るはるくんの目が冷たい。
「総務のある二十七階まで階段で行くつもりか」
「うっ」
地下駐車場は空調が効いていないせいだけとは思えない、汗が出てくる。
「さ、さすがにそれは。
一階までですよ。
ほら、いつも駅まで歩く分がなくなったので、その分を少しでも補えたらなーって」
一緒に地下から上がってきたなんて目撃されたら、どんなことになるかわからない。
だから階段で上がり、しれっと人に混ざってエレベーターに乗ろうと思ったんだけど……。
「じゃあ、僕も一緒に行く」
向きを変えたはるくんはあっという間に私の隣を通り過ぎ、階段へのドアノブに手をかけた。
「行かないのか」
「い、いきます」
それじゃ、意味がないんですよー、……なんて聞いてくれるはずがなく。
仲良く階段で……とかもなく。
はるくんは足が長いせいか、一段飛ばしで登っていく。
私はといえば一段ずつちょこちょこと。
当然、大幅に差ができるわけで、これなら大丈夫じゃないかな、なんて思った私が甘かった。
「抱えて登った方が速かったな。
でもそれじゃ、雪花の運動にならないか」
出口のドアを押さえて、わざわざ待っていてくださいました……。
一緒に並んでエレベーターを待っている時点でちらちらと視線が向かう。
でもそれははるくんにだけで私には全く気づいていない。
手を掴まれていなければ完全別物として扱われ、大丈夫ならしい。
初めて、空気存在の自分に感謝した。
エレベーターを先に営業部のある二十五階降りるときも、小さくじゃぁ、とはるくんは言っただけだった。
おかげで誰からも咎められることなく、私の職場である総務部にたどり着けた。
「おはよ、冬月」
「おはようございます」
席に着いたらすぐに、佐々木さんが声をかけてくれた。
「なんか朝から疲れてない?」
「そんなことないですよ。
あれかな、昨日、携帯小説に夢中になっちゃってちょっと夜更かししちゃったから」
もっともらしいことを言ってみる。
まさか、はるくんとの出勤にいろいろ緊張して疲れて、なんて言えない。
「冬月でもそんなことがあるんだ。
……ん?」
おしゃべりしながら仕事の準備をしていたら、彼女の視線が私の左手薬指で止まった。
「どったの?
これ」
「あ……」
そこには当然、はるくんが買ってくれた指環が嵌まっている。
「その。
……いつも着けておくように、って言われたので」
「彼氏?」
「えっと、……そのようなもの、です」
正確には彼氏ではなく、婚約者でいいんだと思う。
結納とかはまだだけど。
でも、そういうのは恥ずかしい。
「ふーん。
彼氏、独占欲強いんだ?」
佐々木さんはおかしそうにくすくす笑っているけど、そうなのかな。
確かにこれは、首輪みたいなものだけど。
「んー、了解。
しっかし冬月にとうとう彼氏かー。
もうこんなことできなくなるなー」
「……はい?」
どういうことか考えている間に彼女から抱きつかれた。
しかも後ろからやわやわと胸を揉んでくる。
「あの、佐々木さん!」
「きっと彼氏はこの、けしからんおっぱいが好きなんだろーなー。
それとも冬月の可愛さに気づかれたか?」
古今東西、はるくんをのぞけば私を可愛いなんていうのは佐々木さんだけだ。
なぜか配属初日、そう言って抱きつかれた。
「お前さー、こんなことされたらちーっとは抵抗しろよ?
お姉さんは心配だー」
「えっと……」
彼女のこれはただのスキンシップだって知っている。
それに、嫌じゃない。
「冬月ー、彼氏以外の人間にこんなことさせちゃダメだぞ?
たとえそれが私でも」
ようやく私の胸から手を離し、佐々木さんがにぱっと笑って顔を覗き込む。
「……わかりました」
「ん、お姉さんとの約束だ」
「もごっ!」
ポケットから出したロリポップキャンディーの包みを剥き、彼女はいきなり私の口に突っ込んだ。
「私からの祝いだ。
とっておきのイチゴミルク」
「あふぃがとうございます」
口をもごもごさせながらお礼を言うと、彼女からあたまを撫でられた。
「ほんとに冬月は可愛いなー。
彼氏ってだけでも許せないのに、結婚となかったら私、相手殴っちゃうかもなー」
彼女は笑っているが、どこまで本気なのかわからない。
結婚の話は当分、内緒にしておいた方がいいかな?
「一緒に車で行けばいいだろ」
「えっと……」
いやだと言いたいが、あいにく私ははるくんに逆らうスキルを持ちあわせていない。
「……わかりました」
しぶしぶ、だけど車に乗る。
「朝は僕と一緒に出勤すればいい。
無理なときはタクシーを使え」
「あの……」
「痴漢に困ってるんだろ。
なら、無理に電車を使う必要はない」
瞬間、はるくんの顔を見上げていた。
けれど彼はなんでもない顔で真っ直ぐに前を見たまま運転している。
「……ありがとうございます」
なんではるくんが私がこの頃、痴漢に遭っているとか知っているんだろう。
ああそうか、私のことは調べたって言っていたよね。
それでもまた、痴漢に怯えながら満員電車に乗らなくていいのは助かる。
はるくんと一緒に通勤は、それはそれで問題があるけど。
会社の地下駐車場はほとんど人がいなかった。
それもそのはず、車通勤は上役たちと一部の仕事でも車を使う営業などの社員にしか許されていない。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、階段に向かおうとしたらはるくんがついてくる。
「なんで階段なんだ?」
「そのー、運動、です」
曖昧に笑って誤魔化してみる。
でも、眼鏡の奥から私を見るはるくんの目が冷たい。
「総務のある二十七階まで階段で行くつもりか」
「うっ」
地下駐車場は空調が効いていないせいだけとは思えない、汗が出てくる。
「さ、さすがにそれは。
一階までですよ。
ほら、いつも駅まで歩く分がなくなったので、その分を少しでも補えたらなーって」
一緒に地下から上がってきたなんて目撃されたら、どんなことになるかわからない。
だから階段で上がり、しれっと人に混ざってエレベーターに乗ろうと思ったんだけど……。
「じゃあ、僕も一緒に行く」
向きを変えたはるくんはあっという間に私の隣を通り過ぎ、階段へのドアノブに手をかけた。
「行かないのか」
「い、いきます」
それじゃ、意味がないんですよー、……なんて聞いてくれるはずがなく。
仲良く階段で……とかもなく。
はるくんは足が長いせいか、一段飛ばしで登っていく。
私はといえば一段ずつちょこちょこと。
当然、大幅に差ができるわけで、これなら大丈夫じゃないかな、なんて思った私が甘かった。
「抱えて登った方が速かったな。
でもそれじゃ、雪花の運動にならないか」
出口のドアを押さえて、わざわざ待っていてくださいました……。
一緒に並んでエレベーターを待っている時点でちらちらと視線が向かう。
でもそれははるくんにだけで私には全く気づいていない。
手を掴まれていなければ完全別物として扱われ、大丈夫ならしい。
初めて、空気存在の自分に感謝した。
エレベーターを先に営業部のある二十五階降りるときも、小さくじゃぁ、とはるくんは言っただけだった。
おかげで誰からも咎められることなく、私の職場である総務部にたどり着けた。
「おはよ、冬月」
「おはようございます」
席に着いたらすぐに、佐々木さんが声をかけてくれた。
「なんか朝から疲れてない?」
「そんなことないですよ。
あれかな、昨日、携帯小説に夢中になっちゃってちょっと夜更かししちゃったから」
もっともらしいことを言ってみる。
まさか、はるくんとの出勤にいろいろ緊張して疲れて、なんて言えない。
「冬月でもそんなことがあるんだ。
……ん?」
おしゃべりしながら仕事の準備をしていたら、彼女の視線が私の左手薬指で止まった。
「どったの?
これ」
「あ……」
そこには当然、はるくんが買ってくれた指環が嵌まっている。
「その。
……いつも着けておくように、って言われたので」
「彼氏?」
「えっと、……そのようなもの、です」
正確には彼氏ではなく、婚約者でいいんだと思う。
結納とかはまだだけど。
でも、そういうのは恥ずかしい。
「ふーん。
彼氏、独占欲強いんだ?」
佐々木さんはおかしそうにくすくす笑っているけど、そうなのかな。
確かにこれは、首輪みたいなものだけど。
「んー、了解。
しっかし冬月にとうとう彼氏かー。
もうこんなことできなくなるなー」
「……はい?」
どういうことか考えている間に彼女から抱きつかれた。
しかも後ろからやわやわと胸を揉んでくる。
「あの、佐々木さん!」
「きっと彼氏はこの、けしからんおっぱいが好きなんだろーなー。
それとも冬月の可愛さに気づかれたか?」
古今東西、はるくんをのぞけば私を可愛いなんていうのは佐々木さんだけだ。
なぜか配属初日、そう言って抱きつかれた。
「お前さー、こんなことされたらちーっとは抵抗しろよ?
お姉さんは心配だー」
「えっと……」
彼女のこれはただのスキンシップだって知っている。
それに、嫌じゃない。
「冬月ー、彼氏以外の人間にこんなことさせちゃダメだぞ?
たとえそれが私でも」
ようやく私の胸から手を離し、佐々木さんがにぱっと笑って顔を覗き込む。
「……わかりました」
「ん、お姉さんとの約束だ」
「もごっ!」
ポケットから出したロリポップキャンディーの包みを剥き、彼女はいきなり私の口に突っ込んだ。
「私からの祝いだ。
とっておきのイチゴミルク」
「あふぃがとうございます」
口をもごもごさせながらお礼を言うと、彼女からあたまを撫でられた。
「ほんとに冬月は可愛いなー。
彼氏ってだけでも許せないのに、結婚となかったら私、相手殴っちゃうかもなー」
彼女は笑っているが、どこまで本気なのかわからない。
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