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第3章 好きだなんて自覚したくなかった
1.初めての旅行
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私の心は置いてけぼりで、はるくんとの生活は一見、穏やかに進んでいく。
「雪花がわざわざ、アイロンなんてかける必要ない」
「でも、はるくんが着たいって言ってたから……」
ひさしぶりに出した服が、皺だらけだと嘆いていたのははるくんだ。
明日はそれを着ていきたかったのに、って残念そうだった。
いつもならハウスキーパーの花井さんにお願いすればやっておいてくれるけど、今日はもう帰ったあとだし、明日はお休み。
だから私がアイロンがけしたんだけど。
「……はぁーっ」
はるくんの口からため息が落ちる。
そんなに私がアイロンがけするのに、問題があったのかな。
「雪花がアイロンをかけてくれたシャツなんて、そのまま取っておきたくなるだろ。
明日着るなんて無理」
眼鏡の奥で少し目を歪め、困ったようにはるくんが笑う。
またですか、なんて思った私に罪はない。
食事だけじゃなく、私がはるくんのためになにかすれば彼は酷く喜んだ。
それはもう、過剰なくらいに。
食事を毎回、写真に収めるのは継続中だし、この間はとうとう一ヶ月分を一冊にまとめた写真集まで作っていた。
寝る前のハンドクリームはもうすでに日課になっているし、なにがそんなに彼を喜ばせているのか理解できない。
「雪花はもう、明日の準備はできたのか」
「はい、だいたい」
明日から一泊二日で温泉旅行に行くことになっていた。
忙しい締め日が終わった慰労と、家事をしてくれたお礼、洗い物のせいで手が荒れているからそのお手入れを兼ねて。
とはいっても洗い物のほとんどは食洗機任せだし、毎晩のハンドクリームのおかげで手荒れなんてしていないんだけど。
「楽しみだな、雪花との旅行」
「そうですね」
昨日の帰り、はるくんは旅行用の服を買ってくれた。
あと、旅行中はちょっとだけ可愛い雪花なら許す、って。
相変わらず会社では髪はひっつめひとつ結び、長い前髪とダサい黒縁眼鏡で顔を隠している。
だってそうじゃないとはるくんが、出勤させてくれないから。
でも家では最近覚えた緩いお団子ヘアー、前髪はピンで留めて顔を出し、はるくんが買ってくれたダークブラウンの少しオシャレな眼鏡をかける。
これだとはるくんは、可愛い可愛いってスキンシップがもっと過剰になる。
ちょっとだけ可愛いはこの姿だから、少し心配でもある。
翌日の土曜日は、少しだけ早起きをした。
気候もいいし、お昼はお弁当にしようかと思って。
オシャレなのも考えたけど、オーソドックスなお弁当を作る。
おにぎり、玉子焼き、唐揚げ、たこさんウィンナー。
このひと月ちょいでわかったけど、はるくんは普通の家でよく出てくるB級グルメが好きだ。
だから今日は、ごく普通のお弁当した。
はるくん、喜んでくれるかな。
「もう雪花、起きてたのか……」
キッチンに来たはるくんは、しかめっ面で水を飲んでいる。
ときどき、睨むようになってしまうのは、どうも眼鏡をかけていてもないときの感覚で見てしまってそうなるらしい。
その感覚は私もわかるから、もう怖くない。
「あっ、えっと。
お弁当、作ったんです。
今日どこかで、食べませんか?」
本当はお昼まで内緒にしておくつもりだったけど。
テーブルの上に広げている状態で誤魔化せるはずもない。
なら、先に申告した方がいい。
「雪花が、弁当……?」
ちらっ、とあとは蓋を閉めればいい状態でテーブルの上にのったお弁当にはるくんの視線が行く。
次の瞬間、はるくんは凄い勢いでキッチンを出ていった。
……なにか問題でもあったのかな。
などと考えているうちに、光の速さではるくんが戻ってくる。
「雪花の弁当!」
手に握られた携帯で、あっという間に大撮影会がはじまった。
これは、喜んでくれているってことでいいのかな。
「今日はなんでも言うこと聞いてやるからな。
なんでも言えよ!」
まだはるくんの撮影会は続いているけど、そんなに写真撮ってメモリは大丈夫なのかな……?
準備を済ませて家を出る。
「似合ってるな、それ」
「ありがとうございます」
今日ははるくんが買ってくれた、小花柄の黒のフレアスカートに、白のアンサンブル。
前だったらこんな似合わないもの着せて嘲笑っているんだって卑屈になっていたけど、はるくんが私は可愛いんだって自信をつけてくれたから、いまは素直に受け入れられる。
「暑かったり寒かったりしたら言え」
「はい」
はるくんの手が空調を調節する。
彼の車はいつも絶妙に調整されていて、そんなこと一度も思ったことはない。
車はすぐに高速に乗る。
パーキングやサービスエリアがあるたびにはるくんは寄った。
「適度な休憩は必要だろ」
そんなことを言っているけどもしかして、私がお手洗いに行きたいとか言わないでいいようにかな。
「雪花がわざわざ、アイロンなんてかける必要ない」
「でも、はるくんが着たいって言ってたから……」
ひさしぶりに出した服が、皺だらけだと嘆いていたのははるくんだ。
明日はそれを着ていきたかったのに、って残念そうだった。
いつもならハウスキーパーの花井さんにお願いすればやっておいてくれるけど、今日はもう帰ったあとだし、明日はお休み。
だから私がアイロンがけしたんだけど。
「……はぁーっ」
はるくんの口からため息が落ちる。
そんなに私がアイロンがけするのに、問題があったのかな。
「雪花がアイロンをかけてくれたシャツなんて、そのまま取っておきたくなるだろ。
明日着るなんて無理」
眼鏡の奥で少し目を歪め、困ったようにはるくんが笑う。
またですか、なんて思った私に罪はない。
食事だけじゃなく、私がはるくんのためになにかすれば彼は酷く喜んだ。
それはもう、過剰なくらいに。
食事を毎回、写真に収めるのは継続中だし、この間はとうとう一ヶ月分を一冊にまとめた写真集まで作っていた。
寝る前のハンドクリームはもうすでに日課になっているし、なにがそんなに彼を喜ばせているのか理解できない。
「雪花はもう、明日の準備はできたのか」
「はい、だいたい」
明日から一泊二日で温泉旅行に行くことになっていた。
忙しい締め日が終わった慰労と、家事をしてくれたお礼、洗い物のせいで手が荒れているからそのお手入れを兼ねて。
とはいっても洗い物のほとんどは食洗機任せだし、毎晩のハンドクリームのおかげで手荒れなんてしていないんだけど。
「楽しみだな、雪花との旅行」
「そうですね」
昨日の帰り、はるくんは旅行用の服を買ってくれた。
あと、旅行中はちょっとだけ可愛い雪花なら許す、って。
相変わらず会社では髪はひっつめひとつ結び、長い前髪とダサい黒縁眼鏡で顔を隠している。
だってそうじゃないとはるくんが、出勤させてくれないから。
でも家では最近覚えた緩いお団子ヘアー、前髪はピンで留めて顔を出し、はるくんが買ってくれたダークブラウンの少しオシャレな眼鏡をかける。
これだとはるくんは、可愛い可愛いってスキンシップがもっと過剰になる。
ちょっとだけ可愛いはこの姿だから、少し心配でもある。
翌日の土曜日は、少しだけ早起きをした。
気候もいいし、お昼はお弁当にしようかと思って。
オシャレなのも考えたけど、オーソドックスなお弁当を作る。
おにぎり、玉子焼き、唐揚げ、たこさんウィンナー。
このひと月ちょいでわかったけど、はるくんは普通の家でよく出てくるB級グルメが好きだ。
だから今日は、ごく普通のお弁当した。
はるくん、喜んでくれるかな。
「もう雪花、起きてたのか……」
キッチンに来たはるくんは、しかめっ面で水を飲んでいる。
ときどき、睨むようになってしまうのは、どうも眼鏡をかけていてもないときの感覚で見てしまってそうなるらしい。
その感覚は私もわかるから、もう怖くない。
「あっ、えっと。
お弁当、作ったんです。
今日どこかで、食べませんか?」
本当はお昼まで内緒にしておくつもりだったけど。
テーブルの上に広げている状態で誤魔化せるはずもない。
なら、先に申告した方がいい。
「雪花が、弁当……?」
ちらっ、とあとは蓋を閉めればいい状態でテーブルの上にのったお弁当にはるくんの視線が行く。
次の瞬間、はるくんは凄い勢いでキッチンを出ていった。
……なにか問題でもあったのかな。
などと考えているうちに、光の速さではるくんが戻ってくる。
「雪花の弁当!」
手に握られた携帯で、あっという間に大撮影会がはじまった。
これは、喜んでくれているってことでいいのかな。
「今日はなんでも言うこと聞いてやるからな。
なんでも言えよ!」
まだはるくんの撮影会は続いているけど、そんなに写真撮ってメモリは大丈夫なのかな……?
準備を済ませて家を出る。
「似合ってるな、それ」
「ありがとうございます」
今日ははるくんが買ってくれた、小花柄の黒のフレアスカートに、白のアンサンブル。
前だったらこんな似合わないもの着せて嘲笑っているんだって卑屈になっていたけど、はるくんが私は可愛いんだって自信をつけてくれたから、いまは素直に受け入れられる。
「暑かったり寒かったりしたら言え」
「はい」
はるくんの手が空調を調節する。
彼の車はいつも絶妙に調整されていて、そんなこと一度も思ったことはない。
車はすぐに高速に乗る。
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