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最終章 これからも地味子の私でいた方がいいかも
5.仕事ではよろしくお願いします
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年明け、予定どおりにはるくんは社長の職に就いた。
お義父さんは引退して、以前からやりたかったパティシエを目指すらしい。
この年からやりたいことをはじめるなんて、尊敬しちゃうな。
「……?」
年明けからなんだか、微妙に調子が悪い。
「雪花、どうした?」
飲んでいたコーヒーを置いてため息をついたら、はるくんが心配そうに顔をのぞき込んだ。
「なんだかこの頃、ちょっと変で……」
上手くは言えないけど、なんか変。
だるいっていうか。
お正月にのんびりしたあとからこっち、はるくんの社長就任とかあってバタバタしていて疲れているんだろうと思っていたけど、ちょっと違うみたい。
「熱は……ないよな」
こつん、とはるくんがおでこをつけてくる。
って、それ、反対に熱が出るから!
「んー、もしかして……できた、とか」
「はい?」
できた、とはなにが?
「雪花最近、生理きた?」
はるくんは立ち上がり、なにやらごそごそと探している。
「え、えっと……」
はっきり言われると、なんだか恥ずかしい。
でもよく考えたら今月は遅れている。
「はい。
トイレ、いってこい」
手を取って渡されたのは……妊娠検査薬?
「……はい」
まさか、とは思う。
だってはるくんと初めて結ばれて、まだひと月もたっていない。
それにしてもこれっていつ、用意したのかな?
お手洗いで試してみたら、……はっきりと陽性の線が出た。
「どうだった?」
期待を隠しきれずにそわそわしているはるくんに、無言で渡す。
結果を見た途端、はるくんの顔がぱーっとお日様みたいに輝いた。
「雪花!」
いきなり、ぎゅーっと力強く抱き締められた。
それはもう、背骨の破壊も辞さないほどに。
「は、はるくん、く、苦しいです」
「あ、ごめん」
離してはくれたけど、はるくんの顔は緩みっぱなしだ。
「明日、病院行ってこい?
あ、いや、僕も一緒に……」
手帳を取ってきてはるくんはスケジュールを確認しだした。
「ひとりで行けますから」
「なにを言う!
大事な、雪花と子供のことなんだぞ。
一緒に行けるときはなるべく一緒に行きたい」
「はぁ……」
一緒に行ってなにをするのかな、って疑問はあるけど、はるくんがそうしたいんならいいか……。
翌日、病院に行ったら妊娠がわかった。
その日だけでもはるくんは大喜びで恥ずかしかったのに次の検診日、心臓が動いているのを見て先生が苦笑いするくらいの狂喜乱舞で、……これからの検診が違う意味で心配になってきた。
「夏原。
これ、社長のところに持っていってくれないか」
「わかりました」
藤島課長から書類を受け取り、社長室へ向かう。
妊娠がわかってから速攻で会社を辞めるべきだってはるくんには言われたけど、今年度いっぱいで産休に入ることにした。
でも社長夫人が同じ会社の一般社員で働いているのもあれなので、復帰はどうなるかわからないけど。
「失礼します」
「雪花!」
社長室に入ったらはるくんがすっ飛んできて、私を応接セットのソファーに座らせてくれる。
「桐谷!
雪花にお茶!
デカフェのコーヒーだぞ!」
会社でも過保護全開のはるくんにはもう、笑うしかできない。
「わざわざすまないな、持ってきてもらって」
「いえ」
はるくんは真面目だけど、もう笑うの我慢するのも限界だよ。
だってこの書類は普通に社内便で回せば済むのを、あえて私に持ってこさせているんだもん。
ちょっとでも仕事中に会いたいから、って。
「でもせっかく来てもらったのに、いまから会議なんだ。
雪花はゆっくりしてていいからな!」
桐谷主査が見ているというのに、私にちゅっと口付けを落としてはるくんはバタバタと部屋を出ていった。
はるくんがいなくなって部屋の中には桐谷主査とふたりっきりになってしまう。
「えっと……。
桐谷主任は行かなくていいんですか」
「主査だから。
昇進したの知ってるでしょ?
嫌み?」
「……すみません」
ちょっと言い間違えたら、ギロッて睨まれた。
「重要な会議じゃないから、第二秘書の風間で十分なの」
「ああ、そうですか……」
現在、はるくんにはふたりの秘書がついている。
さすが、FoSの社長だよね。
「妊娠、したらしいわね」
「……はい」
桐谷主査は私の前に座り、その長い足を組んだ。
「それで私に勝てたつもり?」
高圧的に彼女が私を見下ろしてくる。
勝った?
そんなこと、一度も思ったことがない。
むしろ――。
「私は桐谷主査を尊敬しています」
「は?」
一音発したまま、彼女が固まる。
「前にはるく……陽人さんが、一日中一緒にいたいから私を秘書にしたいと言っていました」
「ならあなたが秘書をしたらいいじゃない、私じゃなく」
はっ、と小馬鹿にしたように桐谷主査が笑う。
けれど私は首を横に振った。
「でも、秘書なんて激務、私にさせたくないって。
私には桐谷主査と同じことはできません。
仕事で陽人さんを支えることはできないんです。
だからどうか、よろしくお願いします」
心の底から感謝の気持ちであたまを下げた。
桐谷主査は黙っている。
「……あーあ。
私の負けよ、負け」
顔を上げたら彼女と目があった。
「こんなの、勝てるわけないじゃない。
張り合って損した」
彼女の手が私の前に置かれたカップを掴み、中身をずっと飲んだ。
「私も秘書のプライドがあるから、陽人をしっかり支えていっぱしの社長にしてやるわ。
でも」
ガツン、とわざとらしく音を立てて彼女がカップをテーブルの上に置く。
「家庭はしっかり、あなたが支えなさいよ?
雪花お、く、さ、ま?」
「はい」
ニヤリと、挑発的に桐谷主査が笑う。
私も彼女に負けないように、しっかりはるくんを支えよう。
――そして結婚式がやってくる。
お義父さんは引退して、以前からやりたかったパティシエを目指すらしい。
この年からやりたいことをはじめるなんて、尊敬しちゃうな。
「……?」
年明けからなんだか、微妙に調子が悪い。
「雪花、どうした?」
飲んでいたコーヒーを置いてため息をついたら、はるくんが心配そうに顔をのぞき込んだ。
「なんだかこの頃、ちょっと変で……」
上手くは言えないけど、なんか変。
だるいっていうか。
お正月にのんびりしたあとからこっち、はるくんの社長就任とかあってバタバタしていて疲れているんだろうと思っていたけど、ちょっと違うみたい。
「熱は……ないよな」
こつん、とはるくんがおでこをつけてくる。
って、それ、反対に熱が出るから!
「んー、もしかして……できた、とか」
「はい?」
できた、とはなにが?
「雪花最近、生理きた?」
はるくんは立ち上がり、なにやらごそごそと探している。
「え、えっと……」
はっきり言われると、なんだか恥ずかしい。
でもよく考えたら今月は遅れている。
「はい。
トイレ、いってこい」
手を取って渡されたのは……妊娠検査薬?
「……はい」
まさか、とは思う。
だってはるくんと初めて結ばれて、まだひと月もたっていない。
それにしてもこれっていつ、用意したのかな?
お手洗いで試してみたら、……はっきりと陽性の線が出た。
「どうだった?」
期待を隠しきれずにそわそわしているはるくんに、無言で渡す。
結果を見た途端、はるくんの顔がぱーっとお日様みたいに輝いた。
「雪花!」
いきなり、ぎゅーっと力強く抱き締められた。
それはもう、背骨の破壊も辞さないほどに。
「は、はるくん、く、苦しいです」
「あ、ごめん」
離してはくれたけど、はるくんの顔は緩みっぱなしだ。
「明日、病院行ってこい?
あ、いや、僕も一緒に……」
手帳を取ってきてはるくんはスケジュールを確認しだした。
「ひとりで行けますから」
「なにを言う!
大事な、雪花と子供のことなんだぞ。
一緒に行けるときはなるべく一緒に行きたい」
「はぁ……」
一緒に行ってなにをするのかな、って疑問はあるけど、はるくんがそうしたいんならいいか……。
翌日、病院に行ったら妊娠がわかった。
その日だけでもはるくんは大喜びで恥ずかしかったのに次の検診日、心臓が動いているのを見て先生が苦笑いするくらいの狂喜乱舞で、……これからの検診が違う意味で心配になってきた。
「夏原。
これ、社長のところに持っていってくれないか」
「わかりました」
藤島課長から書類を受け取り、社長室へ向かう。
妊娠がわかってから速攻で会社を辞めるべきだってはるくんには言われたけど、今年度いっぱいで産休に入ることにした。
でも社長夫人が同じ会社の一般社員で働いているのもあれなので、復帰はどうなるかわからないけど。
「失礼します」
「雪花!」
社長室に入ったらはるくんがすっ飛んできて、私を応接セットのソファーに座らせてくれる。
「桐谷!
雪花にお茶!
デカフェのコーヒーだぞ!」
会社でも過保護全開のはるくんにはもう、笑うしかできない。
「わざわざすまないな、持ってきてもらって」
「いえ」
はるくんは真面目だけど、もう笑うの我慢するのも限界だよ。
だってこの書類は普通に社内便で回せば済むのを、あえて私に持ってこさせているんだもん。
ちょっとでも仕事中に会いたいから、って。
「でもせっかく来てもらったのに、いまから会議なんだ。
雪花はゆっくりしてていいからな!」
桐谷主査が見ているというのに、私にちゅっと口付けを落としてはるくんはバタバタと部屋を出ていった。
はるくんがいなくなって部屋の中には桐谷主査とふたりっきりになってしまう。
「えっと……。
桐谷主任は行かなくていいんですか」
「主査だから。
昇進したの知ってるでしょ?
嫌み?」
「……すみません」
ちょっと言い間違えたら、ギロッて睨まれた。
「重要な会議じゃないから、第二秘書の風間で十分なの」
「ああ、そうですか……」
現在、はるくんにはふたりの秘書がついている。
さすが、FoSの社長だよね。
「妊娠、したらしいわね」
「……はい」
桐谷主査は私の前に座り、その長い足を組んだ。
「それで私に勝てたつもり?」
高圧的に彼女が私を見下ろしてくる。
勝った?
そんなこと、一度も思ったことがない。
むしろ――。
「私は桐谷主査を尊敬しています」
「は?」
一音発したまま、彼女が固まる。
「前にはるく……陽人さんが、一日中一緒にいたいから私を秘書にしたいと言っていました」
「ならあなたが秘書をしたらいいじゃない、私じゃなく」
はっ、と小馬鹿にしたように桐谷主査が笑う。
けれど私は首を横に振った。
「でも、秘書なんて激務、私にさせたくないって。
私には桐谷主査と同じことはできません。
仕事で陽人さんを支えることはできないんです。
だからどうか、よろしくお願いします」
心の底から感謝の気持ちであたまを下げた。
桐谷主査は黙っている。
「……あーあ。
私の負けよ、負け」
顔を上げたら彼女と目があった。
「こんなの、勝てるわけないじゃない。
張り合って損した」
彼女の手が私の前に置かれたカップを掴み、中身をずっと飲んだ。
「私も秘書のプライドがあるから、陽人をしっかり支えていっぱしの社長にしてやるわ。
でも」
ガツン、とわざとらしく音を立てて彼女がカップをテーブルの上に置く。
「家庭はしっかり、あなたが支えなさいよ?
雪花お、く、さ、ま?」
「はい」
ニヤリと、挑発的に桐谷主査が笑う。
私も彼女に負けないように、しっかりはるくんを支えよう。
――そして結婚式がやってくる。
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