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第1章 前世の婚約者ってなんですか
6.旦那様と初対面
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あっという間に土曜日はやってきた。
引っ越しは午前中だが、相手は昨日の深夜に帰国したらしいけどいいんだろうか。
引っ越し業者は雨山さんの手配で、楽々パックになっていた。
私がなにも言わなくても、業者のお兄さんと女性スタッフがどんどん荷物を詰めて運び出してくれる。
引っ越し業者を送り出し、私もタクシーで新居へと向かった。
ぼーっと窓の外を見ていたけれど、さっきからえらく長い塀が続いている。
東京のど真ん中にこんな大きな家があるんだ、なんて考えていたらタクシーが停まった。
「えっ……?」
「着きました」
すぐ近くに先ほど送り出したトラックも停まっていて、運転手は嘘を言っているわけではなさそうだ。
料金を払ってタクシーを降りる。
目の前の重厚な門から先にさらに塀が続いている。
振り返れば当然、先ほど見てきた長い塀が。
ひとり暮らしのはずだが、どれだけ大きな屋敷に住んでいるのだろう。
門の前に立てばあまりの威圧感に喉が勝手にごくりと音を立てた。
インターフォンに伸ばす指はぶるぶると震えている。
――ピンポーン。
どくん、どくん、と自分の心臓の音だけが耳に響く。
一拍おいてプッ、と相手が出た音がした。
『はい』
「あ、あ、あ、あの、その、きょ、きょぅからお、おせ、おせわに、なる、は、は、は、はる、はるか、はるかぜ、で、で、です」
『よく来たね。
ちょっと待ってて』
自動なのか、すぐにモーター音がして門の扉が開く。
『業者のトラック、そのまま入ってもらって』
「その、あの、えっと、あの、その」
引っ越し業者の人間とはもちろん、こんな具合でまともに話せなかったのだ。
まあ、彼らはそんな事態にも慣れているみたいでてきぱきと作業をしてくれたけど。
そんな具合で私が彼らに指示を出すなんて無理。
『ああそうか。
やっぱりもうちょっと待ってて』
待っていろと言われたのでおとなしく待つ。
程なくして聞き慣れない音がしてきたかと思ったら……敷地の奥からセグウェイに乗った眼鏡の男が現れた。
「待たせてごめんね、涼鳴」
男はセグウェイから降りて私の前に立った途端……額に、口付けを落とした。
「!!!!!!!!!」
顔が燃えているんじゃないかってくらい、熱い。
完全に私の情報処理能力を超え、フリーズした。
「すみません、そのままトラックで中に入ってもらっていいですか。
玄関まで行けばわかりますので」
「わかりました!」
元気よく返事した作業員たちがトラックに乗り込み、屋敷の中へ入っていく。
「涼鳴?
おーい、涼鳴?」
ひらひらと彼が私の目の前で手を振り、ようやく再起動する。
「あああああああ」
「ん?」
「そそそそそそそ」
がしかし、不具合が出ているようで、ポンコツな私のコンピュータはまともに作動しない。
「んーん?
ああ!」
なにかを考えていた彼だけど、思いついたかのように手を打ったかと思ったら、いきなり私を抱き上げてきた。
――お姫様抱っこで。
「えっ、はっ?
えっ、はっ?
えっ、はっ?」
「歩けないなら運んであげるよー」
全く状況把握ができないが、落ちるのは怖いので男の首に抱きついた。
「わーい、涼鳴が僕を抱きしめてくれたー」
男はなんだか喜んでいるが、私にはいまの状況を理解するには、学習も容量も足りなさすぎる。
身体も高熱が出ているんじゃないかってくらい熱いから、CPUも熱を持って機能低下しているはずだ。
しばらく歩いてようやく建物が見えてきた。
基本、四角い真っ白な建物はデザイナーズ住宅じゃないだろうか。
「仰せの通りやっております」
玄関の前に立っていた黒ずくめの、おひげが立派な初老の男性が恭しくあたまを下げ、戸を開けてくれた。
「うん、ありがとう、高村」
男は私を抱き抱えたまま、家の中を進んでいく。
最初のおじさん以外に数人すれ違ったけれど、あたまを下げるだけで誰もこの状況にツッコまない。
「よいしょっと」
リビングと思われる場所で男はようやく私をソファーに下ろしてくれた。
いや、リビングっていうには数十人呼んでパーティできそうなくらい広いけど。
「改めまして。
僕が涼鳴の旦那さんの、雨山清人です」
黒縁眼鏡の奥で男が笑い、さらさらと少し長めの前髪が揺れる。
白Tシャツにジーンズとラフな格好のせいか、同じ年のはずなのに大学生くらいにしか見えない。
「あ、あ、あの、は、は、はる、はるか、はるかぜ、す、すず、すず、な、です。
よ、よ、よろしく、お、おねが、い、しま、ま、す」
「んー、涼鳴は可愛いなー」
「ぴぎぃっ!」
予告も無しに男から抱きつかれ、変な声が漏れる。
「やーっと、涼鳴と会えた。
ずっと待ってたんだ、この日を」
「あの、その」
これってもしかして、父が言っていたあれ……?
「覚えてる?
僕と涼鳴は前世で婚約者だったんだよ?
でも結婚目前で戦争が起きて、結ばれることはなくて」
「はぁ……」
あ、この人は厨二病のヤバい人だ、やっぱり。
「でもまた会えた。
今度は手放さないからね、涼鳴」
「!!!!!!!!!!!」
チュッ、と男の唇が私の唇に触れる。
とうとう私は爆発して煙を噴いた……。
引っ越しは午前中だが、相手は昨日の深夜に帰国したらしいけどいいんだろうか。
引っ越し業者は雨山さんの手配で、楽々パックになっていた。
私がなにも言わなくても、業者のお兄さんと女性スタッフがどんどん荷物を詰めて運び出してくれる。
引っ越し業者を送り出し、私もタクシーで新居へと向かった。
ぼーっと窓の外を見ていたけれど、さっきからえらく長い塀が続いている。
東京のど真ん中にこんな大きな家があるんだ、なんて考えていたらタクシーが停まった。
「えっ……?」
「着きました」
すぐ近くに先ほど送り出したトラックも停まっていて、運転手は嘘を言っているわけではなさそうだ。
料金を払ってタクシーを降りる。
目の前の重厚な門から先にさらに塀が続いている。
振り返れば当然、先ほど見てきた長い塀が。
ひとり暮らしのはずだが、どれだけ大きな屋敷に住んでいるのだろう。
門の前に立てばあまりの威圧感に喉が勝手にごくりと音を立てた。
インターフォンに伸ばす指はぶるぶると震えている。
――ピンポーン。
どくん、どくん、と自分の心臓の音だけが耳に響く。
一拍おいてプッ、と相手が出た音がした。
『はい』
「あ、あ、あ、あの、その、きょ、きょぅからお、おせ、おせわに、なる、は、は、は、はる、はるか、はるかぜ、で、で、です」
『よく来たね。
ちょっと待ってて』
自動なのか、すぐにモーター音がして門の扉が開く。
『業者のトラック、そのまま入ってもらって』
「その、あの、えっと、あの、その」
引っ越し業者の人間とはもちろん、こんな具合でまともに話せなかったのだ。
まあ、彼らはそんな事態にも慣れているみたいでてきぱきと作業をしてくれたけど。
そんな具合で私が彼らに指示を出すなんて無理。
『ああそうか。
やっぱりもうちょっと待ってて』
待っていろと言われたのでおとなしく待つ。
程なくして聞き慣れない音がしてきたかと思ったら……敷地の奥からセグウェイに乗った眼鏡の男が現れた。
「待たせてごめんね、涼鳴」
男はセグウェイから降りて私の前に立った途端……額に、口付けを落とした。
「!!!!!!!!!」
顔が燃えているんじゃないかってくらい、熱い。
完全に私の情報処理能力を超え、フリーズした。
「すみません、そのままトラックで中に入ってもらっていいですか。
玄関まで行けばわかりますので」
「わかりました!」
元気よく返事した作業員たちがトラックに乗り込み、屋敷の中へ入っていく。
「涼鳴?
おーい、涼鳴?」
ひらひらと彼が私の目の前で手を振り、ようやく再起動する。
「あああああああ」
「ん?」
「そそそそそそそ」
がしかし、不具合が出ているようで、ポンコツな私のコンピュータはまともに作動しない。
「んーん?
ああ!」
なにかを考えていた彼だけど、思いついたかのように手を打ったかと思ったら、いきなり私を抱き上げてきた。
――お姫様抱っこで。
「えっ、はっ?
えっ、はっ?
えっ、はっ?」
「歩けないなら運んであげるよー」
全く状況把握ができないが、落ちるのは怖いので男の首に抱きついた。
「わーい、涼鳴が僕を抱きしめてくれたー」
男はなんだか喜んでいるが、私にはいまの状況を理解するには、学習も容量も足りなさすぎる。
身体も高熱が出ているんじゃないかってくらい熱いから、CPUも熱を持って機能低下しているはずだ。
しばらく歩いてようやく建物が見えてきた。
基本、四角い真っ白な建物はデザイナーズ住宅じゃないだろうか。
「仰せの通りやっております」
玄関の前に立っていた黒ずくめの、おひげが立派な初老の男性が恭しくあたまを下げ、戸を開けてくれた。
「うん、ありがとう、高村」
男は私を抱き抱えたまま、家の中を進んでいく。
最初のおじさん以外に数人すれ違ったけれど、あたまを下げるだけで誰もこの状況にツッコまない。
「よいしょっと」
リビングと思われる場所で男はようやく私をソファーに下ろしてくれた。
いや、リビングっていうには数十人呼んでパーティできそうなくらい広いけど。
「改めまして。
僕が涼鳴の旦那さんの、雨山清人です」
黒縁眼鏡の奥で男が笑い、さらさらと少し長めの前髪が揺れる。
白Tシャツにジーンズとラフな格好のせいか、同じ年のはずなのに大学生くらいにしか見えない。
「あ、あ、あの、は、は、はる、はるか、はるかぜ、す、すず、すず、な、です。
よ、よ、よろしく、お、おねが、い、しま、ま、す」
「んー、涼鳴は可愛いなー」
「ぴぎぃっ!」
予告も無しに男から抱きつかれ、変な声が漏れる。
「やーっと、涼鳴と会えた。
ずっと待ってたんだ、この日を」
「あの、その」
これってもしかして、父が言っていたあれ……?
「覚えてる?
僕と涼鳴は前世で婚約者だったんだよ?
でも結婚目前で戦争が起きて、結ばれることはなくて」
「はぁ……」
あ、この人は厨二病のヤバい人だ、やっぱり。
「でもまた会えた。
今度は手放さないからね、涼鳴」
「!!!!!!!!!!!」
チュッ、と男の唇が私の唇に触れる。
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