私の赤点恋愛~スパダリ部長は恋愛ベタでした~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
23 / 36
第4章 昔付き合っていた人

6.一緒にお風呂

しおりを挟む
店を出たときには九時を回っていた。
タクシーで帰るという私に、駿は通りで拾ってくれた。

「じゃ、気をつけて帰れよ」

「駿もね」

「おやすみ」

駿に見送られてタクシーは走りだす。
また佑司からいっぱい、接待嫌だ、帰りたいって入っているかなって思ったけれど、拍子抜けするくらいなにも入っていなかった。

【いまタクシーに乗りました。
いまから帰ります】

それだけ打って携帯をバッグに戻そうとしたら、ピコンと通知音が鳴った。

【俺もいまから帰る。
帰ったらチーとちゅーしたい】

莫迦っぽい内容で朝の機嫌は直ったと理解するけど、これはどうも帰ったら抱きつかれるパターンっぽい。
面倒、だけどそんなところが可愛いと思っている自分を否めない。

「ただいま……」

帰ったら、まだ佑司はいなかった。

「先にお風呂、済ませちゃう?」

その方があとから佑司がすぐにお風呂に入れるし、時間の節約になりそう。
善は急げと浴槽に栓をしてお湯を張る。

「ただいまー」

お風呂が沸いたのを告げるのと同時に、佑司が帰ってきた。

「おかえりなさーい」

佑司の唇がちゅっと触れる。
そのまま、ぐったりと抱きつかれた。

「えっ、ちょっ、重いです!」

「もー、疲れたー」

動きたい、けれど私よりずっと大きい佑司に抱きつかれて動けるはずがない。

「接待、するのもされるのも嫌いー。
顔の筋肉が固まるー。
俺、変な顔してない?」

私の肩に手を置き、その高い背をかがめてぐぃっと、佑司は顔を近づけた。

「その、普通ですけど」

「よかった」

眼鏡の奥で彼が笑う。
少しだけ顔が傾いてあ、とか思ったときにはまた、唇が触れていた。

「チーは?
チーは楽しかった?
あ、コーヒー淹れようか」

私の答える隙を与えないかのように佑司が訊いてくる。
キッチンへ向かっていく彼を慌てて追った。

「先、お風呂入ってきたらいいですよ。
ちょうど沸いたところだし。
疲れも取れますよ」

コーヒーマシーンをセットしようとしていた彼が止まり、ぐるんと勢いよく振り返った。

「チーも一緒に入るだろ」

「は?」

いや、だから、それは嫌だって前に拒否しましたよね?

「たまにはチーと、一緒に入りたい」

「えっと……」

眼鏡の向こうからめちゃくちゃ期待を込めた目がキラキラと私を見ている。
だからー、あれはダメなんだって。
一護にもあの顔されて毎回負けていたし。

「……なにもしない、バスタオル付き、なら」

「やった」

結局、一護似の佑司には勝てないのだ。

「おじゃましまーす……」

バスタオルを巻いておそるおそる、佑司の待つ浴室へ入る。

「背中、流してやるから座れ」

「えっ、あっ、いいですって!」

拒否したものの強引に椅子へ座らされた。
抵抗したけれど、簡単にバスタオルは奪われてしまう。

「ちょ、佑司!」

「はい、これで前を隠していればいいだろ」

意外とあっさりと、バスタオルを返された。
なんか、拍子抜け。

「……ありがとうございます」

バスタオルで前側を隠し、おとなしく背中を洗われた。

「チーの肌って白くてすべすべできれいだなー」

「……ん」

ちゅっ、と佑司の唇が首筋に落ち、鼻に抜けた甘い声に驚いた。
ちらっと、鏡越しに彼が私を見る。
いや、目の悪い彼が眼鏡のないいま、見えているはずがないのだけれど。

「はい、おしまい」

「ありがとうございました」

泡を流し終わったというのに、まだそこに佑司は座っている。

「あの……」

「なんなら身体全部、洗ってやるけど?
……うわっ、あぶね!」

思いっきり後ろへ振り切った拳は、空振りに終わってしまった。

バスタオルを巻き直して一緒に浴槽へ浸かる。
大きな浴槽は大人ふたり入っても余裕だった。

「チーは今日、どうだったんだ?」

「今日ですか?
今日は……」

久しぶりに駿と会って、昔のように話せた。
きっと私のことなど嫌いになっているだろうと思っていたのに。

「楽しかったですよ」

「ふーん、いいな。
チーは楽しんで。
俺はもう、空気読めない竹村サンにひやひやしっぱなしだったのに」

口を尖らせて佑司がむくれる。
確かに、竹村課長同伴で半日過ごすのはかなりきついだろう。

「んー、じゃあ、ちょっとあっち向いてください」

「なんで?
チーの顔が見えなくなるだろ」

「うっさい。
つべこべ言わずに向けっち言いよんちゃ」

「……はい」

うっすらと涙を浮かべてすごすごと佑司が私に背を向け、小さくため息が出る。
気を取り直して大きな背中に向かい、その肩に手をのせた。

「チー」

「なんですか」

「気持ちいい」

肩を揉みながら、佑司がご機嫌になっているのがわかる。
その証拠に、小さく鼻歌が出ている。

「チーと一緒にお風呂に入って、チーに肩揉んでもらえるなんて極楽だなー」

「大げさですよ」

佑司の鼻歌が浴室に響く。
それは酷く優しくて、私も仕事の疲れがほぐれていく。

「しかも、胸が当たってるとかさー」

「……!」

「うわっ!」

反射的に、彼を突き飛ばした。
バランスは崩したけれど、浴槽に掴まって無事のようだ。

「もう絶対、佑司となんかお風呂に入りませんから!」

のぼせているだけが原因じゃなく、顔が熱い。

「嘘、嘘!
お願いだからまた、一緒に入って!」

縋る佑司を振り切って先にお風呂を上がったのは、言うまでもない。


「熱い……」

ソファーでぐったりしていたら、佑司が冷たいタオルをのせてくれた。

「ちょっと長風呂したからな」

渡されたペットボトルを受け取る。
蓋はすでに、緩めてあった。

「お風呂で喧嘩なんてするもんじゃないですね……」

冷たいスパークリングウォーターが身体に染みる。
そのせいか少し、落ち着いた。

「でもチーってこう、けっこう……」

佑司の手が、まるで再現するかのように動き、かっとあたまに血が上る。

「えっ、うわっ!」

投げつけたペットボトルは簡単にキャッチされてしまった。
おかげでさらに、かっとなる。

「もう、寝る!」

「あ、俺も寝るから」

寝室に向かう私を、佑司が追ってくる。

「おやすみ、チー」

「……」

「おやすみのちゅーは?」

いつまでたっても頬にキスしない私の顔を、佑司はのぞき込んだ。

「……」

「じゃあ今日は、俺がするー」

のぞき込んだままちゅっと唇を触れさせ、離れるとおかしそうにふふっと笑った。
その笑顔で機嫌が直っている自分がいる。

「おやすみ、チー。
いい夢を」

いつものように私を抱き締めて佑司が布団に潜る。
珍しく今日は、彼の方が先に寝息を立てだした。
接待でよっぽど、疲れたのだろう。

「おやすみ、佑司」

その額に落ちかかる髪を払って、身体を寄せる。

少しずつ佑司を知って、少しずつ佑司に好意を抱いていく。
駿のときとは違う感情。
これが恋、なんだろうか。
そう、だったらいいな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

取引先のエリート社員は憧れの小説家だった

七転び八起き
恋愛
ある夜、傷心の主人公・神谷美鈴がバーで出会った男は、どこか憧れの小説家"翠川雅人"に面影が似ている人だった。 その男と一夜の関係を結んだが、彼は取引先のマネージャーの橘で、憧れの小説家の翠川雅人だと知り、美鈴も本格的に小説家になろうとする。 恋と創作で揺れ動く二人が行き着いた先にあるものは──

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

君を手放した罰は、永遠の溺愛で償う〜冷徹社長の元カノ復讐劇〜

nacat
恋愛
大学時代、夢のために別れを選んだ彼と、恋より仕事を取った私。 数年後、彼は冷徹な若手社長として私の前に現れたーー。 「もう君を逃がさない」 初恋の続きは、甘く、苦く、そして圧倒的に溺愛。 復讐と後悔、すれ違いと許しが交錯するオフィスラブ・ざまぁ×溺愛ストーリー。 業界の噂を巻き込んだ策略の中で、恋の勝者になるのはどちら?

夜の声

神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。 読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。 小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。 柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。 そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長 『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。 ノースサイド出身のセレブリティ × ☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員 名取フラワーズの社員だが、理由があって 伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。 恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が 花屋の女性の夢を応援し始めた。 最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。

処理中です...