2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第一章 一番にはなれない私

1-1

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アラームの音で目が覚めた。
しかしこれは、毎朝携帯から鳴っている音と違う。

「……何時?」

手探りで携帯を探そうと腕を伸ばしたら、なにかに当たった。
私はベッドに、ぬいぐるみの類いを置いていない。
なにか確認しようと目を開けると、富士野ふじの部長――たぶん――の顔が見えた。

「ひ……」

反射的に出そうになった悲鳴を、必死に飲み込む。

「ん……。
サクラ、ストップ……」

その声でアラームはぴたりと止まった。
この部屋のどこかに、スマートスピーカーが置いてあるのだろう。
富士野部長だと思われる男は寝返りを打ち、布団にもぐり直してまたすーすーと気持ちよさそうに寝息を立てだした。

「富士野部長……だよね?」

なぜ確定できないのかって、今の彼は眼鏡をかけていない上に、眠っているからだ。
ノー眼鏡の富士野部長なんて、私は見たことがない。

ここは富士野部長の家、状況的にたぶん事後、どうしてこんなことになっているんだっけと考えようとするが、まだ重い頭はうまく回らない。
ただおぼろげに昨晩、富士野部長に抱かれたのだというのだけは思い出した。

部長の寝顔を見ながら、これからを考える。
幸い、彼はまだ眠っているし、このまま帰って明日の月曜、素知らぬ顔で出社したらなかったことにならないだろうか?
いい考えな気がして、そろりとベッドから下りる。

「もう起きたのか」

落ちていた下着に手を伸ばしたところで声をかけられ、びくりと大きく身体が震えた。

「えっ、あっ、……はい」

まさか逃げようしていたなんて気づかれるのが怖くて、振り返れない。

「身体、大丈夫か」

「あ、はい。
……平気、です」

背後で、部長がベッドから出た気配がする。
そろりと指先で下着を引き寄せ、素早く穿いた。

「なら、いいが。
シャワー、浴びてこい?
着替えはあとでなんか持っていってやるから、とりあえずこれ着とけ」

眼鏡をかけ、黒のボクサーパンツを穿いた部長が、私に向かって落ちていたワイシャツを投げる。

「お言葉に甘えて、そうさせてもらいます」

そのシャツを拾って羽織り、昨日借りた浴室へと向かった。

昨晩と同じく浴室でシャワーを浴びながら、昨日一日を思い出す。
昨日は、姉の結婚式で、そして……。



姉の結婚式は祝福するかのように青空だった。
結婚式前、控え室では準備の済んだ姉と、花婿の裕司ゆうじさんが談笑していた。
私に気づき、姉が微笑みかけてくる。

明日美あすみ

「お姉ちゃん、裕司さん、結婚、おめでとう」

「ありがとう、明日美」

ふわりと空気に融けるように、姉が笑う。
それは女の私でもぽーっとなりそうなほど美しかった。
裕司さんが私ではなく、姉を選んだのがよくわかる。

「裕司さん、お姉ちゃんをよろしくお願いします。
お姉ちゃん、こう見えてけっこう抜けてるから」

自分の気持ちなどおくびにも出さず、ふざけるように笑ってみせた。

「知ってる。
昨日も『充電器が刺さらないの』って、自分の携帯にオレの携帯の充電コード一生懸命挿そうとしてた。
端子が違うから無理なのにな」

思い出しているのか、おかしそうに裕司さんがくつくつと笑う。
私も一緒に、笑っておいた。

「もう、裕司さんったら!」

自分の失敗を晒されて、むくれる姉も大変愛らしい。
それも、私にはないものだ。

「でもこれで、明日美ちゃんはオレの義妹になるんだよな。
今まで以上に頼ってくれよな」

ひとしきり笑って気が済んだのか、裕司さんは私に優しく微笑みかけた。

「うん、頼りにしてる、お義兄ちゃん」

にっこりと笑顔を作って答える。
私の気持ちを姉に、彼に、気づかれてはいけない。

式の時間も近づいてきたので、姉たちと別れて礼拝堂の席に座る。
裕司さんは私が高校生のとき、家庭教師だった。
彼は私を妹のように可愛がってくれたし、もしかしたらって期待もした。

――けれど。

清恵きよえさんって付き合ってる人、いるのかな?』

ふとした弾みで出た彼の言葉で、彼の目が姉に向いているのだと知った。

……ああ。
私は恋でも姉に、敵わないんだ。

ふたつ年上の姉は勉強もスポーツもできて器量もよく、みんなの憧れの的だ。
これでなにも欠点がないのなら、それが反対に欠点になって人から嫌われそうだが、適度に可愛らしく抜けている。
完璧なのにちょっとドジと、本当に完成された人間なのだ。
別に、そんな姉と比べられて親から冷遇されたとかはない。
姉も、両親も私を可愛がってくれた。
しかしいくら頑張っても姉には叶わないというのは、私のコンプレックスになった。

「……永遠の愛を誓いますか」

「はい」

真っ直ぐに前を見て、裕司さんが姉への永遠の愛を神に誓う。
もう、彼への未練を断ち切らなければいけないんだな。

私の大学入学を待って、姉と裕司さんは付き合いはじめた。
実の兄のように慕いながら、自分の気持ちは隠す。
裕司さんを忘れようと努力はしたが、他の男性は好きになれなかった。
そのまま大学を卒業し、社会人二年目の春。
姉と裕司さんはとうとう、結婚した。
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