2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 私の一番は……

6-6

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――その後。

「もうすぐですね」

「そうだな」

朝から準一朗さんとふたり、テレビの前でそわそわしていた。
私の企画した商品が今日、情報番組で紹介されるのだ。

「あ、始まった!」

『こちらの商品。
今、……』

ふたりで食い入るように画面を見つめる。
ほんの一分ほどだが、それでも興奮した。

「これで大ヒット間違いなしだな」

「だと、いいんですけどね」

ほんと、売れてくれたらいいんだけれど。

あのあと、商品は無事に発売。
最初はジミーな感じだったけれど、同じキャラクターの描かれた商品が複数あ
ることに気づいた人が、SNSに投稿。
自販機を回って全商品を集める人まで現れた。
それから話題になり、今回の放送に繋がったわけだ。

「そろそろ出るぞー」

「はーい」

今日も準一朗さんと一緒に出社する。
準一朗さんは最近、仕事用の眼鏡を買い替えた。
今度のは上部が少し太い、スクエアのメタルハーフリムだ。
前のより威圧感を与えるので会社でのイメージとあわないが、それでいいと言
う。

「一緒の職場勤務も今日までだな」

「なんですか、淋しいんですか」

「淋しいのは明日美だろ」

からかってみせながらも、今までいつも近くにいた人が、これからいないんだ
と思うと淋しい。

「でもまあ、またすぐに一緒に仕事をするようになるしな」

「そうですね」

私は来週付で秘書課への異動命令が出ていた。
会社の規則で夫婦は同じ部署にいられないのなら仕方ない。
でも、準一朗さんももうすぐ専務に昇進って話だし、それに。
社長になれば秘書としてまた、一緒に仕事ができるようになるかもしれない。

「生野課長。
今メールを送った件、原価率がおかしいようなので確認お願いします」

「は、はい!」

準一朗さんに声をかけられ、慌てて生野課長がパソコンを操作する。
あれから生野課長は弱みを握られているからか、準一朗さんに従順だ。

『俺を陥れたいがためになにも考えずに話に乗った生野さんは自業自得だが、
それで家族まで不幸にするのは目覚めが悪いからな』

そう言って準一朗さんは、生野課長が情報を他社に売った件を握り潰してしま
った。
その代わり、他社の新製品発表日時を掴んできたんだから、上層部だって文句
はないだろう。
こうして他社よりも先んじて新製品の発表をし、無事に売り出されたというわ
けだ。



翌日の休み、役所に寄ったあとは準一朗さんと一緒に港へ向かった。
今日は私たちの結婚式なのだ。

「ほんとに貸し切ったんですね」

「そうだが?」

港には立派なクルーズ船が泊まっている。
どうせなら一生に一度、記憶に残る結婚式にしようと準一朗さんは船を貸し切
っての結婚式を提案してきた。
さすがにそれは……と思っていたが彼はノリノリで、実現したというわけだ。

「できたわよー」

杏華さんに声をかけられ、準一朗さんが控え室に入ってくる。
今日のメイクは杏華さんにお願いしていた。

「……綺麗だ」

ぽそっと呟くように言った準一朗さんは、珍しく照れているようだった。

「そう、ですか……?」

椅子から立ち上がり、杏華さんが置いてくれた姿見で全身を確認する。
そこに立っていたのはとても美しい女性だった。

「え……?」

シンプルなAラインのドレスが、私を美しく引き立てる。
サテン生地の上には全体にレースがかけられているおかげで、上品でいてなお
かつクラシカルなイメージだ。
さらに、オフショルダー部分はレース生地だけなので、首周りを女性らしく、
綺麗にみせていた。
ドレスにあわせてきっちりセットされた黒髪と、ティアラがまたよくマッチし
ている。
そしてなにより、顔が。

「凄く綺麗……」

「だろ?」

自分のことのようにドヤ顔の準一朗さんに何度も頷く。
前に杏華さんにメイクレッスンを受けたときも、メイクひとつでこんなに変わ
るものなんだと思ったが、今日の私は別人かと思うほど綺麗だった。

「力作でーす!
といっても、そんなに特殊なことはしてないのよ?
とにかく、可愛い明日美ちゃんの顔が引き立つメイクをしただけ」

杏華さんは得意げだが、それはそうだろう。

……私の顔ってまだ、こんなにポテンシャルがあったんだ。

改めて、驚いた。
姉の結婚式の日、私ではあんなに綺麗になれないと後ろ向きな気持ちだった
が、これだと姉よりも……ううん。
そもそも、姉と私を比べるのが間違っているのだ。
姉は姉、私は私。
私は、私なりに頑張って、私の一番を掴めばいい。
その、一番は――。

ホールに設置された祭壇の前、準一朗さんとふたり並ぶ。

「紀藤明日美を妻とし、永遠の愛を誓いますか」

「はい」

ちらりと私に視線を向け、準一朗さんが頷く。

「富士野準一朗を夫とし、永遠の愛を誓いますか」

隣に立つ、準一朗さんを見上げる。
目のあった彼が目尻を下げて優しく私に微笑みかけた。

「はい」

それに頷き返し、私も永遠の愛を誓う。
私の一番はもちろん、準一朗さんだ。


【終】
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