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腹パン注意!お好み焼きとの死闘
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「あー、腹減ったなー」
観ていたアニメがちょうど終わり、肩に手を置いて凝り固まった首を左右に倒す。アニメ鑑賞は唯一の趣味といえるものだが、三十代後半独身社畜の俺には週末の休みくらいしか観る時間がない。
「どーすっかなー」
長時間、集中していたせいか目の疲れを感じ、かけている黒縁眼鏡を外して鼻の付け根を揉んだ。
もう夕方といってもいい時間、作ってもいいのだが冷蔵庫の中の食材は乏しい。買いに行くくらいならいっそ、食べに出たほうが手っ取り早そうだ。
「なに食うかなー」
しかし今から、天神や博多駅まで出るのも面倒くさい。それに都心に向かうのはどこか会社へ行くようでもあり、嫌だった。
「そうだ」
とりあえずだるだるのTシャツともう何年も着古したハーフパンツを着替えつつ、ふとあれが頭をよぎっていったのは、さっき観ていたアニメが大阪が舞台なせいかもしれない。行き先を決め、俺はマンションを出た。
目的地までしばらく歩く。別にバスや西鉄電車で移動してもいいのだが、歩いても二十分もかからないので、さらに腹を空かせるためにはちょうどいい。
着いたお店はお好み焼きの『ふきや』だ。ふきやといえば福岡の有名B級グルメで、博多駅のバスセンターにある店が本店になる。俺が今日来たのは、のれん分けされた別の店だ。
「いらっしゃいませー」
店に入るとおばちゃんが声をかけてくれる。少し早い時間だからか席は空いていて、すぐにカウンターに案内された。
メニューを見ながら悩む。鉄板で焼く焼きめしや焼きそばも美味しいのだが、そこまで腹に入る自信がない。せめて大学生、いや二十代ならばと己の老化を呪ったところで若返るわけでもない。
「すみません。ミックスAで」
それでもただの肉玉とかではなく、少し豪華なのを選んだ。肉にイカ、エビと玉子が入ったヤツだ。
目の前の鉄板で親父さんがお好み焼きを焼いているのを眺めながらぼーっと待つ。鉄板の上には所狭しと何枚ものお好み焼きがのっていた。それもそのはず、持ち帰りの電話がしょっちゅう鳴っている。それほどまでに人気店なのだ。
「おまちどお」
しばらく待って、ようやく俺の前に皿が置かれた。
「きたきた」
大きな皿にはほぼ同じサイズのお好み焼きがのっている。ソースは黒く、泥のように硬い。その上に青のりが振られた、シンプルなスタイルだ。
お好み焼きをピザ切りにするか格子切りにするか論争が世間にはあるようだが、ここは格子切りだ。
一緒に運ばれてきた、黄色の容器を手に取る。中身はマヨネーズで、カロリーなど気にせずにたっぷりかけてやった。なにしろここのマヨネーズはオリジナルで、格別にうまいのだ。
「いただきます」
箸を取り、大きな口を開けて一切れ食べる。しっかり押さえて焼いてあるので、ふわふわ感などどこにもない。硬いお好み焼きに大阪人ならぶち切れそうだが、このどっしり感がいいのだ。
甘辛いソースと酸味のあるマヨネーズが口の中で混ざり、いい塩梅になる。たまに出てくる、イカとエビ、玉子を楽しみつつ食べ進めた。トッピングの玉子は、崩した目玉焼きの上にお好み焼きをのせて焼くスタイルだ。
さらに底の、少し焦げたカリカリの部分がいいアクセントになっていて、飽きない。
「そろそろ、っと」
半分まで食べ進めたところで、テーブルの上に置いてある一味の瓶を手に取った。それをお好み焼きに振りかける。いわゆる味変だ。別にカプサイシン効果とか狙っていないとも。
辛みが加わったことで食欲が刺激され、さらにもりもりと箸を進める。が、それは次第に失速していった。
「……はぁーっ」
ついに数切れを残して箸が止まり、大きなため息が出る。とにかくここのお好み焼きはボリュームが凄い。もう完全におじさんの域に入った俺にはつらかった。
「あと少し、だし」
箸を握りなおし、残りのお好み焼きを食べ始める。腹はパンパンで拷問の域に近かったが、どうにか食べきった。
「ふーっ」
水を飲んでようやくひと息つき、立ち上がる。
「ごちそうさまでしたー」
はち切れんばかりの腹を抱え、支払いをして店を出た。好き嫌いの分かれる味だが、俺はここのお好み焼きが好きだ。今日も大満足で帰ろうとしたが。
「うっ」
すぐに美味しそうなアイスの店が目に入ってくる。 俺は甘いものに目がないのだ!
足を一歩、踏み出したまま固まった。メニューにある、ミニパフェのようなそれらはキラキラして見えた。食べたい、食べたいけれど、今の俺の腹にはそんな余裕はない。
「……また、今度」
結局、諦めてとぼとぼと歩き始めた。今は満腹だから仕方ない。また、次の機会に食べればいいだけだ。
……しかし、ここに来るのはふきやでお好み焼きを食べるときくらいで、そうなると俺の腹はいっぱいなわけで。俺がアイスを食べられる日は、やってくるのだろうか?
【終】
観ていたアニメがちょうど終わり、肩に手を置いて凝り固まった首を左右に倒す。アニメ鑑賞は唯一の趣味といえるものだが、三十代後半独身社畜の俺には週末の休みくらいしか観る時間がない。
「どーすっかなー」
長時間、集中していたせいか目の疲れを感じ、かけている黒縁眼鏡を外して鼻の付け根を揉んだ。
もう夕方といってもいい時間、作ってもいいのだが冷蔵庫の中の食材は乏しい。買いに行くくらいならいっそ、食べに出たほうが手っ取り早そうだ。
「なに食うかなー」
しかし今から、天神や博多駅まで出るのも面倒くさい。それに都心に向かうのはどこか会社へ行くようでもあり、嫌だった。
「そうだ」
とりあえずだるだるのTシャツともう何年も着古したハーフパンツを着替えつつ、ふとあれが頭をよぎっていったのは、さっき観ていたアニメが大阪が舞台なせいかもしれない。行き先を決め、俺はマンションを出た。
目的地までしばらく歩く。別にバスや西鉄電車で移動してもいいのだが、歩いても二十分もかからないので、さらに腹を空かせるためにはちょうどいい。
着いたお店はお好み焼きの『ふきや』だ。ふきやといえば福岡の有名B級グルメで、博多駅のバスセンターにある店が本店になる。俺が今日来たのは、のれん分けされた別の店だ。
「いらっしゃいませー」
店に入るとおばちゃんが声をかけてくれる。少し早い時間だからか席は空いていて、すぐにカウンターに案内された。
メニューを見ながら悩む。鉄板で焼く焼きめしや焼きそばも美味しいのだが、そこまで腹に入る自信がない。せめて大学生、いや二十代ならばと己の老化を呪ったところで若返るわけでもない。
「すみません。ミックスAで」
それでもただの肉玉とかではなく、少し豪華なのを選んだ。肉にイカ、エビと玉子が入ったヤツだ。
目の前の鉄板で親父さんがお好み焼きを焼いているのを眺めながらぼーっと待つ。鉄板の上には所狭しと何枚ものお好み焼きがのっていた。それもそのはず、持ち帰りの電話がしょっちゅう鳴っている。それほどまでに人気店なのだ。
「おまちどお」
しばらく待って、ようやく俺の前に皿が置かれた。
「きたきた」
大きな皿にはほぼ同じサイズのお好み焼きがのっている。ソースは黒く、泥のように硬い。その上に青のりが振られた、シンプルなスタイルだ。
お好み焼きをピザ切りにするか格子切りにするか論争が世間にはあるようだが、ここは格子切りだ。
一緒に運ばれてきた、黄色の容器を手に取る。中身はマヨネーズで、カロリーなど気にせずにたっぷりかけてやった。なにしろここのマヨネーズはオリジナルで、格別にうまいのだ。
「いただきます」
箸を取り、大きな口を開けて一切れ食べる。しっかり押さえて焼いてあるので、ふわふわ感などどこにもない。硬いお好み焼きに大阪人ならぶち切れそうだが、このどっしり感がいいのだ。
甘辛いソースと酸味のあるマヨネーズが口の中で混ざり、いい塩梅になる。たまに出てくる、イカとエビ、玉子を楽しみつつ食べ進めた。トッピングの玉子は、崩した目玉焼きの上にお好み焼きをのせて焼くスタイルだ。
さらに底の、少し焦げたカリカリの部分がいいアクセントになっていて、飽きない。
「そろそろ、っと」
半分まで食べ進めたところで、テーブルの上に置いてある一味の瓶を手に取った。それをお好み焼きに振りかける。いわゆる味変だ。別にカプサイシン効果とか狙っていないとも。
辛みが加わったことで食欲が刺激され、さらにもりもりと箸を進める。が、それは次第に失速していった。
「……はぁーっ」
ついに数切れを残して箸が止まり、大きなため息が出る。とにかくここのお好み焼きはボリュームが凄い。もう完全におじさんの域に入った俺にはつらかった。
「あと少し、だし」
箸を握りなおし、残りのお好み焼きを食べ始める。腹はパンパンで拷問の域に近かったが、どうにか食べきった。
「ふーっ」
水を飲んでようやくひと息つき、立ち上がる。
「ごちそうさまでしたー」
はち切れんばかりの腹を抱え、支払いをして店を出た。好き嫌いの分かれる味だが、俺はここのお好み焼きが好きだ。今日も大満足で帰ろうとしたが。
「うっ」
すぐに美味しそうなアイスの店が目に入ってくる。 俺は甘いものに目がないのだ!
足を一歩、踏み出したまま固まった。メニューにある、ミニパフェのようなそれらはキラキラして見えた。食べたい、食べたいけれど、今の俺の腹にはそんな余裕はない。
「……また、今度」
結局、諦めてとぼとぼと歩き始めた。今は満腹だから仕方ない。また、次の機会に食べればいいだけだ。
……しかし、ここに来るのはふきやでお好み焼きを食べるときくらいで、そうなると俺の腹はいっぱいなわけで。俺がアイスを食べられる日は、やってくるのだろうか?
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