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第十三章 憧れの上司は御曹司でした
13-3
由姫ちゃんとCOCOKAさんを送っていき、龍志とふたりになる。
「いつ結婚するのかって聞かれちゃいましたね」
「そうだな」
それっきり龍志はなにも言わない。
居心地の悪さになにか言わねばと私が焦り始めた頃、ようやく彼が口を開いた。
「……結婚、するか」
「え?」
ぽつりと呟かれた言葉がなにを意味するのかわからず、彼の顔を見ていた。
しかし龍志は真面目な顔で真っ直ぐに前を見て運転していて、なにを考えているのかわからない。
「今度の旅行先、俺も調べたんだ。
観光客向けに疑似結婚式を挙げられるところがあるらしい。
そこで結婚式、挙げるか」
たとえ疑似でも、龍志と結婚式を挙げられる。
そんなの、本当にいいんだろうか。
「ま、考えといてくれ」
「……する」
「ん?」
「龍志と結婚、する」
いつまで龍志と一緒にいられるのかわからない。
だったら、思い出を作れる機会をぐずぐず考えて逃してなはらない。
「わかった。
手配しとく」
龍志の声は嬉しそうで、けれどどこか少し湿っていた。
初めての、ふたりでの旅行を楽しみにしながら仕事をこなす。
そんな中、問題が起こった。
「宇佐神課長」
その日、龍志の前に立ったルナさん担当の男性社員はどこか、気まずそうだった。
「その、お話が」
「ん、わかった」
おどおどとうかがわれ、龍志は頷いて立ち上がった。
ふたり連れだって部署を出ていく。
もしかしてルナさんの担当を外れたいとかかな。
あのわがままっぷりにかなり苦労しているようだし。
それで仕事を辞めたいとかだったら、可哀想だ。
「俺のほうで話つけるから、気にするな」
「はい、はい。
本当にすません」
しばらくしてふたりが戻ってくる。
男性社員はすまなそうな感じで自分の席へと行った。
龍志も自分の席に着き、目があった。
なんでもないと笑われたけれど、本当なんだろうか。
それから少しして小山田部長が凄い形相でやってきた。
「ルナがうちとの契約を切るとは、どういうことだ!」
部署内に響き渡る声で彼が宇佐神課長に怒鳴り、その場にいた全員がざわめいた。
「しかも原因はあの、井ノ上くんということじゃないか!」
部長の指が私を指し、驚いた。
私が原因って、なに?
それこそ青天の霹靂だ。
「どういうことか説明してもらおうか!」
つばを飛ばしてさらに部長が怒鳴り、龍志はあきらかに面倒臭そうにため息をついた。
「それについては現在、調査中です。
わかり次第、ご報告いたしますので少々お待ちください」
立ち上がった龍志は部長の肩を掴み、ぐいぐい押していく。
「おい、調査中ってオレは事実関係の説明を……!」
「ですから。
現在、調査中です。
きちんと調べてからご報告しますので」
「おい。
おいって、おい!」
部長を無視して龍志はそのまま、部屋の外へと彼を追いやった。
小山田部長がいなくなり、しんとなる。
「小山田部長にも言ったが、この件は現在、調査中だ。
はっきりとどういうことかわかるまでは、口外無用だ!」
「はいっ!」
みんな、声をそろえて龍志に返事をし、仕事を再開する。
私は龍志に打ち合わせスペースへと連れ出された。
「すまん、俺のせいだ」
ふたりきりになった途端、苦しそうに龍志が絞り出す。
「それってどういう……?」
イベントの日、ルナさんは龍志と結婚すると言っていた。
それがもしかして、もしかしなくても関係しているんだろうか。
「ルナは俺の、婚約者なんだ」
「……は?」
ルナさんが龍志の婚約者?
それこそわけがわからない。
いや、それよりも。
「婚約者がいるのに私と付き合ってるんですか?」
これは二股、れっきとした二股だ。
誰とも結婚する気はないとか、私を一生幸せにできないとか、あんなに思い詰めていたのは演技だったのか?
「まて。
断じて俺は二股などしていない。
ちょっと込み入った話になるから、詳しい話は帰ってからする。
とりあえずこれは俺のせいで七星には責任がない。
それだけだ」
「それだけって!」
それで納得しろって無理がある。
「すまん、俺はルナに呼びつけられたから行ってくる。
これで話がつけばいいが、つかないだろうな……」
龍志は遠い目をしたあと、本当に憂鬱そうにため息をついた。
あのルナさんと話をするだけでも疲れそうだし、その気持ちはわかる。
「今日は帰るが遅くなるかもしれん。
でも、帰ったら絶対に説明するから、待っててくれ」
「わかり、ました」
納得したわけではない。
けれど龍志が説明するというのだから待とうと決めた。
「いつ結婚するのかって聞かれちゃいましたね」
「そうだな」
それっきり龍志はなにも言わない。
居心地の悪さになにか言わねばと私が焦り始めた頃、ようやく彼が口を開いた。
「……結婚、するか」
「え?」
ぽつりと呟かれた言葉がなにを意味するのかわからず、彼の顔を見ていた。
しかし龍志は真面目な顔で真っ直ぐに前を見て運転していて、なにを考えているのかわからない。
「今度の旅行先、俺も調べたんだ。
観光客向けに疑似結婚式を挙げられるところがあるらしい。
そこで結婚式、挙げるか」
たとえ疑似でも、龍志と結婚式を挙げられる。
そんなの、本当にいいんだろうか。
「ま、考えといてくれ」
「……する」
「ん?」
「龍志と結婚、する」
いつまで龍志と一緒にいられるのかわからない。
だったら、思い出を作れる機会をぐずぐず考えて逃してなはらない。
「わかった。
手配しとく」
龍志の声は嬉しそうで、けれどどこか少し湿っていた。
初めての、ふたりでの旅行を楽しみにしながら仕事をこなす。
そんな中、問題が起こった。
「宇佐神課長」
その日、龍志の前に立ったルナさん担当の男性社員はどこか、気まずそうだった。
「その、お話が」
「ん、わかった」
おどおどとうかがわれ、龍志は頷いて立ち上がった。
ふたり連れだって部署を出ていく。
もしかしてルナさんの担当を外れたいとかかな。
あのわがままっぷりにかなり苦労しているようだし。
それで仕事を辞めたいとかだったら、可哀想だ。
「俺のほうで話つけるから、気にするな」
「はい、はい。
本当にすません」
しばらくしてふたりが戻ってくる。
男性社員はすまなそうな感じで自分の席へと行った。
龍志も自分の席に着き、目があった。
なんでもないと笑われたけれど、本当なんだろうか。
それから少しして小山田部長が凄い形相でやってきた。
「ルナがうちとの契約を切るとは、どういうことだ!」
部署内に響き渡る声で彼が宇佐神課長に怒鳴り、その場にいた全員がざわめいた。
「しかも原因はあの、井ノ上くんということじゃないか!」
部長の指が私を指し、驚いた。
私が原因って、なに?
それこそ青天の霹靂だ。
「どういうことか説明してもらおうか!」
つばを飛ばしてさらに部長が怒鳴り、龍志はあきらかに面倒臭そうにため息をついた。
「それについては現在、調査中です。
わかり次第、ご報告いたしますので少々お待ちください」
立ち上がった龍志は部長の肩を掴み、ぐいぐい押していく。
「おい、調査中ってオレは事実関係の説明を……!」
「ですから。
現在、調査中です。
きちんと調べてからご報告しますので」
「おい。
おいって、おい!」
部長を無視して龍志はそのまま、部屋の外へと彼を追いやった。
小山田部長がいなくなり、しんとなる。
「小山田部長にも言ったが、この件は現在、調査中だ。
はっきりとどういうことかわかるまでは、口外無用だ!」
「はいっ!」
みんな、声をそろえて龍志に返事をし、仕事を再開する。
私は龍志に打ち合わせスペースへと連れ出された。
「すまん、俺のせいだ」
ふたりきりになった途端、苦しそうに龍志が絞り出す。
「それってどういう……?」
イベントの日、ルナさんは龍志と結婚すると言っていた。
それがもしかして、もしかしなくても関係しているんだろうか。
「ルナは俺の、婚約者なんだ」
「……は?」
ルナさんが龍志の婚約者?
それこそわけがわからない。
いや、それよりも。
「婚約者がいるのに私と付き合ってるんですか?」
これは二股、れっきとした二股だ。
誰とも結婚する気はないとか、私を一生幸せにできないとか、あんなに思い詰めていたのは演技だったのか?
「まて。
断じて俺は二股などしていない。
ちょっと込み入った話になるから、詳しい話は帰ってからする。
とりあえずこれは俺のせいで七星には責任がない。
それだけだ」
「それだけって!」
それで納得しろって無理がある。
「すまん、俺はルナに呼びつけられたから行ってくる。
これで話がつけばいいが、つかないだろうな……」
龍志は遠い目をしたあと、本当に憂鬱そうにため息をついた。
あのルナさんと話をするだけでも疲れそうだし、その気持ちはわかる。
「今日は帰るが遅くなるかもしれん。
でも、帰ったら絶対に説明するから、待っててくれ」
「わかり、ました」
納得したわけではない。
けれど龍志が説明するというのだから待とうと決めた。
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