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第三章 僕のにゃんこになるかい?

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週明けもいつもどおり仕事をする。
早く帰ってコンペのプレゼン資料作りたいけれど、残業次第かなー。

「篠永さんのコンペの一次を通過したヤツ、誰かの案を盗んだものなんですってねぇ」

休憩所で昼食を食べていたら、すぐ傍に座ったいつもの女性社員が、ねちっこい声をわざとらしく上げる。
おかげで、その場にいた全員の目が私に集中した。

「いつも男に実績を作ってもらってるから、いいアイディア出なくて盗んだんだぁ?」

彼女が、なにを言っているのかわからない。
私が、盗んだ?
そんな証拠がどこにあるというんだろう?

「そーよねー、コンペでいい案出さなきゃ、いつもの実績は自分で作ってるんじゃなくて、誰かに作ってもらってるってバレちゃうもんねぇ」

私の戸惑いを無視して、彼女は話を続けていく。
どうして私が、こんな誹謗中傷されて、盗人呼ばわりされなきゃいけないんだろう。
悔しい、私だって頑張って、自分で実績を作っているのに。
俯いて硬く、唇を噛みしめた。

「あらぁ?
なんで黙ってるのぉ?」

その瞬間、私の中でなにかがぷちんとキレた。
バン! と私が力一杯、テーブルを叩いた音が響き渡る。
おかげで、辺りは再生停止ボタンを押したかのように、すべてが止まった。

「私は盗んでなんかいません。
どうしていつも、事実を歪めて私を貶めるんですか?
もう、やめてください」

しかし、私から出た声は酷く小さくて、震えていた。

「生意気言って、すみませんでした」

彼女に頭を下げ、食べかけのお弁当とランチバッグなどをまとめて抱えてその場を逃げだす。
すぐ後ろから彼女が怒りで吠える声が追ってきた。

誰もいない備品倉庫に逃げ込み、棚に寄りかかってずるずると座り込む。
あれが、今の私の精一杯。
それでも、きちんと反論して、自分の意見が言えただけいいじゃないか。

「……頑張ったよ、私」

ぐちゃぐちゃになったお弁当箱に蓋をしなおし、ランチバッグにしまう。
マグボトルから温かいお茶を飲んで、少しだけ落ち着いた。

「あーあ」

誰かに、慰められたい。
一番に思い浮かんだのは……駒木さんの顔だった。
こんなこと、頼んでもいいだろうか。
もしかしたら反対に、ちゃんと身の潔白を証明しない私が悪いと言われるかもしれない。
そんな後ろ向きな考えが湧いてくる。
でも、駒木さんはいつも、私の話を真面目に聞いてくれた。
きっと、大丈夫。

携帯を出し、画面に指を走らせる。

【ちょっとつらいことがあったので、慰めてくれませんか】

ちょうどタイミングがよかったのか、送ってすぐに既読になった。

【いいよ。
食事に行こうか】

ありがとうとスタンプを返したら、すぐに元気出してねとスタンプが返ってきた。
この眼鏡男子のスタンプ、ちょっと駒木さんに似ているんだよね。
髪型と眼鏡が同じだからかな。
少し元気が出て、画面を閉じようとして気づいた。
〝慰めてください〟ってもしかして、〝抱いてください〟と取られていないよね……?
いやいや、私は駒木さんを信じるよ。

午後から職場の空気は最悪だった。
例の女性社員はカリカリしているし。
私は噂の的だし。

「オレは篠永さんを信じて……ひぃっ!」

書類を渡しにきた男性社員が声をかけてくれたものの、眼光鋭く女性社員に睨まれて後ずさりしていく。
もうそれに、ため息しか出なかった。

夕方になって、課長から呼ばれた。
会議室でふたりっきりなんて、あの話しかないだろう。

「コンペの一次通過した篠永のアイディア、誰かから盗んだという噂があるようだが……」

私を前にし、言いにくそうに課長が切り出してくる。

「盗んでなんかいません。
あれは、私のアイディアです」

あの、オーダーメイド御朱印帳のアイディアは、私が自分で考えた。
一生懸命考えて出したあれを、盗んだものだなんて言わせない。

「そう、だよな」

私の返答を聞いて課長は、あきらかにほっとした顔をした。

「アイツにもどうして知っているのか聞いても、人から聞いたの一点張りだし。
そいつは誰だって聞いても答えないし。
ただの出任せだろ。
わかった、もういい。
上にもそう報告しておく」

すぐに解放され、会議室を出る。
出たところで視線を感じてそちらを見ると、彼女が親指の爪をガリガリと噛みながら、憎々しげに私を睨んでいた。

「……覚えてなさい」

横を通り過ぎる際、恨みのこもった声が耳に届き、震えた。
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